中国に正規ルートで入ったけど残念なことになってしまった作品達【中国オタクのアニメ事情】

2024年08月12日 12:000

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

日本の作品が中国に入る際には多かれ少なかれ中国特有の事情、現地のルールへの対応を行う必要がありますが、時期によっては大規模な規制や反日感情の悪化など作品の内容以外の所でも問題に巻き込まれてしまうことがあります。

連載最終回になる今回は中国に正規ルートで入っていた作品なのに、中国の事情で特に残念なことになってしまった作品を改めてまとめてみようかと思います。

進撃の巨人



「進撃の巨人」は原作の癖の強い絵柄もあってか、当初中国オタク層には今ひとつ刺さらなかったものの、アニメ化によって中国でも受け入れやすくなり中国国内における人気が大爆発しました。当時の人気はすさまじいものがあり、ここ20年ほどの間では中国で最大級の人気、瞬間風速をたたき出した日本の作品だったという話もさまざまな所から聞こえてきました。

 

しかし内容の方向性や描写の過激さなどからアニメが配信されていた時期の中国では作品に対する批判も多く、青少年に悪影響を与える日本のアニメの筆頭のような扱いにもなっていき、前回の記事でも書かせていただいたように当時の中国の日本アニメにおける規制ターゲットとしてブラックリスト入りしてしまうことに。

 

当時の状況を知っている中国のオタクな方々からは

「ブラックリスト入りによって『進撃の巨人』は中国国内では正規ルートで扱うのが困難作品になってしまいました。ブラックリスト入りした作品の中にはその後アニメ配信が復活した作品や劇場版アニメの中国国内上映が行われたような作品もありますが、進撃の巨人は消えたままでしたね……」

 

「進撃の巨人が社会現象レベルの人気になったのは動画サイトのアニメ配信でオタク以外のアニメ視聴者も大量に獲得したからです。だから規制による影響はかなり大きかったと思います」

などといった話もありました。

当時の中国は、動画サイトにおける日本アニメの正規配信によって一般層やライトなアニメ好きの視聴者が拡大していくのとともに、ファン活動界隈の縮小によって非正規のアニメ視聴の影響力が減少していく時期でもあったので、規制によって配信できなくなった「進撃の巨人」の人気や話題性が急速に縮小してしまったという見方には説得力があります。

 

中国における「進撃の巨人」の人気は規制によって正規配信から消えた以降もコアなファンを中心に続いたそうですが、新規のファンが入らず徐々に先鋭化していったことから一般層やライトなアニメファン、そして中国以外の外国との人気や作品の捉え方の違いも積み重なっていったそうです。

そしてそれが作品終盤の展開や終わり方に関して、良くも悪くも中国特有の濃いファンの特徴である「期待通りではない展開に批判が巻き起こり大炎上する」事態が発生する原因のひとつにもなってしてしまったのだとか。

僕のヒーローアカデミア


 

中国ではオタク関連分野においても昔から日中関係の悪化、反日感情の爆発による影響がたびたび発生していますが、作品への影響という意味では2020年に発生した「僕のヒーローアカデミア」に関する炎上事件がここしばらくの間で最大級のものだったのではないかと思われます。

 

この炎上は作中に出てきたキャラクター「志賀丸太」の名前が「日本軍七三一部隊のマルタ」を連想させるなどとして批判されたことから始まりました。それが韓国や中国のネットを中心に非常に大きな炎上となりその影響で当時中国の複数の動画サイトで配信されていたアニメも一斉に配信中止となってしまいました。

 

当時の炎上はすさまじく、作品に対する批判が

「主要キャラの誕生日がヒトラーの誕生日、日本共産党の成立した日であるなどヒロアカはファシスト的な意図が込められた反人類的な作品」

などといった陰謀論まで混じるような段階まで行ってしまうなど、一時期は非常に危険な状況になっていました。炎上中に集英社から「過去の歴史と重ね合わせる意図はまったくない」というお詫びが発表されても炎上は収まらずかなり長い間燻り続け、中国における作品イメージへの負の影響は現在も根強く残っています。

 

当時のゴタゴタを体験している中国のオタクの方々からは

「『ヒロアカ』の炎上は中国近代史の政治領域の事情と関連して一般的な反日感情と結びついて爆発してしまった所もあったと思います。しかし私はこの事件に関して中国に作品を展開する際に、なぜ曲解される危険のある名前にしたのか今でも疑問に思っています。中国では日本軍、それも七三一関連で歴史と政治が関わる領域に関しては知らなかったでは済まない話になります」

などといった話もありました。

 

これ以降「ヒロアカ」の炎上には、その後の中国国内で作品に関するイメージが「大炎上した反中的な作品と作者」で固まってしまったこと、さらにそれが訂正される機会のないまま未だに続いているという特徴もあります。

