すずさんの思いを描いた、綿毛のような音楽──コトリンゴと、映画「この世界の片隅に」

2016年11月12日 12:300

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「あの道」は、即興のピアノから作っていきました


──21曲目の「あの道」。この曲は、サントラの中でも、際立って内向的な曲になっています。

コトリンゴ エレクトリックな感じになったので、自分自身迷うところもあったんですけど、それまでオープンな雰囲気だったすずさんの音楽が、ここからだんだん内に入っていく感じが出るといいなと思って作りました。

──21曲目が使われたシーンは、原作とは演出の仕方が大きく変わっています。片渕監督からは、このシーンの音楽について、どのようなリクエストがあったのでしょうか?

コトリンゴ 言葉で説明されたのではなく、こういう絵作りになると、短い映像を実際に見せていただきました。私は映像を見ながら、即興でピアノを弾いて、それをブラッシュアップしていくという作り方をしました。

──ここからはピアノによる内省的な曲が続きます。24曲目「白いサギを追って」も、印象的なシーンで使われた曲ですね。

コトリンゴ この曲は難しかったです。すずさんがサギを追って走っていくうちに、広島の実家の、かつて海苔を干していた風景が出てくるんですよね。すずさんの内面を抽象的に描いたシーンで、いろいろなアプローチがあっただろうなと、試写で見て、改めて考えました。

──どのシーンにどんな音楽を、どのくらい付けるか。ボリュームやタイミングなどでも、映像の印象は大きく変わってきますよね。

コトリンゴ 今までやってきたサントラは、出来上がった曲をお渡ししたところで私の仕事は終わりだったんですけど、「この世界の片隅に」では、ダビングの作業にも参加させていただけたんです。サントラや歌のタイミングや長さ、セリフや効果音とのミックスを、監督さんと話し合いながら、納得できるまで作業できました。

──サントラの作曲家がダビングに参加するというのは、まれなことなのではないでしょうか?

コトリンゴ 私にとっては初めてで、試写は今までより安心して見られました。それから、監督さんの音へのこだわりも肌で感じることができました。ダビング作業しながら、B29の音はここが違うとか、焼夷弾が落ちてくる時の布の音をもっと聞かせたいとか、細かいチェックがあって。私は、自分の音楽が他の音のじゃまをしているんじゃないかと思ってしまって、監督さんに「小さくしてみてもいいですか?」と言ったりしていました。

──音楽は全編通して流れるのではなく、要所要所で効果的な使われ方をしていたと思います。

コトリンゴ 33曲目の「New day」という曲は、進駐軍のシーンで流れる、当時流行っていたアメリカのビッグバンド・ジャズという設定で作った曲で、この曲だけは時代感を意識したんです。作った自分としては、どうしても当時の音楽には聞こえなくて、音質を変えたうえに、ボリュームも絞ってもらいました。もうちょっと大きくしてもよかったのかなと思ったり、これでよかったんだと思ったりしています(笑)。

──「New Day」は本編で使われた曲ですが、他の曲とは明らかに異質なので、CDでは最後に収録されています。その前の32曲目「すずさん」が、クラウドファンディングのクレジットとともに使われた曲ですね。

コトリンゴ クラウドファンディングの映像では、同時にリンさんのことを描きたいんだよねと、監督さんから事前に聞いていたのに、私が思いっきり、タイトルを「すずさん」にしてしまったんです。昨日の初号試写の時に、「すずさんのエピソードでもあるから、このタイトルでよかったと思います」と、やさしくフォローしてくださいました(笑)。

──最後に、映画が完成した今の心境をお聞かせください。

コトリンゴ 私にとって、すごく大事な作品になりました。監督さんの並々ならぬ情熱に直接触れながら、一緒に作れたのが光栄でしたし、サウンドトラックの作曲家として、まだまだ未熟な私に任せていただけたというのは感謝しかありません。いろいろな年代の方に見ていただきたい映画ですし、これからたくさんの人に愛されるようにになっていくと思います。



コトリンゴプロフィール

1978年生まれ。神戸の甲陽音楽院卒業後、ボストンのバークリー音楽院に留学。ジャズ作・編曲/ピアノパフォーマンス科を専攻。坂本龍一のラジオ番組がきっかけで注目され、2006年11月に1stシングル「こんにちは またあした」でデビューを果たす。
2009年9月に、3rdアルバム「trick & tweet」をリリース。片渕須直監督作品「マイマイ新子と千年の魔法」主題歌「こどものせかい」が、ボーナストラックとして収録される。2010年9月、「悲しくてやりきれない」を含むカバーアルバム「picnic album 1」をリリース。
2013年夏に、バンド体制となったKIRINJIに、キーボード・ボーカル担当として加入。
サウンドトラックの仕事には、映画「新しい靴を買わなくちゃ」(坂本龍一との共同制作)、TVアニメ「幸腹グラフィティ」などがある。



■映画「この世界の片隅に」 オリジナルサウンドトラック

レーベル:FlyingDog/2016年11月9日発売

2,900円+税


〈収録曲〉

01. 神の御子は今宵しも

02. 悲しくてやりきれない(作詞:サトウハチロー 作曲:加藤和彦 編曲:コトリンゴ)

03. 引き潮の海を歩く子供たち

04. すいかの思い出

05. 周作さん

06. うちらどこかで

07. 朝のお仕事

08. 隣組(作詞:岡本一平 作曲:飯田信夫 編曲:コトリンゴ)

09. すずさんと晴美さん

10. 広島の街

11. 戦艦大和

12. ごはんの支度

13. 径子

14. 疑い

15. ありこさん

16. ヤミ市

17. りんさん

18. デート

19. 大丈夫かのう

20. お見送り

21. あの道

22. 良かった

23. 左手で描く世界

24. 白いサギを追って

25. 広島から来たんかね

26. 飛び去る正義

27. 明日も明後日も

28. すずさんの右手

29. 最後の務め

30. みぎてのうた(作詞:こうの史代・片渕須直 作・編曲:コトリンゴ)

31. たんぽぽ(作詞・作曲・編曲:コトリンゴ)

32. すずさん

33. New day 


(取材・文/鈴木隆詩)
(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

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(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

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