作曲家・立山秋航 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第30回)

2019年02月10日 10:000

「作品のため呼ばれた作曲家」として「作品ならではの音楽」を


─そのほかに、立山さんこだわりの制作方法はありますか?


立山 「その作品ならではの音楽」を作ることを常に意識して、曲を書いています。その部分を意識せずに、たとえば「カッコいいバトル曲」とか「泣ける心情曲」とかいうふうに、曲を単体でとらえて劇中で流すだけなら、正直なところ、フリー音源でもまかなえると思うんですよ。フリー音源にもよい曲はたくさんありますし。


だから僕は、「その作品のため呼ばれた作曲家」として、どんなアイデアを出せるか、どんな仕掛けを音楽に盛り込んでいけるか、を常に考えています。そうして出たアイデアを、監督やプロデューサーとたくさんキャッチボールして、最終的にでき上がった劇伴全体が、「この音楽は、このアニメのために作られた音楽だよね。ほかでは代えられないよ」と思ってもらえるような、曲作りをしたいと思っているんです。


─「作品ならではの音楽」かどうか判断するのは、プロでも相当難しいですよね。


立山 難しいんですけど、自分が書いた曲をいいか悪いかジャッジする際、作曲家視点でしないように心がけています。作曲家目線で曲をジャッジしだすと、聴いたことのないメロディの曲とか、編成がデカくて派手な曲とか、ジャッジの方向性がどうしても「目新しさ」や「足し算」のほうにばかりに行っちゃうんですよね。それはそれで音楽のジャッジの大きな柱のひとつなんですけど、いかにそこじゃない視点を持てるか。監督の目線だったり、プロデューサーの目線だったり、音響監督の目線だったり、作曲家じゃない人たちが聴いた時のジャッジで曲を書けたほうが、劇伴作家としてよいと思います。


極論ですけど、ピアノをポーンと1音だけ弾いて、「よし! この1音でこのシーンのこのヒロインの感情は表現できた!」と思えたら、監督に「この1音が僕の曲です」、「この1音でこのシーンは成立させることができます」って出せるぐらいの勇気が欲しいんです。作曲家目線でいくと、「カッコいい曲ができたから使ってほしい」とか、「こんな音楽作れる人、なかなかいないよ?」とか、真逆の方向に行っちゃうんですよ。だけどそこは、劇伴作家にはあまり求められていないと思っていまして、それよりも引きの美学、音楽なんて1音でもいいんだよ、というセンスのほうがプロとして求められている、と僕は思います。

 

アプローチが異なる「けものフレンズ」と「ゆるキャン△」


─「ゆるキャン△」は本栖湖、四尾連湖、朝霧高原など、舞台のキャンプ場ごとにテーマ曲が用意され、まさに「作品ならではの音楽」でした。


立山 そうですね。そして、そのキャンプ場のメロディを、いろんなパターンでアレンジしているのも、「『ゆるキャン△』ならでは」の作り方です。単体の曲をいくつも書くんじゃなくて、1個のメロディを楽しげにアレンジしたり、ひとりで寂しげにいるシーンで使うようにアレンジしたりしています。


─「おしゃべりとマグカップ」は口笛が印象的な、朗らかな楽曲に仕上がっています。


立山 この曲は「楽しげな曲」といったオーダーでした。口笛を使ったのは、作品の雰囲気に合うなと思ったのと、昔のフランス映画の劇伴とかでも使われていて、僕もサウンド感が気に入っているからです。楽しげだし、古きよき映画音楽を踏襲している感じも好きで、劇伴音楽のマナーを意識している、というのもちょっとあるかもしれません。


─「しまりん団子のテーマ」もかわいらしくて、映像にマッチしていました。


立山 京極監督から「ここのシーンに音楽をつけたい」と言われていたんですけど、僕からも「画に合わせたほうが、おもしろいと思いますよ」と提案して、フィルムスコアリングにしていただきました。12話のオンエアの1週間ぐらい前に「しまりん団子」の映像をいただいて、最初はお団子を食べている雰囲気に合う、無難な和風の曲をつけようとしていたんですが、映像を何度も観ていると、ああいうふうに子どもたちが「おだんご♪ おだんご♪」と歌っているほうがおもしろいなと思って、あの曲を書きました。


─「けものフレンズ」のCパートでは、アライさんとフェネックが登場し、その時は「さわがしい 2 匹」が流れていました。あの曲も作品にぴったりの曲でした。


立山 この曲の時は、アライさんとフェネックの第1話のアフレコデータをいただいて、「こういうキャラが、こんな感じで演技をしている中で、曲をつけてほしい」とたつき監督からオーダーがありました。それで前半部分は怪しげで緊張感ある雰囲気なんだけど、後半からはドタバタが始まる、といった感じの曲になりました。アフレコから曲を作るというのは、かなりレアなケースなんですよ。


─「へやキャン」のスコアについてはいかがでしょうか?


