夏川椎菜、降幡愛、南條愛乃、山崎エリイ、電音部──アーティストのセンスがさく裂する作品がズラリ! 【月刊声優アーティスト速報 2020年9月号】

2020年09月21日 10:000

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声優アーティストによる、当月リリースの注目作品をレビューする本連載。2020年9月号では、作品コンセプトから収録楽曲のサウンドまで、さまざまな“個性”を切り口に全5組のアーティストの新作の魅力を紐解いていきたい。

南條愛乃「Acoustic for you.」


南條愛乃さんが2020年9月2日に発売した初のアコースティックアルバム「Acoustic for you.」。南條さんといえば、その歌声の透明度から、ピアノ1本だけの伴奏曲やアコースティックアレンジの楽曲との高い親和性に定評がある声優アーティストだが、そんな彼女がアコースティックアレンジでの“王道12曲”を選んだのが今作である。過去のステージ経験を生かしつつ、プレイヤー数との兼ね合いから、当時鳴らしきれなかった楽器を新たに重ねるなど、あくまでライブ盤とは異なる作品を目指したそうだ。

 

なかでも、音数の少なさで都会の夜を思わせる7曲目「OTO」は、トラックにすっと浸透する南條さんの歌声の持ち味を深く味わえる1曲。また、5曲目「リトル・メモリー」では、原曲よりも抑揚を抑えて、ストーリーテラー的に“カタル”歌声を意識したような、彼女の新たな歌唱法に触れることもできる。ほかにも、作品を締めくくる楽曲として、アルバムタイトルの“for you.”と対になるような「and I」が選ばれていのも粋な計らいだろう。

 

降幡愛「Moonrise」


降幡愛さんが9月23日に発売するデビューミニアルバム「Moonrise」。同作の中心に据えられているのは、ここ数年で再評価の波が訪れており、彼女の嗜好サウンドである“80年代シティポップ”と、そのリバイバル。これだけ書くと“色もの”と思われる可能性もあるが、降幡さんの80年代ラバーぶりは確かなようで、その証拠に収録曲の歌詞はすべて、自身がトラック制作前に“詞先”で書き下ろしたとのこと。そんな彼女の熱い想いに応えるように、プロデューサーにはポルノグラフィティ「アポロ」などの名曲を手がけた本間昭光さんが迎えられた。

 

同作のリード曲「CITY」は、これまでの降幡さんのイメージをいい意味で裏切るような、トレンディな歌声が頭に残るデジタルポップナンバー。本人いわく、同楽曲を歌う際には竹内まりやさんを意識したほか、2曲目「シンデレラタイム」でも山下達郎さんの歌唱に寄せるなど、各楽曲にロールモデルがいるとのこと。そもそも、音楽活動当初から作品の方向性を固め、そこに歌声の照準を合わせるというのも、あまり例を見ないケースである。

 

ちなみに、筆者はこの夏に運転免許を取得したのだが、夜の首都高速で「CITY」が流れた際、本作に対しての何とも言えぬ“納得感”を抱いてしまった(これは友人談だが、霞ヶ関、汐留や銀座を抜けるC1ルートが最も“それっぽく”なるらしいので、ぜひお試しあれ)。

夏川椎菜「アンチテーゼ」


夏川椎菜さんが2020年9月9日に発売した4thシングル「アンチテーゼ」。表題曲は、劣等感を抱くことをネガティブにとらえがちな世間に対して、夏川さんがフラストレーションを爆発させる想いを歌ったものだ。同楽曲のプロデュースを担当したのは、新進気鋭のボカロP・すりぃさん。ハイスピードながらも、難解な歌い回しを乗りこなすサビを筆頭に、Aメロの裏で鳴るキャッチーなマリンバや、Dメロのトラックに埋まるような高速ラップ、歯切れのいいギターカッティングなど、まさに“ボカロック”的な構成や音選びが冴え渡る1曲と言える。

 

