【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第14回「有頂天家族」狸と人間と天狗の三すくみ!?ハートフルコメディ

2017年05月27日 12:000
(C) 森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会

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「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。

今回は、現在続編「有頂天家族2」が放送中の、「有頂天家族」(2013年)を取り上げます。

森見登美彦氏の小説「たぬきシリーズ」が原作で、氏のアニメ化作品としては「四畳半神話大系」に次ぐ第2作目。

現代日本の京都を舞台にした、狸と人間と天狗が織りなす大人向けのほっこりファンタジーとして、話題になりました。

狸が主人公でありながら、日頃は化けて人間社会で暮らしているため、主人公四兄弟はなかなかイケメンです。加えて、「毛玉」と称される狸たちは、ころころ・うごうごしてかわいいこと! 作中の人物関係が複雑で奥深い楽しみがあることも、大人の女性ファンをひきつけました。

続編のアニメ化を楽しみにしていた筆者が、シリーズ第1作の魅力を、改めて振り返ります。


面白きことは良きことなり! 現代の京都が舞台のファンタジー


平安遷都以来、京都には、狸(タヌキ)と天狗が人間に入り混じって暮らしているといいます。交流しては、互いに化かしあい、対立し、時には助け合ったりしているとか……!?

糾(ただす)の森に暮らす狸の名門・下鴨(しもがも)家の三男坊、矢三郎は、物事を深刻に考えすぎず、何事も楽しむことに専念する、父譲りの「阿呆の血」の持ち主。「面白きことは良きことなり!」が座右の銘で、師匠の老いた天狗・赤玉先生の面倒を見て、神通力を使う人間の美女・弁天(べんてん)に心動かされ、ライバル狸の夷川(えびすがわ)家の金閣・銀閣兄弟と張り合って、日々騒動を繰り広げています。

森見登美彦氏の小説は、ちょっと古風で独特な文体と、不思議で軽妙な世界観が特徴です。このシリーズのほか、これまでに、ノイタミナで人気を博した「四畳半神話大系」(2010年)、映画「夜は短し歩けよ乙女」(2017年)がアニメ化されています。

「有頂天家族」は、現代の日本を舞台とした、大人の鑑賞にたえるほっこりファンタジーとして、原作を知らない層にも人気の輪が広がりました。

男女問わず魅力的な作品ですが、「イケメン」と「かわいいモノ」と「笑い」の三拍子が揃ったため、癒しを求める女性ファンの心をしっかりつかみました。


ヘタレなイケメン!? 下鴨四兄弟そろい踏み


なんといっても魅力的なのは、狸の下鴨四兄弟です。

化けた姿は、イケメンぞろい……といいたいところですが、ヘタレぞろいでもあります(そこがまた、いいのですが)。亡くなった父親の下鴨総一郎は、狸界のすぐれた頭領でした。この偉大なる父の血は4つに分かれ、子どもに受け継がれることになりました。

中でも主人公である三男の矢三郎が色濃く受け継いだのは、「阿呆の血」。好奇心旺盛で、何にでも飛び込み、すべてをおもしろがり、トラブルをも笑い飛ばす。日々の悲喜こもごも、すべてを受け入れてのほほんとしている様子は、ある種の悟りの境地です。

ノーテンキをとがめられ、堅物の長男・矢一郎にはしばしば説教をくらっています。しかし、機転がきいてピンチに強く、いざというときに兄弟の中でも頼りになるのは、やはり矢三郎です。

狸界でもまれな化け上手で、女子高生やお嬢様、子ども、ダルマと変幻自在。ほかの狸にありがちな、「こんなときに化けの皮がはがれる」という弱点もない。それなのに野心がなく、人生は「面白く生きる」だけと考えている。だから阿呆といわれるんですね。

そして、長男の矢一郎が父から受け継いだのは、責任感。
次男の矢二郎が受け継いだのは、のんきさ。
四男の矢四郎が受け継いだのは、純真さ。

四兄弟たちは、それぞれがやさしく、人間くさい(というのもヘンですが)悩みを持っています。生真面目な矢一郎は長男として、「偉大の父のあとを継ぐのは自分だ」と、器の足りなさを承知のうえでがんばります。また、カエルに化けたまま元の姿に戻れなくなった、面倒くさがりやの矢二郎には、深い悩みと悲しみのあったことが明かされます。まだ幼い矢四郎は、びっくりすると化けの皮がはがれ、しっぽがぴょこんと出てしまう未熟者。

4人それぞれの良さはあっても、偉大な父と比べられると見劣りするのが、子どもたちのつらいところです。

そんな兄弟をあたたかく包むのが、母の愛。このお母さんが実にいい。泣けます。誰がなんと言おうと、息子たちを信じて見守っています。

四兄弟の関係性も見ものです。それぞれが我が道を行き、ベタベタ仲がいいわけでないところは、「男の兄弟って、実際こんなものだろうな」という感じです。

しかし家族の危機には、全力で立ち向かう。できそこないといわれた四兄弟が、それぞれに力を尽くして事態をひっくりかえすクライマックスには、それまでの悲しみをとっぱらう爽快感があります。


