「奇跡の7分間」はどのようにして生まれたのか？　 2人のプロデューサーが語る「キャロル＆チューズデイ」

ラストカットの3人の笑顔も、実写映像から生まれました

── サウンドトラックを担当したモッキー（Mocky）さんも、「Mother」の歌唱に参加しているんですよね？

西辺　渡辺監督が「モッキーにも歌ってもらったらいいんじゃない？」と。モッキーに打診したら快諾してくれて。火星グラミーの新人賞にキャロル＆チューズデイやアンジェラと一緒にノミネートされていたロンサム・クラレンスを、彼に割り当てることになりました。

── ひげ面のおじさんシンガーですね。モブキャラだったはずなのに終盤目立っていたのは、そういうことだったんですね（笑）。

天野　しかも、クラレンスの声は安元洋貴さんなんです。本来、スキップ役でしたが24話にはスキップのセリフがないので、兼ね役をしていただきました。

西辺　というより、安元さんから、24話に出演したいという申し出があって、じゃあ、せっかくだからクラレンスの声をお願いしますと。

天野　「キャロル＆チューズデイ」は声優の皆さんにも恵まれた作品でした。ゲストキャラクターのキャスティングは、ダメ元でお願いした部分もあったんですけど、みなさん快く引き受けてくださいましたし、別録りも少なかったんです。24話ではそうそうたるメンバーが一堂に会することになりました。


西辺　声優のオーディションはキャロル＆チューズデイとアンジェラの3人しかやってなくて、ほかのキャラクターは全員、この方にお願いしたいと、こちらからオファーしたんです。そうしたら見事に全員にOKをいただけて、うれしかったですね。

天野　渡辺監督の作品だということが大きかったと思います。みなさん、渡辺監督だったらという感じで、スケジュールを空けてくださいました。

西辺　ブラックナイト役の石田彰さんも、よく引き受けてくださったなと。

天野　ブラックナイトはアンジェラのストーカーなんですけど、最初、警備員に変装して出てきたじゃないですか。でも、声が石田さんなので単なる警備員のはずがないって、丸わかりなんですよね（笑）。テストのときに、「すみません、もう少し個性を抑えてください」とお願いしたこともありましたね。

── 山寺宏一さんのデズモンドも素晴らしかったです。

西辺　ダリアの堀内賢雄さんもそうでしたが、ジェンダーレスなキャラクターが登場するのもこの作品の特徴でした。世界配信を見据えた渡辺監督の意図もありつつ、声優さんをどうしたらいいだろうと思っていたら、ダリアもデズモンドも素晴らしかったですね。


天野　デズモンドは人間離れしたオーラを放つ人物でもあったので、どんな芝居になるのかなと思っていましたが、山寺さんがキャラクターの説得力を作ってくださいました。

── 「奇跡の7分間」には参加できませんでしたが、エゼキエルのラップもかっこよかったです。

西辺　エゼキエルのラップのシーンも、海外のエキストラさんに実際にラップをやってもらった映像をもとに作画しているので、ちゃんとしたラッパーのアクションに見えるんですよね。

天野　渡辺監督がみずから、手持ちのカメラで撮影したんです。撮影している姿を見ていて、これを作画に落とし込むのかと、ちょっと血の気が引きましたけどね（笑）。カメラが動くたびに画面が揺れて、背景のパースが変わるので、それを絵にするのは大変な労力が必要なんです。監督は「大丈夫、背景はBL（黒）だから」と言ったので、少しはホッとしたんですけど。結果エゼキエルの「Crash The Server」のミュージックビデオ（MV）はうまくいってよかったです。

西辺　動きのあるアングルで、ラップのMVらしい映像になりました。エゼキエルの歌を担当したデンゼル・カリー（Denzel Curry）が、あのシーンについて、かっこいいと感想をツイートしてくれたのはうれしかったですね。今回は参加してくれたアーティスト側にも、いろいろと面白いことが起こっていたんです。アーティガンの曲を作ってくれたスティーヴ・アオキが日本のフェスに出演したとき、アンジェラの歌唱を担当したアリサが急遽ゲスト出演したり。

