印象的なリリックとともに和氣あず未、中島愛、飯田里穂、高野麻里佳の新譜を徹底レビュー!【月刊声優アーティスト速報 2021年2月号】

2021年02月28日 12:000

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こと声優アーティストにおいては、キャリアを重ねるにつれて、楽曲の登場人物を“演じる”フェーズからステップアップし、むしろ歌詞の持つ意味を自分自身で“体現する”ことが、ひとつの完成形として認識されている印象がある。

となると、必要なのは、その活動をひと言で表出するようなワンフレーズ。これにからめて本稿では、2021年2月に発売された4枚の声優アーティスト作品より、それぞれの印象的なワンフレーズを引用しながら、その内容をレビューしたい。

 

和氣あず未 1stアルバム「超革命的恋する日常」(2月17日発売)

ときめきに正直にいたい 恋をしたんだ/「恋じゃないならなんなんだ」より

 

 

この“ときめき”を原動力にする姿勢こそ、和氣あず未さんの音楽活動そのものと言える。今回のアルバムは、収録曲10曲すべてが新録なほか、バイナルのようにA面/B面を分けた構成で、それぞれで異なるサウンドアプローチをする意欲作だ。

 

A面は、彼女の素晴らしい音楽を届けるべく、「のんびりしている暇はないぞ!」と、制作チームが本人に向けてエールを送るような心温まるギターポップ「いそげあじゅじゅ」に始まり、弾むような恋心を歌う「恋じゃないならなんなんだ」など、ガールズロックを中心とした楽曲を収録。そこから、hisakuni氏謹製のエレクトロファンク「キュピデビ」でB面に移ると、90’s R&Bサウンドを踏襲した「Tuesday」から、相思相愛な想いをしっとりと歌い上げる「Darling」まで、次々にトラックの表情が変わっていくのは、さながらミックステープのようにも思えた。

 

また今作では、彼女の持ち味である瑞々しくピュアな歌声を大切にしながらも、“マリッジブルー”のような不安を歌った「恋する日常」には震え上がったファンもいるのでは。同曲は、クリック音が特徴的な薄暗い印象のハウスナンバーで、これまでに内田彩さん「ピンク・マゼンダ」など、数多くの声優エレクトロニカの傑作を創造してきた只野菜摘氏×坂部剛氏によるもの。そもそも和氣さんの音楽活動には、デビュー曲のように“ふわっと”したイメージを抱いてきたが、まさかアルバムタイトルにも通ずる大切な楽曲で、その逆を突いてくるとは。

 

そんなネガティブな感情から、A面のようにポジティブな感情まで、あらゆる恋模様をパッケージングした“恋愛指南書”のような「超革命的恋する日常」。何よりまず、字面が“バン!”と迫力をもって前面に押し出てくる、このタイトルが最高なのだ。恋に一心不乱に、それ以外の何も考えられなくなる姿をうまく言い当てた、この作品に最適なタイトルだ。

 

中島愛 5thアルバム「green diary」(2月3日発売)

ああ こんな自分を 君にみせて 反射してうつる瞳の奥想像よりも いい顔で

そして単純に歩む この物語の先/「GREEN DIARY」より

 

 

作品のモチーフは、“緑”。声優デビュー作「マクロスF」にて、自身が演じたランカ・リーのイメージカラーであり、いわば彼女の原点だ。

 

これまで、自身の音楽活動ではランカと線引きをすることにこだわってきた中島さんだが、近年はむしろ、自身のアイデンティティの一部であることを認めることで、悠々と音楽を楽しめるようになったという(参考:【インタビュー】デビュー10年を越えての原点回帰!? 中島愛の始まりの色でもある「緑」をテーマにした、爽やかなアルバム「green diary」)。そんなデビュー以降の10年以上にわたる時間をパーソナルに描いた記念碑的な1枚だ。

 

幕開けを飾るのは、三浦康嗣氏(口ロロ)プロデュース曲「Over & Over」。とにかく音の“反復”の心地よさを実感できる1曲で、歌い出しの軽やかなライム、〈バース コーラス バース コーラス〉といった同じフレーズの行き来、楽曲全体を通してロー→ハイ→ローとBPMが移り変わる構成など、ヒップホップでないと思いつかない発想が随所に散りばめられている。

 

続くは、冒頭にも歌詞を引用した「GREEN DIARY」。プロデュースは、尾崎雄貴氏(BBHF)によるもので、言わずもがな、ランカ・リーとの歩みを振り返る1曲だ。特に2番では〈緑のページ いたるところ貼られたステッカー 落書きにさえ記憶がふっとめくるたび 泣きそうになる〉などと、ランカとの日々が爽やかに、時に影を交えて描かれている。

