「社畜」という言葉が広まって社畜主人公が感情移入されるようになった?【中国オタクのアニメ事情】

2023年08月20日 12:000

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

近頃の中国に広まり定着してしまった日本語由来の「社畜」という言葉に関する受け止め方や、その背景事情などについて紹介させていただきます。


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「社畜」という言葉が広まって、社畜主人公が感情移入されるようになった? 中国のオタク界隈


中国ではオタク趣味やインドア的な活動などを指す「宅」、日本のアニメやマンガあるいは日本のアニメやマンガの影響を受けているコンテンツ全般を指す言葉として使われている「二次元」など、さまざまな日本語由来のオタク用語がネットなどを通じて社会に広まっています。

そういった日本語由来の言葉の中で、近年中国のオタク界隈だけでなく一般層にも広まって定着し、実感をともなって使われるようになっている言葉のひとつに「社畜」があるそうです。

 

近頃の日本のアニメやマンガ、ラノベなどでは、軽いものから重いものまでさまざまな社畜ネタが扱われ、現代を舞台にした作品だけでなく社畜的な境遇の主人公が異世界転移あるいは転生を行うといった作品も珍しくはありません。

以前の中国でも、日本の作品に出てくる社畜キャラや社畜ネタに関してはやや表面的な理解ではあるものの受け入れられてはいたそうですが、この数年で作品に出てくる「社畜要素」に関する受け止め方に大きな変化が出ているそうです。


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近年の中国のオタク界隈では

「作中に出てくるブラックな社畜ネタを見ていると、ギャグ扱いであってもつらい時がある」

「日本の作品に社畜系主人公が少なくないことや、社畜系主人公が異世界転移や転生をする作品に需要があるのが理解できる」

 

などといった話も出ているとのことで、社畜ネタや社畜キャラに関して何かと感情移入してしまう中国のオタクな人たちが増えているのだとか。

 

これについては現代中国の若者の労働環境や考え方が昔と比べてかなり「社畜的」になっているといった事情も影響しているようです。

社会文化方面の事情にも詳しい中国のオタクな方の話によると、「社畜」という言葉は当初日本のアニメやマンガを通じて中国に広まっていったそうですが、2018年から2019年ごろにかけて中国のネット流行語にもなり、一般方面にもかなり広まりながら定着していったそうです。

 

そしてこの時期は、中国国内においてアリババ系列のビジネスや、創業者であるジャック・マー氏が、いわゆる「996問題」(朝9時から夜9時まで、週に6日間働く)の象徴的な存在とされ、評判が急落していった時期でもあり、中国国内における仕事に対する考え方が変化していく時期とも重なっているそうです。

 

この当時、中国国内では各業界のビジネスモデルがいよいよ崩れ始めて民間企業の倒産が増加し、金融投資方面も勢いを失うなど、それ以前の中国における「必勝法」が、企業レベルでも個人レベルでも崩壊していきました。そして個人の働き方も大きく変わらざるを得なかったそうで、このことが、「社畜」という言葉が中国社会に拡散、定着した原因のひとつだとも考えられるそうです。

この頃から中国のネットでは「IT系の技術者がフードデリバリーのライダーに転職する」などといったネタが良くも悪くも広まっていった……などという話もあるのだとか。

 

現在の中国ではかつてのような「良くも悪くも上昇志向や独立志向が強く、いわゆる社畜化とは遠いタイプ」という人はかなり減っているそうです。

 

ちなみに私は以前中国のオタクの方から

「百元籠羊さんのイメージは古いですね。上昇志向や独立志向が強いのは昔の、特にIT方面で働く人に多かったタイプです。現在は国営企業や公務員を目指す人が多いです」

 

などと、認識がアップデートされていないのを指摘されてしまったこともあります……


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中国では「社畜」という言葉が流行る前にも、「仏系」という、やはり日本から入った言葉が注目されるなど、変化の兆しがそこかしこに見えていたそうですし、新型コロナ以降は景気や就職事情もさらに悪化しています。そのため、現在の中国では良くも悪くも安定重視、上に行くためのコストやリスクに対して消極的で競争を避けるような人、社畜的な環境であっても我慢して働く人が増えているという話です。

ただこれも一概に悪いことばかりではないらしく、このような変化によって近頃の中国では若者の愛想がよくなり、ていねいでやさしい人が増えているといった話もあるのだとか。

 

日本のアニメやマンガに限らず、中国でこれまで人気になった、あるいは注目された作品からは、その時その時の中国人の好みや、好みに影響を与えた社会事情なども見て取れるかと思います。

たとえばオタク方面も関連しそうな過去の中国国産作品を見ていくと、中国の自然環境の悪化にともなってSF系作品や科学技術の扱いに関して「科学技術で万物をすべて制御する、作り替える」といった科学万能主義的なところが消えていきましたし、「流浪地球」のような、科学で支配するのではなく困難を回避する方向の作品も大ヒットするようになっていきました。

 

また中国国内で学生の起業ブームが過ぎ去り、いい企業に就職するのが理想となり、安定した公務員が「飯椀」としてよいという考えが広まりだした頃から、若者をターゲットにした中国国産作品で、現代を舞台にした作品のスケールが良くも悪くも小さくなり、「特殊技能がない人間は仕事を見つけられない、現代社会で価値がない」という考えが前に出る作品も増えていったという話もあります。

 

そして近年の中国では社畜ネタが受け入れられるとともに、社畜的な待遇を受け入れざるを得ないといった話が実感をもって語られています。

個人的には、これらのことが中国におけるオタク向け娯楽作品の需要と供給にどう影響するのか……といった面に関してもイロイロと考えてしまいますね。

百元籠羊

百元籠羊

90年代から十数年中国の学校に通い「日本のアニメや漫画、オタク文化が好き」な中国人達と遭遇。以後中国にいつの間にか広まっちゃった日本のオタクコンテンツやオタク文化等に関する情報を発信するブログを運営中。

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