中国のネット界隈では管理者側のリスク回避という面もあってか、炎上した話題や「敏感な話題」に関しては積極的に削除や自主規制が行われていますし、ネット上のSNSやフォーラムなどのログも自主規制的に消されることが多くなっています。

その結果、中国のネットをさかのぼって過去の事情を調べるのは非常に難しくなっていて過去の炎上事件に関しては個人的な主観や記憶頼りになってしまうことも珍しくありません。

 

中国ではそのような事情から炎上のイメージが固定されたままの作品も少なくありませんが、「ヒロアカ」に関しては当時の炎上規模の大きさや動画配信にとって「何かと使える話題」となってしまったこともあり、負のイメージがかなり広い範囲に深く定着してしまったもようです。

 

この辺りに関しては以前中国のオタクな方々から

「中国国内のオタクには『ヒロアカ』炎上で実質的に終わった作品だと認識している人も少なくありません。中国国内での炎上後も作品は続いていて、日本だけでなく中国国外でも人気を維持あるいはさらに盛り上がっていたことなどに関してはほぼ意識されないままです」

といった話を聞いたこともあります。

中国における「僕のヒーローアカデミア」の炎上とその後の扱いを見ていくと、現代の中国でレッテルを貼られてネットで炎上した場合の被害の大きさ、リカバリーの困難さが浮き彫りになっているようにも感じられます。

ハイキュー!!



「ハイキュー!!」は「僕のヒーローアカデミア」とは別の方向で日本と中国の作品のイメージが非常に大きい作品となっています。

日本では今年公開された「ハイキュー!! 」の劇場版が興収100億円超えの大ヒットをたたき出しましたが、このニュース中国のオタク界隈でかなり驚かれたそうです。

 

当時中国のオタクな方々からは

「劇場版ハイキューの大成功はとても意外でした。中国のネットではハイキューの人気はほぼ感じられない状態なので記録的な興収になるとは思えなかったです」

などといった話も聞こえてきましたし、中国のオタク界隈でも

「なぜ終わった作品のはずの『ハイキュー!!』がこんなに高い興収を叩き出せたのか?」

といった方向の議論が良くも悪くも盛り上がっていました。

 

中国でも「ハイキュー!!」アニメの第1期~第2期が配信されていた頃は人気も評価も非常に高くスポーツ系作品のオススメとして頻繁に名前があがるような扱いでした。しかしそれから10年ほどたった現在では完全に過去の作品となっているそうで、中国国内のファンあるいは昔ファンだった人達の感覚も、原作マンガだけでなく多方面メディア展開が行われてファンの熱が維持されていた日本とはかなり差があったそうです。

 

中国国内ではどの作品もアニメ配信が完結して更新が終わると急速にファンの熱が下がっていき、人気や話題性もおおむね縮小していくという傾向があります。

そして「ハイキュー!!」に関してはアニメ配信を取り巻く環境も含めて間が空く期間が長かったことに加えて、続編のアニメの配信される時期に新型コロナの世界的な流行やオリンピック延期といった現実社会の影響が重なってしまい作品の存在感の消失を加速させたという事情もあります。

 

この辺りに関して、中国のオタクな方々からは

「ハイキューに限らず現在の中国では、作品人気の維持はとても難しくなっています。アニメは新作アニメとしての期間が終わったら話題は急速に減っていきますし、続編まで人気が維持されるのはとても珍しくなっています。それに加えて今は規制強化により動画サイトで手軽に見られる作品が少なくなっているのでアニメファンが集まって盛り上がれる場所も消えています」


「『ハイキュー!!』は中国市場では不運な作品です。中国のオタク界隈では現実社会の影響で混乱しているうちにいつの間にか原作が終わっていたような扱いになってしまいました。それに加えて中国では配信環境や話題になる要素などから女性向けというイメージが強くなり過ぎてライトなアニメファンからの注目が消えていきました。現実のバレーボールと連動して盛り上がった日本とはまったく違う状況だったと思います……」

などといった話もありました。

 

「ハイキュー!!」に関しては政治的な影響に関してはそれほどではないものの、日本の作品に関する日中のメディア影響力の違い、特にアニメが終わった後に急速に作品の存在感が薄れていく、過去の作品扱いされてしまう中国の環境による影響がハッキリと出てしまった作品に思えます。

デート・ア・ライブ



「デート・ア・ライブ」は中国ではラノベ読みを中心に根強い人気を誇る作品で、中国のオタクの中にはこの作品から日本の二次元作品、ライトノベルに深入りしてしまったという人も少なくないそうです。

中国のオタク界隈で一番人気が高い作品というわけではないものの「常に安定した熱量の高い支持層がいる作品」だという話も聞きますし、中国国内で日本のライトノベルの出版が難しくなった後も現地でファンの話題が続いている息の長い作品なのは間違いありません。

 