立山 監督からいただいたメニューに「へやキャン用の曲」があり、4、5曲欲しいということでした。「へやキャン」は本編とは関係なく気軽に楽しめるCパート、おまけのようなパートで、そこがおもしろいところなので、「へやキャン」らしい音楽って何かな?と考えて作ったのがああいう、ピアノラウンジ風でシンプルな曲になります。

 

 

 

劇伴は、演奏技術が上手でないことすら武器になる


─愛用の楽器はありますか?


立山 僕が人よりもちょっと楽器を持っているとしたら、ギター系の撥弦(はつげん)楽器ですかね。エレキはもちろん、ガットギター、スチール弦ギター、マンドリン、ウクレレ、バンジョー、ブズーキと……、大体持っていますね。


─ひょっとして、「ゆるキャン△」で使用されたマンドリンやバンジョーも自前ですか?


立山 はい(笑)。楽器は自前で、演奏したのも僕です。エレキは打ち込みでもなんとかそれっぽい音が出せるんですが、アコースティックの質感は、弾くしかないんです。僕はギターやマンドリンのプロではないですけど、まず自分が楽器を持って弾いてみてそこから曲想をふくらませていかないと、なかなかしっくりくる曲にならないんです。そういう意味でたくさん持っていますね。


─「ソロキャン△のすすめ」、「おしゃべりとマグカップ」、「野クルの時間 (わちゃわちゃわちゃっ!!)」、「へろりんぱ」、「うんちくかんちく」などで聴こえてきた撥弦楽器は、すべて立山さんの演奏だったのですね! 


立山 いわゆるプロのすごく流暢で非の打ちどころがない完璧な演奏が、必ずしも一番いいことではない、と思っています。作曲もそうですけど、演奏も100人いたら100通りで、その人にしか絶対に出せない音があって、特に劇伴だと、演奏技術が上手でないことすらも武器になると思うんです。ヒットチャートのポップミュージックだとあんまり許されないんですけど、劇伴の場合は、同じ曲でもプロがうまく弾いたものと、子どもがめちゃくちゃに弾いたものに、優劣はないんです。ものすごくキッチリしたキャラのシーンなら前者だし、ちぐはぐなものを表現したいとか、めちゃくちゃさを表現したいとか、シュールな感じを表現したいとかであれば、後者になる。そういうところも、劇伴っておもしろいな、懐が広いな、と思いますね。


─演奏者の選定にもこだわりを感じます。バイオリニストとしては真部裕さんがいつもクレジットされていて、たとえば「ISLAND」のバイオリン曲「悲愴」は、鋭い哀感が胸に刺さる、迫真の演奏でした。


立山 真部さんはすごくいいプレイヤーで、とても信頼しています。どんなケースでも必ずいいパフォーマンスで返してくれるとわかっているので、お願いしています。


─スタジオはDAIKANYAMA MAGES. STUDIOを、よく使用しておられます。


立山 僕の参加させていただいた作品で、MAGES.さんが劇伴制作を統括していることが多く、ご厚意で使わせていただいています。アットホームなスタジオで僕は好きですね。エンジニアさんも大所帯じゃなく数人で回していただいていて、劇伴をやる前に歌ものをやっていた時からご一緒しているので、そういう意味でもやりやすいんです。


─作品参加の基準はありますか?


立山 ありません。スケジュールさえ許せば、ウェルカム!です。内容で参加を決めることはありません。ただ制作に入った後で、ジャッジする監督と同じイメージが共有できているか、求められているものは何なのか、というところで悩むことは当然あります。


─息抜きでしていることは? ウィキペディアには「あらゆる楽器の基礎練習」が趣味と書かれています。


立山 最近はあまり楽器の練習はできてないですけど、これは事実です(笑)。でも基礎練習は置いておいて、旅行とか釣りとか自転車とか飲みとか、そういったホビーはないですね。ありがたいことに、常に曲の発注をいただいていて、常に曲を書かないといけない状態なので、旅行とか行っても息抜きにならないと思うんです。ストレスを減らすためには溜まった発注を減らしていくしかないので、とにかく書いています。仕事の鬼ですね(苦笑)。

