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すずさんの思いが綿毛になって飛んでいくような曲を作りました
──サウンドトラックを手がけることになったのには、どのような経緯があったのでしょうか? コトリンゴ 2012年に坂本龍一さんと一緒に、「新しい靴を買わなくちゃ」(北川悦吏子監督)のサントラを手がけたことで、サントラの仕事に繋がりができ始めて、私自身も、もっとやりたいという気持ちになっていた時期だったんです。なので、「この世界の片隅に」では、ぜひサントラもやらせていただきたい、というお話を、早い段階から監督さんにふわっとお伝えしていました。
──コトリンゴさんのほうから、志願していたんですね。 コトリンゴ 恐れ多いので、かなりふわっと、ですけど(笑)。正式に決まったのは、2015年の秋くらいで、「打ち合わせをしましょう」とご連絡をいただきました。
──最初に、片渕監督から、どのような話があったのでしょうか? コトリンゴ 「すずさんの目線での日常描写が多いので、こぢんまりとした楽器編成がいいんです」とか、でしょうか。「悲しくてやりきれない」は本編では使わないかもしれない、という話もあったんですけど、結局、映画用にアレンジを変えて、オープニングテーマになりました。
──「悲しくてやりきれない」がオープニングテーマで、主題歌は「みぎてのうた」という位置づけなんですよね。さらにエンディングテーマとして「たんぽぽ」があり、挿入歌の「隣組」も合わせると、4曲もコトリンゴさんの歌が流れます。 コトリンゴ 多いですよね。「私のボーカル曲をこんなに使っていいんですか?」と、思いました(笑)。「隣組」は、当初、すずさん役の声優さんが歌うかも、という話だったんですけど、配役が決まらないまま、時間が過ぎていって。私の知っている男性のボーカリストですごく合いそうな方がいるので提案させていただいたら、監督さんから「男性はちょっと……」と(笑)。
──まあ、そうでしょうね(笑)。 コトリンゴ それで結局、私が歌わせてもらうことになりました。
──「みぎてのうた」は、どのようにして生まれたのでしょうか? コトリンゴ 最初の段階で監督さんから、原作の最終回に出てくる“手紙”を曲にして、ラストシーンに使いたいというお話がありました。
──作詞には、原作者のこうの史代さんと、片渕監督の2人の名前がクレジットされています。 コトリンゴ 原作の詩は量が多くて、そのままだと長い曲になってしまうので、監督さんが要約してくださったんです。最初、私は原作を読んでも、なぜこの曲が「みぎてのうた」なのかわからなくて。監督さんの説明を聞いて、そういうことか、と納得しました。すずさんを見守っているような雰囲気があったので、メロディもやさしく見守る感じにできればいいなと思いました。
──「たんぽぽ」は、いかがでしょうか? コトリンゴ この曲は、かなりぎりぎりになってから、「エンディングにも歌がほしいです」と言われて、急ピッチで作った曲でした。「みぎてのうた」がゆったりした曲になったので、こちらはちょっとテンポを上げて、お客さんを眠らせないようにしようと思いました(笑)。
──いや、この映画で眠る人はきっといないと思います(笑)。こちらはコトリンゴさんの作詞・作曲で、明るい曲調になってますね。 コトリンゴ はい、監督さんは、制作にすごく追いつめられていた時期ということも相まって、「希望がほしい。最後は救われたい」って何度もおっしゃっていました(笑)。
──なるほど、片渕監督はじめスタッフのみなさんにも希望を与えようとした曲なんですね(笑)。歌詞には、たんぽぽの種が育って、花をつけ、やがて綿毛となって飛んでいく様子が描かれていました。 コトリンゴ すずさんについて、監督さんがお話ししてくださったことが、歌詞のテーマになりました。ふわっと天然で、感情をあまり表に出さないすずさんですけど、傷ついていないわけではなくて。いろいろなことがあったけど、そこで生きていくという決心をして。そういうすずさんの思いみたいなものがたんぽぽの綿毛になって、いろいろな場所に飛んでいくといいなと思いながら、歌詞を書きました。
──映画にたっぷり付き合って、最後の最後に作った曲なので、イメージは湧きやすかったのではないですか? コトリンゴ そうですね。映画の中でも、綿毛はたくさん飛んでいて。監督さんは、「戦争で亡くなったたくさんの人たちの魂の代わりに、綿毛をいっぱい描かないと」ということも、おっしゃっていたように思います。