またこの作品はアニメの続編が制作された理由のひとつに中国市場の大きさや将来性に期待するなどの形ではなく、「ハッキリとした形で中国での人気の高さが影響して中国側の会社も参加していた」という比較的珍しい事情もあります。

しかしこのアニメに関しては中国における人気の高さが続編制作の理由なのに、中国の規制によってクオリティが落ちる、配信できなくなるといった事態にぶつかってしまいました。

 

アニメの第4期が放映された2022年は中国国内で国内の動画サイトのアニメ配信に対する規制管理がいよいよ厳しくなってきた時期で、配信するアニメの内容に大きな修正が必要になったと言われています。当時を知る中国のオタクの方からは

「『デート・ア・ライブ』第4期のアニメは中国国内で配信するために、厳しいスケジュールの中で修正を強行したのか、bilibili系列で配信された中国および香港台湾向けの中国語字幕版配信だけ明らかにクオリティの落ちたパイロット版のような状態でした。これがとても嫌な記憶として刻み込まれているファンも多いです」

といった話もありました。

 

さらにその後の第5期に関しては第5期制作決定が発表された段階では中国でも盛り上がっていたものの、時間がたつにつれて作品関連の不穏な情報も増えていき放映前の時期には中国のネットに

「『デート・ア・ライブ』の第5期が中国国内の審査を通過できず、国内向け配信は不可能になった」

という情報も出ていたそうです。実際第5期の中国国内向けの配信はこの記事を書いている時点でも行われていません。

 

さらに第5期のアニメ開始直前の時期には中国側でアニメ第4期に関わっていた大凉山のアニメ部門に所属していた版権管理会社の古徳秀(グッドショー)の解散が発表されたそうで、中国の「デート・ア・ライブ」ファンにとってはかなりガックリくる事態となってしまったそうです。

 

「デート・ア・ライブ」に関しては中国側が積極的に動くような人気作品であっても中国特有の事情に振り回されるのは避けられない、中国側が関わっているから中国市場においても大丈夫などということはないという実例になってしまったようにも思えます。

 

 

今回あげた作品以外にも配信告知は出たのに規制強化後の審査検閲を通過できなかったのか結局配信されないままフェードアウトしてしまい、リアルタイムで作品を追いかけていた日本のファンとは大きく異なる盛り下がり方やネガティブな批評が目立ってしまった「機動戦士ガンダム 水星の魔女」や、フェミニズム関連や中国の価値観の問題に加えて動画配信の極端な煽りと連動して大炎上してしまった「無職転生」など、他にもさまざまな中国特有の事情で残念なことになってしまった作品は少なくありません。

 

日本でも炎上や作品周辺の事情などによって残念なことになってしまう作品は珍しくありませんが、中国では規制対象になった作品や炎上して注目を集め過ぎた作品に関しては丸ごと規制や削除で「なかったこと」にされがちという中国特有の事情があります。

 

この辺りに関しては今回紹介させていただいた「僕のヒーローアカデミア」などが特に顕著でしたが、他の「なかったこと」にされた作品に関しても歪んだイメージがそのまま定着しているケースは少なくありませんし、炎上や規制後にも中国国外では人気が維持されている、評価されているなどといった情報は広まらず中国のオタク界隈では「終わった作品」扱いされがちです。

 

もちろん中国にも日本語の情報や日本での動向を直接調べるなどしてその後の事情に関して追いかける熱心なファンはいます。しかし「なかったこと」になった作品に関してはライトなファンが激減しますし、残ったファンコミュニティが良くも悪くも先鋭化するので冷静で客観的な評価が広まるのは難しくなってしまうようです。

 

またその結果、近頃は日中間だけでなく中国国内のオタク同士でも作品に関してある種の断絶状態になり作品の思い出を共有できない、何かとズレたり歪んだりしたイメージのままになってしまうことも増えているもようです。

日本のオタク界隈でも世代が違えば作品に対する印象や知識は変わってきますし、リアルタイムで体験した人でなければわからない事情というのもあるかと思います。

しかし中国のオタク界隈では頻繁に規制や自主規制などによって作品や情報が消えていくことから、とても短いスパンである種の世代交代が情報の断絶する形で進んでいます。

この辺りの事情に関して中国オタク事情を追いかけている身としては何だかとても残念でもったいないと思ってしまいますね。

 

今回が最終回となりますが、中国関連情報の需要が減っていく中でもアキバ総研が連載を続けさせてくださったのはとてもありがたかったですし、私自身も書いていて非常に楽しめました。

そしてこんな趣味に走った記事を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

中国オタク事情に関しては今後も私のブログの方で発信を続けさせていただきますので、ご興味があるならご覧いただければ幸いです。

百元籠羊

百元籠羊

90年代から十数年中国の学校に通い「日本のアニメや漫画、オタク文化が好き」な中国人達と遭遇。以後中国にいつの間にか広まっちゃった日本のオタクコンテンツやオタク文化等に関する情報を発信するブログを運営中。

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