 

そこから、“甘痛い”恋心を切り取った「メロンソーダ・フロート」のトラックに、欅坂46の大名曲「二人セゾン」を手がけたSoulife、生音の美しさにコーラスが染み渡る「髪飾りの天使」には、吉澤嘉代子氏と清竜人氏が作詞・作編曲で顔を出す。アイドル好きで知られる中島が設けた、いわば“アイドルタイム”である。

 

そこからRAM RIDER氏提供のディスコナンバー「窓際のジェラシー」や、tofubeats氏による音数を絞ったミニマルなトラックで、〈B面の曲の意味がわかるようになったのは何故?〉という感傷的なワンフレーズが一人の夜に寄り添う「ドライブ」など、中島さんの心の奥深くに潜り込んでいく流れに。そんな時間を経て最後に待つのは、“異常なし”をタイトルに掲げた「All Green」。ランカと出会った当時を起点に、現在からこの先に待つ明るい未来まで、“緑”をモチーフにすべての時間を繋ぎ合わせる集大成的な1曲だ。

 

凛としたたたずまいで圧倒的な存在感を放つ中島さんの歌声と、洗練されたトラックが相乗効果を育む本作。作り込まれていながらも、肩の力が抜ける軽やかなポップスアルバムとして、声優アーティスト史に残る、まさに“エバーグリーン”な名作といえる。

 

飯田里穂  シングル「One Wish」(2月10日発売)

キラキラしてるだけじゃない この世界を選んだのなら見つけた「私らしさ」

もっと 信じて先に 進んでいく/「Won't lie never ever」より

 

 

表題曲は、TVアニメ「キングスレイド 意志を継ぐものたち」エンディングテーマに起用。レーベルメイトであるfripSide・八木沼悟志氏をプロデュースに迎えた、飯田さんの楽曲ストックにはなかった勇ましさを感じる1曲だ。特にサビの〈心をつなぐその鎖 絶対に切れない〉においては、〈鎖〉までをブレスなしで徐々にトーンを上げて歌唱し、〈切れない〉の部分にアクセントをつけるなど、まさに“八木沼節”なメロディ運びを見つけられる。

 

また、カップリング曲「Won't lie never ever」は、「嘘はつかない、嘘がつけない」という自身の信条を基にした楽曲。詳細は下記インタビューを参照してほしいが、彼女が芸能界で活動する後輩に向けたメッセージソングだ(参考:飯田里穂、2年ぶりのニューシングルはfripSide・八木沼悟志サウンドプロデュース! アニメ「キングスレイド」新ED「One Wish」リリース記念インタビュー!)。

彼女の人となりを映し出す、とても明確なワンフレーズといえる。

 

高野麻里佳 1stシングル「夢みたい、でも夢じゃない」(2月24日発売)

夢みたい でもたしかにあるみたい 色づいてく思い

明日はもっとワクワクしたい よくばりな物語/「夢みたい、でも夢じゃない」より

 

 

今作で声優アーティストとしてデビューを果たす高野さん。表題曲は、まるで晴れた日に大きく窓を開け放ち、外の世界に飛び出していくような、今回のデビューに際する初期衝動を歌った1曲。彼女の特徴的な、あどけない少女らしい粒感のある歌声にもよく映える清廉なトラックで、Aメロでハネるスネアが、新たな一歩を踏み出す足取りを表現するようだ。

 

また、歌い出しやサビに登場する〈色づいていく思い〉は、勇気や元気、希望など、そこで連想される感情は、聴き手の受け取り方に託したとのこと(参考:【インタビュー】高野麻里佳がソロアーティストとしてデビュー。1stシングル「夢みたい、でも夢じゃない」は正統派の1曲に!)。ちなみに同インタビューでは、彼女のデビューまでの決意や、カップリング曲「I tie U」についても詳細を確認できる。

 

歌詞の話に戻って、自身のアーティスト活動については〈よくばりな物語〉と定義。前述した和氣あず未さんをはじめ、レーベルメイトである内田彩さんや諏訪ななかさんの発表作品を鑑みるに、多種多様な音楽と出会い、好奇心を満たしていくのだろう。そんな生活が3年、5年と続いた時、冒頭に引用したワンフレーズにはきっと、ファンの涙を誘うような文脈が育まれているに違いない。自身の音楽活動を象徴していくだろうフレーズを含む、デビュー作として非常に申し分ない1曲ではないだろうか。

(文/一条皓太)

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