スタッフは社会性があり、裏表のない人を
─スタッフの選定はどのようにされていますか? 「旗揚! けものみち」も「宇崎ちゃんは遊びたい!」も、安藤圭一さんとご一緒に、アニメーションプロデューサーをされています。安藤さんは、「HELLSING」の時には旭プロダクションのアニメPでしたが、「楽園追放」の時にはグラフィニカで2D制作マネージャーをされています。
吉岡 安藤は、彼が旭プロを退社した際に僕がグラフィニカに誘ったんですよ。安藤はダンガン・ピクチャーズ出身で、その後で旭プロに移ったんですけど、僕が「シャイニング・フォース EXA」(2007)のPV撮影を発注した時の担当が、安藤だったんです。その時からシンパシーを感じるものがあったので、ずっと気になっていたんです。部下から安藤が旭プロを辞めたという話を聞いた時には、すぐに本人に電話をして、グラフィニカに来てもらいました。それ以来の付き合いです。ENGIに入社してくれたのもそれだけ縁が強いのでしょうかね(笑)。今では安藤が中心になって、ENGIの作品を回しています。
─クリエイターはいかがでしょうか? 監督は、三浦和也さんを選ばれることが多いようですが。
吉岡 その理由は明確で、三浦さんはうちの看板監督なんです。三浦さんは、優秀な人材であるにも関わらず、なかなかチャンスがもらえなかった方なんです。人格者で融通が利く演出家であるがゆえに、みんなが便利屋さんみたいに使っていたんです。だから僕は、「この人はスタジオに入って、ちゃんとした体制を構築したうえで作品を作ったほうがいい」と思い、「今後も一緒にやりませんか?」と相談して、ENGIに入っていただきました。
─ほれ込んだスタッフには、吉岡さんから声をかけられるんですね。
吉岡 僕は好き嫌いがはっきりしていますね。「こいつ好き!」と思ったらすぐに自分の壁が崩れますし、「ちょっと警戒しちゃうな……」と思ったらなかなか壁が崩れない。
─どういうところを見ておられるのでしょうか?
吉岡 才能はもちろんですけど、社会性の高さも重要ですね。気づかいだとか、どこまで前に出るかだとか、相手のためを思って発言しているかだとか、そういったところですね。本心から話をしている人は信頼できます。言ってることと本心が違う、裏表のある人は、どうしても警戒してしまいます。どちらかというと、僕の周りには口ベタな人のほうが多いかもしれません。口ベタでも筋が通っていることが大切なんです。三浦さんも、打ち合わせには絶対遅刻しないし、つい上から言ってしまった時も、僕が「そんな言い方してたら、誰からも質問が来なくなりますよ」と言ったら物腰がやわらかくなったりして、対応力がある人なんです。
─「宇崎ちゃんは遊びたい!」や「探偵はもう、死んでいる。」(2021)でキャラクターデザインをされた、栗原学さんについてはいかがでしょうか?
吉岡 栗原さんは、「HELLSING」8話で作画監督をしていただいたのが最初で、一時期お付き合いがなかったんですけど、ENGIを立ち上げて、「旗揚! けものみち」でまた接点が復活しました。別のスタジオで働いていたので部分発注だったんですけど、そのうちに栗原さんから「ENGIに移籍したいです」というお話をいただいたんです。僕からは、「わかりました。でも一回、ご自身でスタジオと話をしてくださいね。向こうがENGIの代表を連れてこいと言ってきたら、僕が頭を下げに行きますから」とお話をしたところ、栗原さんのほうで話をまとめて、ENGIに移られました。
─シリーズ構成は、どのように決まったのでしょうか?
吉岡 「けものみち」は、安藤とKADOKAWAのプロデューサーから「待田さんに連絡を取りましょう」と提案がありました。僕も待田さんとは以前に作品でご一緒したことがあるので、すぐにOKしました。「宇崎ちゃん」は、「こういったほのぼのギャグものに合う人って誰だろう?」と考えた時に、KADOKAWAプロデューサーから「あおしまたかしさんはどうですか?」という意見が出て、過去作品など確認したうえで意見が一致したので、あおしまさんに連絡を取って、1回目の打ち合わせの際に即決をいただきました。
─監督やキャラクターデザイン以外のスタッフも、吉岡さんが選ばれるのですか?