また、夏川さんの音楽活動といえば、声優音楽シーンでもとにかく“尖った”方向性にある。「アンチテーゼ」では特にうっぷんを発散するような発声だったが、吐き捨てるように言葉をぶつける彼女の歌声や退廃的な心情吐露は、2018年7月発売の3rdシングル曲「パレイド」から続くところ。同楽曲もまた、まるで太陽の光に照らされても、それが逆に主人公を刺して痛みを与えるかのように、救いのない劣等感を歌った楽曲だ。実際に夏川さん自身も、「パレイド」以降の作品を通じて伝えたいメッセージを総称するならば、“アンチテーゼ”がふさわしいと語っている(参考:声優グランプリ 2020年10月号)。

 

そんな彼女は4月17日、自身のYouTubeチャンネル「417Pちゃんねる」を開設。以前から動画撮影や編集に興味があったそうだが、最近では今シングルの“勝手にリリイベ”を開催したり、少し前には、みきとP「ロキ」カバーMVを制作したりと、映像編集を楽しみ尽くしている様子。これらの動画も観てみると、彼女の音楽観とボカロP楽曲の相性のよさも確認できることだろう(「ロキ」カバーMVの完成度の高さには心底驚かされた)。

 

山崎エリイ(Erii)「恋ゴコロ」


山崎エリイさんが、2020年9月30日に“Erii”名義で発売する3rdシングル「恋ゴコロ」。同名義は、彼女の「今一番表現したい世界観をテーマに展開していきたい」という想いから、昨年9月に設立したプライベートレーベル<Cherii Records>での活動時に使用されるものだ。作詞・作編曲に宮川弾さんを迎えた“Erii”名義の1stシングル「Cherii♡」カップリング曲「気まぐれイニシエーション」は、彼特有のヴェイパーな質感を纏った極上の1曲であり、別名義作のクオリティも間違いないことが約束されている。

 

今回の「恋ゴコロ」は、山崎エリイ名義での楽曲イメージに通ずるような、アイドル風の清純さで恋のはじまりを歌う爽やかなエレクトロポップ。楽曲を通して恋のドキドキを体験し、その歌声そのものが、誰をも魅了する山崎さんの“上目遣い”で作り上げられたような特別な気持ちにさせられてしまう。それでも、間奏には造り込まれたプログレッシブなカットアップが待ち受けるなど、トラック面での強度もバッチリな1曲だ。

 

電音部(神宮前参道學園)「good night baby (feat. Moe Shop) 」


7月掲載の本連載でも軽く紹介したが、2020年6月28日より始動した音楽原作キャラクタープロジェクト「電音部」。9月9日には、犬吠埼紫杏 (CV:長谷川玲奈)が歌う「good night baby」が配信リリースされた。

 

同楽曲のプロデュースを担当したのは、Moe Shopさん。フランス出身のトラックメイカーで、フューチャーファンクやフレンチエレクトロを得意とする人物である。そんな彼が制作した「good night baby」は、まさにアニソンクラブ現場で聴きたい、クラブ的な音の鳴り方をする1曲だ。

 

実際にからりとした質感で、それでいてラジオノイズをわずかに施したような歌声のエフェクトや、曲中に挟まれるゆるめなフロウのラップなど、その特徴はアニメ音楽と深い関わりを持つインターネットミュージックらしい側面も多い。そのうえで、どこか刹那性を帯びたサビのメロディには時間の“ループ感”があり、クラブ特有の非日常的な時間の流れが再現されているようにも思えた。

 

また、前回では触れられなかったが、TAKU INOUEさんがプロデュースを担当した「Mani Mani」もまた先進的なサウンドで、すでにファンの間ではアンセム状態に。同楽曲では、伸縮性に秀でた奥行きのあるシンセサイザーをベースに、ファンクテイストなギターカッティングや、アーバンな夜の雰囲気を甘美に演出するサックスの交差が心地よさを運んでくれる。TAKU INOUEさんの新境地、ここにありといったところか。

 

本稿で紹介した「電音部」は、来月以降も継続的な楽曲配信を続けるかと思われる。2020年10月号では、同じくクラブミュージックを取り入れた「D4DJ」関連楽曲などにも触れながら、引き続き作品レビューを行なっていきたい。

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