アニメーション監督・神保昌登 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第45回)

2020年12月05日 13:000

スタートは、アニメ会社の「電話番」!?


─ここからはキャリアについて簡単にうかがいます。もともと、アニメ業界をご志望だったのでしょうか?


神保 そうですね。都立工芸高校を卒業して、最初はスタジオ・グラフィティで電話番をしていました。中学生の時に柔道をやっていたんですけど、その時の柔道の先生が木下ゆうきさんという方で、実は「MUSASHI -GUN道-」(2006)などの監督さんなんですよ。そのつながりで、木下さんのスタジオの電話番をやらせてもらったのが始まりです。でも、すごんで「アニメ業界に行くぞ!」というわけではなくて、木下さんから「やってみないか?」と誘われて、やってみた感じです。


─柔道は有段者ですか? 現在も柔道を?


神保 初段止まりです。今はやっていません。


─初めてのお仕事は、「それいけ!アンパンマン ルビーの願い」(2003)でしょうか?


神保 制作進行としてはそうなんですけど、その前に、グラフィティの電話番時代があります。電話を取り次いだり、お茶を用意したり、作画さんの上がりをまとめて制作会社に渡したりとか、小間使いとして働いていました。


─キャリア初期のご生活は大変でしたか? 


神保 初任給は4万でした。2万3000円のアパートを借りた時は、ちょっとおもしろかったですね(笑)。


─多くのスタジオで、制作進行は最低でも10数万円の固定給が出ていると聞くのですが……。


神保 だから自分の場合は、入り口が制作進行じゃないんですよ。小間使いをやっていた時が4万円で、その後、スタジオキャブの制作さんにスカウトされてからは、制作進行として13万円くらいいただくようになりました。

 

演出家への転向、「プリズマ☆イリヤ」で初監督


─「人KENまもる君とあゆみちゃん『世界をしあわせに』」(2005)で演出家へ転向されましたが、理由をうかがえますか?


神保 もともと「3年以内には演出になりたい」と考えていました。グラフィティからキャブに移って制作進行を始めて、その後、アニメーションプロデューサーの山本清さんがスタジオシオンを立ち上げた時に、私もくっついて行って、「Φ(ファイ)なる・あぷろーち」(2004)の制作進行をやっていました。その頃で進行経験も2年ぐらいになっていたので、私だけキャブに戻って、大賀俊二さんに「演出家として雇ってもらえませんか?」と頭を下げて、「人KENまもる君とあゆみちゃん『世界をしあわせに』」をやらせていただきました。


─師匠的な方はおられますか?


神保 固定の誰々に付いてというのはなくて、いろんな作品、いろんな方から学ばせていただいた感じです。21歳でフリーランスになって、いろんな監督さんや作画さんから教えていただきました。J.C.STAFFにはわりと長くいて、そこで渡部高志さんからもいろいろと学ばせていただきました。


─J.C.STAFFからSILVER LINK.に移られた後、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ!」で監督デビューを果たされました。


神保 「ツヴァイ!」については、アニメーションプロデューサーの金子逸人さんから最初、「シリーズディレクターをやってくれない?」と誘っていただいたんですけど、「中途半端なのは嫌なので、監督をやらせてください!」とお願いして、監督をやらせてもらいました。


─初監督作品は、シリーズものの第2期、しかも大沼心さんが総監督を、という複雑な制作体制でした。振り返ってみて、いかがですか?


神保 総監督制といっても、大沼さんからのコントロールは厳しくなかったので、自由にやらせていただきました。SILVER LINK.としても、「会社の代表作にしたい」という熱意が込められた作品だったので、予算が潤沢にあって、現場にも活気があり、やってて楽しかったですね。


─拙連載では「プリズマ☆イリヤ」の撮影監督、中西康祐さんにもお話をうかがいました(編注:https://akiba-souken.com/article/30650/)。


神保 中西さんは、信頼できる撮影監督です。「イリヤ」でもすばらしい仕事をしていただきました。「イリヤ」以外でも何度かお声がけしたんですが、スケジュールが合わなくて……。またいつか、一緒に仕事をしたいですね。

 

 

業界引退を考えた時に救ってくれた原画


─キャリア上、転機になったお仕事は?