吉岡 最初は僕のほうで選んでいましたけど、今は三浦監督と担当の制作Pが決めていて、僕は口を出していません。
─撮影監督の林コージローさんとは、「楽園追放」や「SHOW BY ROCK!! STARS!!」(2021)でご一緒されていますね。
吉岡 林さんとはゴンゾの時から一緒に仕事をしていて、「トリニティ・ブラッド」(2005)が最初だったと思います。
キャスティングはオーディション重視、落ち続けている人にもチャンスを
─キャスティングのほうはいかがでしょうか?
吉岡 大体のオーディションは、1人1票の多数決で決めています。推薦者がいたら、推薦枠ということでちょっとポイントを上げることもありますが、全然声が合っていなかったら、当然落とします。
─吉岡さんが推薦されたことはあるのでしょうか?
吉岡 ないですね。なかなかオーディションに受からないで困っている声優さんがいたら、「うちの作品でオーディションがあったら呼んであげるよ」と言うことはあります。でもその時にも、スタッフには「合わなかったら、バンバン落としていいよ」と言っています。落ち続けている人であってもチャンスは平等に与えられるべきだと思っていますが、やっぱり作品にとって声の合う人がやるべきで、その競争原理に介入するのはよくないと思うからです。
─新人発掘には積極的ですか?
吉岡 アニメーターなどのアーティストに関しては、「基礎力があるか」が一番重要です。基礎がちゃんとできていて、さらに応用として作監なのか演出なのか監督なのか、どこに能力があるか見極めてあげることが大切だと思います。ENGIは若手クリエイターも基本的に固定給でのスタートなので、ちゃんと全員と面談をして本人の希望も聞きながら、一緒にキャリアアップを考えています。
声優も若手を起用したい、という気持ちはあります。ですが、過去の経験から「餅は餅屋に任せるべきだ」と思うようになりました。以前、新人声優さんで決定しようと思った時に、音響会社さんから「吉岡さんはそう言うけど、これを聴いてみてくださいよ」と言われて、ベテランさんのパターンを聴いてみたら、やっぱりうまい。全然違うんですよね。「自分の考えは浅はかだったな」と反省して、それ以来、声優関係はあまり口を出さないようになりました。
「世界市場で戦う」ために海外人材を積極採用、水泳で「瞑想」も
─そのほかに、吉岡さんがこだわっていることは? 企画が決まっていることが多いそうですが、ご自身で企画書を書いたりはしないのでしょうか?
吉岡 今は書いていないですけど、ENGIが出資するようになったら、企画書も作ると思います。ゲーム会社にいた頃はしょっちゅう作っていました。プランナー時代にはヒーローものの企画書を作ったり、オリジナルシナリオを作ったり、めちゃくちゃ書いていたんですよ。今でもたまに「昔の自分はこんなこと考えてたんだな」とか思いながら、アイデアの参考資料としてゲームの企画書やシナリオを見返しています。
─Webサイトには、「スマホゲームアプリ」も事業のひとつと書かれています。ENGIはゲーム開発も行っているのでしょうか?
吉岡 うちは立ち絵イラストとSDキャラのSPINEアニメーションの制作のみを行っています。ただし、アプリの場合は、アニメーターに描いてもらっているわけではなくて、ゲームやイラストを主体に仕事をしている絵師さんにお願いしています。
─ENGIは、外国人スタッフが3割近く在籍しているのも特徴的です。コミュニケーションの問題などはないのでしょうか?
吉岡 日本人スタッフだけの場合と比べれば、若干パフォーマンスは落ちますけど、通訳を雇ったりして対応しているので、問題はありません。日本人と違って海外の人って、集団意識と個人の考えが必ずしも一致しないんですよね。「決めたことには合わせるけど、自分の考えは違います」というのをはっきり言ったりするので、僕が「なんでそう思うの?」とか突っ込んであげると、「こういう理由で反対です」とか、「海外ではこういうケースもあるんです」とか話してくれるので、新しい発見があるんですよ。あと、海外人材を求める一番の理由は、「海外の優れた人材や技術を持ってこないと、世界で戦うことなんてできない」と思っているからです。
─息抜きでしていることは?
吉岡 新型コロナが流行する前は、ちょくちょく水泳をしていました。仕事のことを考えずに、ひとりで過ごす時間が欲しくて。水泳って泳がざるをえないので、瞑想になるんですよね。水の中で手を回して、バランスを取りながら進まなきゃいけないので、ほかのことが考えられないんですよ。それが結果的に瞑想になっていて、終わったら頭の中がスッキリするんです。「水でたまった穢れを清める」といった意味合いもありますね。
─プールというのはジムですか?
吉岡 区民プールです。すごくキレイだし、朝や夕方は利用者も少なくて快適なんですよ。