ほっこりだけじゃない!? かわいくて残酷で悲しくて明るい


ストーリーはほっこりコミカルに展開していきますが、同時になかなかに残酷なものをはらんでいます。

四兄弟の父、下鴨総一郎の最期は、狸鍋(たぬきなべ)の具となって、人間に食われるというものでした。

総一郎を食べたのは「金曜倶楽部」。毎年忘年会で狸鍋を食べることを恒例にしている人間のグループで、いわば狸たちの天敵です。

しかし同時に狸たちは、人の姿に化けて人間界に入りこみ、彼らと会話したり一緒に食事したりと、交流も持っています。

矢三郎は、赤玉先生の弟子であり、金曜倶楽部の一員である美女の弁天に、心惹かれてもいます。弁天は弁天で、矢三郎のことを「食べちゃいたいほど好きなのだもの」なんていうのですから、危険ですね。食べられかねない相手と会話して、心揺らされ、時には騙され、時には助けられる。不思議な関係です。

「有頂天家族」の後半では、父・下鴨総一郎の死の真実が明らかになりますが、これがかなり重くシリアスなものでした。真実を知った矢一郎は慟哭し、矢三郎は乾いた瞳で夜空を見上げます。

しかし、そこから復讐戦に突入したりしないところが、「有頂天家族」です。現実を受け入れ、憎しみに押しつぶされず、誰も責めずにやりすごしていくところが、「阿呆の血」の濃い矢三郎ならではの強さだと思えます。


狸と人間と天狗。先刻承知で語られない三すくみの関係


この話に登場する狸と人間と天狗の関係は、ひと筋縄ではいきません。誰もが大人だから、心の中で思っていることをぶっちゃけたりせず、表面上穏やかにつきあっています。

力関係でいえば、天狗は人間や狸を見下し、人間は天狗を恐れながら狸を狸鍋にして食い、狸は自由気ままに勝手し、時には人や天狗を化かすもの。

この天狗代表が赤玉先生、人間代表が弁天、狸代表が矢三郎です。

しかし面白いもので、恋は人を(狸も)弱くします。

年老いた赤玉先生は、弟子の弁天に恋い焦がれ、弁天は天狗道具を貢がせたあげく先生の元を離れて自由奔放。そして矢三郎は初恋の人である弁天を、恐れつつ今も惹かれているのです。

弁天は、謎めいた美女です。悪女といえば悪女のようだし、赤玉先生と矢三郎をもてあそんでいるようにも見えます。でも彼女は彼女で、昔天狗にさらわれた被害者でもあり、自由に生きているだけ。なんのかんのいって、赤玉先生や矢三郎への情もあるようです。

そして矢三郎にも、アニメでは詳しく語られていませんが、赤玉先生への負い目があります。「魔王杉事件」で赤玉先生を化かして騙し、怪我をさせたことが、赤玉先生が落ちぶれるきっかけになったのです。

まるでジャンケンの三すくみのように、誰もが誰かに強く、また弱い。そして、それがわかっているからこそ、矢三郎は面倒くさい赤玉先生をきちんと立て、弁天から逃げ回り、赤玉先生は矢三郎や弁天の罪を責めず、弁天はコケティッシュに微笑んで、時おり寂しさや涙を垣間見せるのです。


見ると京都に行きたくなる!


作中に登場する京都の風景は、現実にある場所ばかり。アニメを見ていると、京都に行きたくなります。

下鴨家の狸たちが住まう糺の森が近接している「下鴨神社」。
カエルになった矢二郎が住む井戸のある「六道珍皇寺」。
川沿いの風景が何度も登場している「賀茂大橋」。

夷川一家の工場がある「夷川発電所」。
偽右衛門選挙の集会が開かれた「六角堂」。
矢二郎が化けるのが得意だった「叡山電車」。

劇中で何度か登場するアーケードのある「出町桝形商店街」は、やはり京都が舞台のアニメ作品「たまこまーけっと」の舞台のモデルにもなっています。

人間と、ヒトならぬさまざまな種族が入り乱れ、魔法や妖術などの不思議が登場するファンタジーは、遠くの「ここではないどこか」が舞台になることが多いものですが、この作品の舞台は現代の日本なのが楽しく感じます。そもそも古来、妖怪や怪談といった「不思議を語る物語」は、その土地の風土に根ざし、自分たちが暮らしている現実のすぐ隣にあったものでした。

京都という、異界を感じさせる都市の魅力がふんだんに感じられる、上質なファンタジー・コメディ。続編をまたアニメで見られるのは、ファンにとって本当にうれしいことです。

「有頂天家族2」から入った人は、ぜひアニメ第1作をご覧ください。登場人物の心情や過去の話の描写が濃密なので、アニメを見てから原作小説を読むのもおすすめです。


(文・やまゆー)
(C) 森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会

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