── そんなことがあったんですね。

西辺　イベント当日に行われたアオキのトークショーに、たまたまアリサが見に行って挨拶したらしくて。その際、「この後、イベントがあるから見に来ない？」とアリサを誘って、そのまま、「ステージに出ちゃいなよ」と。それでアーティガン feat. アンジェラの「LIGHTS GO OUT」を何万人のオーディエンスの前で歌ったという嘘みたいなホントの話です（笑）。


── それはすごい。

西辺　僕は別の仕事で台湾にいたんですけど、アリサのマネージメントからメールや着信がすごくあって、「どうしたらいいですか？」と。すぐにアリサに電話したんですけど、「本番があと10分後でどうしたらいいですか？？」と焦っていたので、もう、「せっかくの機会だから楽しんで！がんばって！」としか言えなかったですね（笑）。

天野　アーティガン feat. アンジェラが思わぬ形で現実になっちゃったんです（笑）。

西辺　そのライブはYouTubeで生配信されていたので、渡辺監督に電話して、「とにかく今、YouTubeを見てください」と。パソコンを開いた監督もびっくりして、「本当だ、アンジェラじゃん」と（笑）。あれこそ奇跡でしたね。


── TVシリーズを終えて、どんなお気持ちですか？

天野　今までにない制作スタイルになってしまったことでスタッフには大変な苦労をかけましたが、最後まで走り切ってもらい感謝してます。本当に感無量ですね。

西辺　今だから言えることですけど（笑）。この作品の制作がこんなに大変だとは、当初は予想もしていませんでした。世界中と音楽のデータをやり取りすることで、言葉の壁を越えて通じ合える感覚があって、それはとても刺激的でした。

天野　実写映像を撮って作画するだけでも、普通のアニメーションにはないやり方ですが、そこから生まれたアイデアをストーリーに反映させたり、楽曲からのイメージによって新たな演出ができ上がっていったというのは、この作品ならではだと思います。

西辺　そういう意味では、実写に近い作り方を渡辺監督がされていたなと。また、音楽的にもストーリー的にも、すごく現代性を感じました。「奇跡の7分間」も現場のホールにお客さんを入れたわけではなく、世界中に生配信されたというのが、今の音楽シーンらしいなと。また、最終話は「Mother」を歌い終えると、その後の展開は一切なしで終わっていくんですよね。あの演出も、さすがだと思いましたね。渡辺監督が意図した通り、5年後10年後も見ていただけるような希有な作品になったと思います。

天野　「Mother」を歌い終わった後、キャロルとチューズデイとアンジェラが3人で抱き合って喜ぶのですが、あのシーンも実写で撮ったものでした。「Mother」を撮影していたときに、渡辺監督が「歌い終わったら、みんなで喜んでください」と演技指導をしたら、ナイとセレイナとアリサが抱き合ったんです。そのときの彼女たちがすごくいい表情だったんですよね。

西辺　あのときの3人の笑顔が、そのままキャラクターとして描かれて…。作品に関わったスタッフの想いが詰まった、最高のラストカットになったと思います。

商品データ

■本編
第1話～第12話収録
■映像特典

・メイキングムービー「Story of Miracle Special Edition vol.1」（収録時間：30分）・オープニングテーマ「Kiss Me」Music Video
・フラッシュアニメ「きゃろる＆ちゅーずでい」
　第1話 ガス＆ロディ
　第2話 アーティガン＆ロディ
　第3話 アンジェラ＆タオ
　第4話 チューズデイ＆ロディ
・ノンクレジット オープニング／ノンクレジット エンディング
・各話振り返り映像　（第1話～第12話）

■特典CD
CD「CAROLE & TUESDAY Supporting Tracks Vol.1」
※「VOCAL COLLECTION」未収録の劇中歌唱曲を多数収録


（取材・文／鈴木隆詩）
(C) ボンズ・渡辺信一郎/キャロル＆チューズデイ製作委員会