 

 

画像一覧

  • 立山秋航さん

  • 立山秋航さん

関連作品

けものフレンズ

けものフレンズ

放送日: 2017年1月10日~2017年3月28日   制作会社: ヤオヨロズ
キャスト: 内田彩、尾崎由香、本宮佳奈、小野早稀、佐々木未来、根本流風、田村響華、相羽あいな、築田行子、近藤玲奈、津田美波、藤井ゆきよ、下地紫野、大空直美、本多真梨子、國府田マリ子、三上枝織、相坂優歌、伊藤かな恵、野中藍、松井恵理子、立花理香、和多田美咲、上原あかり、七海映子、幸野ゆりあ、早野薫、三森すずこ、みゆはん、山下まみ、照井春佳、金田朋子、小林ゆう
(C) けものフレンズプロジェクト/KFPA

けものフレンズ2

けものフレンズ2

放送日: 2019年1月7日~2019年4月1日   制作会社: トマソン
キャスト: 尾崎由香、本宮佳奈、小野早稀、石川由依、小池理子、内田彩、佐々木未来、根本流風、田村響華、相羽あいな、築田行子、八木ましろ、菅まどか、山下まみ、前田佳織里、藤井ゆきよ、金子有希
(C) けものフレンズプロジェクト2A

ゆるキャン△

ゆるキャン△

放送日: 2018年1月4日~2018年3月22日   制作会社: C-Station
キャスト: 花守ゆみり、東山奈央、原紗友里、豊崎愛生、高橋李依、井上麻里奈、大塚明夫
(C) あfろ・芳文社/野外活動サークル

学園BASARA

学園BASARA

放送日: 2018年10月4日~2018年12月20日   制作会社: ブレインズ・ベース
キャスト: 中井和哉、保志総一朗、森川智之、子安武人、増田俊樹、関智一、森田成一、石野竜三、中原茂、桑谷夏子、能登麻美子、辻谷耕史、朴璐美、玄田哲章、速水奨、若本規夫
(C) CAPCOM/私立BASARA学園

ISLAND(アイランド)

ISLAND(アイランド)

放送日: 2018年7月1日~2018年9月16日   制作会社: feel.
キャスト: 田村ゆかり、阿澄佳奈、山村響、鈴木達央、佐藤利奈、茂木たかまさ、中島唯、高柳知葉、田中貴子
(C) 2015 Frontwing/PROTOTYPE/アニメISLAND製作委員会

ぱすてるメモリーズ

ぱすてるメモリーズ

放送日: 2019年1月7日~2019年3月25日   制作会社: project No.9
キャスト: 新田ひより、鳥部万里子、内山夕実、藤井ゆきよ、村川梨衣、大空直美、山本亜衣、小倉唯、花守ゆみり、久保ユリカ、戸田めぐみ、小岩井ことり、森永千才、たかはし智秋
(C) FURYU/「ぱすてるメモリーズ」製作委員会

立花館To Lie あんぐる

立花館To Lie あんぐる

放送日: 2018年4月3日~2018年6月19日   制作会社: Creators in Pack
キャスト: 津田美波、桜木アミサ、仲田ありさ、松嵜麗、小松未可子、喜多村英梨
(C) merryhachi・一迅社/立花館製作委員会

アイドル事変

アイドル事変

放送日: 2017年1月8日~2017年3月26日   制作会社: MAPPA/studio VOLN
キャスト: 八島さらら、渕上舞、上田麗奈、Lynn、久保ユリカ、仲谷明香、吉田有里、赤﨑千夏、山本希望、藤原祐規、石井康嗣
(C) MAGES. (C) アイドル事変製作委員会

くまみこ

くまみこ

放送日: 2016年4月3日~2016年6月19日   制作会社: キネマシトラス
キャスト: 日岡なつみ、安元洋貴、興津和幸、喜多村英梨
(C) 吉元ますめ・KADOKAWA刊/「くまみこ」製作委員会

下ネタという概念が存在しない退屈な世界

下ネタという概念が存在しない退屈な世界

放送日: 2015年7月4日~2015年9月19日   制作会社: J.C.STAFF
キャスト: 小林裕介、石上静香、松来未祐、後藤沙緒里、新井里美、三宅健太、堀江由衣、上坂すみれ、小倉唯
(C) 赤城大空・小学館/SOX

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。