神保 一番転機になったのは、「いちばんうしろの大魔王」(2010)第7話にコンテ・演出で参加させてもらった時です。実は「辞めようかな……」と思っていた時期でして、そこで佐藤利幸さんが割と好き放題に原画を描かれていて、演出的には食われている状態だったんですけど、私は「おもしろいな」、「まだがんばってみようかな」と思ったんですよね。


─大ヒットした「ゆるキャン△」では、オープニング「SHINY DAYS」の絵コンテ・演出をされています。「神様のメモ帳」(2011)のオープニング「カワルミライ」の絵コンテ・演出もされていますが、こうしたMV(ミュージックビデオ)の出来栄えもすばらしいですね。


神保 オープニングとかエンディングは、若手の頃からずっとやりたいと思っていた仕事のひとつでした。監督以外の人がやるのは特殊なケースが多くて、ある程度認められていないとできない仕事だったりするので、京極義昭さんや桜美かつしさんにやらせてもらえたのは、とてもうれしかったですね。


─神保さんは2018年9月13日、「合同会社PartsCraft(パーツクラフト)」という会社を立ち上げられました。差し支えなければ、起業経緯をお聞かせください。


神保 私は現在、若手を何人か指導していまして、個人事業主でやるよりは、企業としてしっかりと面倒を見ていきたいなと思い、「PartsCraft」を作りました。厚生年金とか福利厚生がちゃんとあると、若手も安心して学べるじゃないですか。あと、オリジナルコンテンツを作ったりする上で、会社として活動したほうがやりやすい、というのもありますね。

 

「柔軟な感性」で、さまざまなコンテンツに挑戦していきたい


─アニメーション監督に必要な資質能力とは何でしょうか?


神保 「柔軟な感性」ですね。私がやってきた作品だったら、かわいいものだったり、グロいものだったり、割とふつうなものだったり、いろいろあるんですけど、そうした作品に対して自分の感性をカスタマイズして、寄り添える状態にしないといけない。発想力の欠如は、一番よくないと思います。


─今後挑戦したいことは?


神保 いろんな作品、オリジナルもやりたいですね。あとは、どの媒体も簡単ということは絶対にないんですけど、小説だったり、アニメ以外のことにも挑戦してみたいなと思っています。


─PartsCraftが将来的に、アニメーション制作会社になる可能性は?


神保 信頼できるプロデューサーや仲間がいればいいんですけど……、今は考えていません。「おもしろい企画を作っていく土台にしたい」というのが、一番の目標です。


─2021年放送予定の、「アズールレーン びそくぜんしんっ!」と「盾の勇者の成り上がり シーズン2」の観どころをうかがえますか?


神保 「びそくぜんしんっ!」は、「アズールレーン」本編(2019~20)のスピンオフ作品で、キャラクターのかわいいところにスポットを当てて作っています。なので、本編の戦いをしばし忘れて、楽しんでいただければと思います。「盾の勇者」は、逆に戦いがメインですので、私もシリアスに作品と向き合い作っています。前作同様にアクションにも力を入れていますので、期待していてください。


─最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


神保 これからも頑張っていきますので、ぜひ応援のほど、よろしくお願いいたします。

 


●神保昌登 プロフィール
アニメーション監督、演出家、脚本家。合同会社PartsCraft代表社員。東京都出身。都立工芸高等学校を卒業後、合同会社スタジオ・グラフィティで下積みを経験し、有限会社スタジオキャブと株式会社スタジオシオンで制作進行を務めた後、「人KENまもる君とあゆみちゃん『世界をしあわせに』」(2005)で演出家となる。監督作品には、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」第2~4期(2014~16、ただし総監督は大沼心さん、4期は高橋賢さんと共同)、「俺がお嬢様学校に『庶民サンプル』としてゲッツされた件」(2015)、「CHAOS;CHILD」(2017)、「異世界食堂」(2017)、「川柳少女」(2019)、「へやキャン△」(2020)、「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」(2020)、「ド級編隊エグゼロス」(2020)がある。「神様のメモ帳」(2011)や「ゆるキャン△」(2018)のオープニング等、MV(ミュージックビデオ)制作でも一目置かれている。2021年は「アズールレーン びそくぜんしんっ!」 と「盾の勇者の成り上がり シーズン2」の監督に抜擢され、ファンから期待の声が寄せられている。脚本を自ら執筆し、キャラクターに寄り添った演出を心がける、多芸多才なアニメクリエイターである。


●合同会社PartsCraft(パーツクラフト) プロフィール
神保さんが2018年9月13日に設立した、アニメーションの企画・製作会社。「おもしろい企画を作る土台になること」を経営理念としており、アニメーターや演出家の後進育成も行っている。代表作には「ド級編隊エグゼロス」があり、今後も数多くの作品が発表予定となっている。


※TVアニメ「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」 公式サイト
https://colopl.co.jp/shironekoproject/animation/zero_chronicle/

※TVアニメ「ド級編隊エグゼロス」 公式サイト
https://hxeros.com/

※TVアニメ「アズールレーン びそくぜんしんっ!」 公式サイト
https://azurlane-bisoku.jp/

※TVアニメ「盾の勇者の成り上がり」 公式サイト
http://shieldhero-anime.jp/

※合同会社PartsCraft 公式HP
https://www.partscraft.site/

※神保昌登 ツイッター
https://twitter.com/masatojimbo


(取材・文:crepuscular)

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