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「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」最終話「レヴュースタァライト」が放送されました。
最終話の冒頭では、ひかりの元に向かう華恋を見送った7人の調理風景が描かれました。最終話放送直前生放送で天堂真矢役の富田麻帆さん、西條クロディーヌ役の相羽あいなさんが話していた「エビ・カニ」という謎ワードが開始20秒で回収されたのには笑ってしまいました。そういえば、東京ゲームショウ2018で流れていた「スタリラ」のLive2Dムービーで、真矢が「えっ、料理? 想像におまかせします。」とはぐらかしていたのを思い出しましたが、やっぱり真矢は調理に参加する気はなさそうです。そしてこのシーンで注目すべきは、にんじんで星を作る大場ななの姿でしょう。彼女が用意した器の数は9個。2人の帰りを信じて待つ仲間たちがいるこここそが、ひかりと華恋が帰る場所なんだと思います。
カメラは再び地下劇場へ。華恋がたどり着いた荒涼とした砂漠では、ひかりがたったひとりの運命の舞台を演じ続けていました。星を積んでは崩される姿は三途の川のほとり、賽の河原で子どもたちに課される石積みの刑罰を連想させます。死せる舞台少女の、終わりのない贖罪。
彼女の孤独な舞台を見守るキリンの足元には、瑞々しいオアシスが広がっています。ひかりの舞台である砂漠とは対称的な清浄な水の中に沈んでいるのは、7つのマント留めの星ボタン。ひかりの犠牲と引き換えに、7人の輝きは守られているということでしょうか。華恋の星は、そこにはないようです。
迎えに来た華恋の呼び声など聞こえないように、ひかりは記憶をなくしたクレールとフローラの演技を続けます。観客である華恋の声は、舞台のひかりには届かないのです。ですが舞台が終わらないなら、舞台に飛び入ってしまうのが愛城華恋という少女です。ひかりが舞台を演じ続ける意志を捨てないのであれば、同じ舞台の上で語り合うしかない。フローラの台詞を途中から自分が引き取る力技で、華恋はひかりの舞台に入りこみました。一緒に星を積んだ塔を登り、一緒に吹き飛ばされる絶望を経験します。戯曲「スタァライト」の台詞をなぞり続けていたひかりは、「ふたりの夢はかなわないのよ」の台詞でこの舞台がひとりでは成り立たないことを、いつか東京タワーでかわした約束のことを思い出してしまったように見えました。
贖罪の夜が明け、「会いたくなっちゃうじゃない」と泣きながら笑うひかりの笑顔は、別れの時のそれに重なるものでした。台詞が途切れ、東京タワーの頂上へと自らの意志で堕ちていくひかりを、追っていく華恋。その姿は、第1話でひかりに背を押されて舞台の深淵へと落ちていく華恋の姿を思い出します。違うのは、今度は華恋が自らの意志で飛び、ひかりを追いかけたことです。それはひかりとの約束に手を引かれて舞台少女の道を歩んできた華恋が、初めてみずからの意志で星をつかむことを望んだ瞬間だったのかもしれません。
戯曲「スタァライト」終章、星罪のレヴュー。哀しくも美しい2人の戦いは、ひかりが華恋のマント留めの星のボタンを「砕く」ことで決着を迎えます。華恋たちのきらめきを奪わないために全てを捧げてきたひかりですが、ひとかけらでもきらめきが残っている限り、華恋は自分を追うことを止めないとわかってしまったのかもしれません。
ですが、そんなひかりの想像を、華恋はさらに超えてきます。地の底から響くような華恋の……いえ、フローラの「ノンノンだよ」の声の重さ、強さ、あきらめの悪さ。ENCOREの戯曲「スタァライト」は、決してあきらめなかった、再び立ち上がろうとするフローラの、舞台少女の物語でした。再生産された華恋のキラめきは、約束の塔となって2つの断絶した舞台を繋ぎます。
華恋が生み出した舞台装置の名は「約束タワーブリッジ」。
タワーブリッジは、ひかりがきらめきを奪われた霧の都・ロンドンはテムズ川にかかる跳開橋です。かつては蒸気機関の水圧で開閉したメカニカルな機構は、なんとなく本作の変身バンクに似たテイストがあります。タワーブリッジはロンドン塔に連なる橋ですから、ひょっとしたらロンドン塔が英国のキリン・オーディションにおける東京タワーのような存在として対置されているのかもしれません。
「Tower Bridge」をそのまま塔の橋と解釈してしまった力技に笑いながら感嘆するとともに、ふと、テムズ川に何度も橋を架けては流され続けた様子をコミカルに描いたナーサリーライムを思い出しました。
London Bridge is broken down,
Broken down, broken down.
London Bridge is broken down,
My fair lady.
描かれているのはあの手この手で橋をかけては失敗する喜劇ですが、それは同時に何度失敗して、橋が壊れても諦めなかった人々の詩でもあります。
「My fair lady」!
言わずとしれたミュージカルのタイトルであり、大切な女性への呼びかけの言葉であり、真矢からクロディーヌへの呼びかけを思い出すものでもあります。ここまではちょっと深読みのしすぎかな…? と思っていたのですが、「ロンドン橋落ちた」のさらに古い歌詞では「My fair lady.」が「Dance over my Lady Lee, &c.」になると知って、ちょっと妄想の精度が上がった気がしました。踊りながら越えていけ、なんともぴったりな歌詞ではありませんか。
塔の橋を渡った華恋は、ひかりとともに「星摘みのレヴュー」に臨みます。それは孤独な星罪、星積みとは全く違った舞台の形です。
「星屑あふれるステージに、可憐に咲かせる愛の花 99期生愛城華恋、貴女をスタァライト、しちゃいます!」
華恋の口上は、どこかの誰かに向けたものから、たったひとりの大切な少女に向けた言葉になりました。
「生まれ変わったキラめき胸に、あふれるひかりで舞台を照らす 99期生神楽ひかり、私のすべて、奪ってみせて」
孤独のレヴューでは「たとえ悲劇で終わるとしても」と悲壮な覚悟を示していたひかりの口上は、光とキラめきに満ちた言葉に変わりました。
***
数限りないループと再生産の果てに、9人がたどり着いた第100回聖翔祭には、大場ななが演じる「9人目」が存在していました。その衣装は、どこか第99回の女神たちの衣装を思い出させます。ばななが詠うように紡いだ言葉は、おそらく彼女自身が脚本家として紡いだものでしょう。彼女が重ねてきた時間もまた、無駄ではなかった。
心が擦り切れるほど繰り返した日々も、戦いの果てにつないだ手から生まれた絆も、全ては次の舞台に注ぐ燃料になる。舞台に生かされた、どこか哀しくも美しい在り方。でもだからこそ彼女たちはそのひととき、閃光のように輝く。
それが、舞台少女なのだと思います。
(文:中里キリ)