「奇跡の7分間」はどのようにして生まれたのか?  2人のプロデューサーが語る「キャロル&チューズデイ」

2019年10月26日 12:000
(C) ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

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「Mother」は、録音データが世界各国を巡るレコーディングになりました


天野 渡辺監督は、実写撮影の場では常にライブ感あふれる感じでしたね。シナリオ打ち合わせではまだ話に出てこなかった設定や構想を、撮影中にふと言い出すのは、回を重ねるごとに増えていきました。19話のサイドニア・フェスでのキャロル&チューズデイもそうですね。ステージで2人で座って歌ったじゃないですか。あれも、実写撮影のときに渡辺監督が提案したことです。

西辺 「Message in the Wind」ですね。

天野 渡辺監督がナイとセレイナに「座って歌ってみて」と。それがシナリオに反映されて、アンジェラとアーティガンの派手なステージを見た2人が、逆に自分たちはいつも家で演奏しているときのスタイルを通そうと考える、という流れが生まれました。

── 実写撮影は、渡辺監督にとってはストーリーのインスピレーションを得る場でもあったということですね。

天野 そういった部分はあったと思います。だから渡辺監督が一番、実写撮影の現場を楽しんでいるように見えました。アニメはコンテの段階ですべてが決まるんですけど、実写はその場でアドリブ的に演出をつけていくことができるじゃないですか。それが刺激的だったんではないかなと。

西辺 レコーディングの現場でも、インスピレーションを得て、コンテを切り始めるということがよくありました。まだシナリオもない段階なのに、歌のシーンだけ、監督の中でなんとなくストーリーが先に決まっていくんです。そしてライター陣には、それに紐付けてシナリオを書いてもらうと。

天野 ナイとセレイナも撮影自体にだんだん慣れてきて、監督の要求に応えられるようになっていったのが面白かったですね。

西辺 撮影のときもレコーディングのときも、2人は監督の指示でいろいろな演技をさせられていましたから。2クール目のOP映像で、キャロルとチューズデイが原っぱみたいなところでいろいろな楽器を演奏するシーンがあったじゃないですか。あれはビクタースタジオにある楽器を寄せ集めて、2人に自由に楽器をいじってもらった映像が元になっているんです。


── 2クール目は特別エンディングがいくつかありましたが、22話の病院に担ぎ込まれるアンジェラを、彼女自身の視点で描いていたのは印象的でした。

天野 あれは音楽と映像が絶妙にハマってよかったですよね。アンジェラの歌う「Endless」ができ上がった後に監督が思いついたアイデアです。

西辺 「Endless」は曲が2段階になっていて、歌が終わったと思ったら、お尻にEパートが付いていたんですけど、その長さがちょうど90秒だったんです。「だったら、『Endless』を流したままエンディングに持っていけるよね」と渡辺監督が思いついて。そこから病院に運ばれていくアンジェラの目線で描いていくという特殊エンディングが生まれました。

天野 「Endless」には別の話があって、この曲をクリエイターに発注する打ち合わせの最中に、僕らは初めて、アンジェラとタオがデザイナーズチルドレンであり、兄妹だと監督から知らされたんですよね。

西辺 そうそう、あれはD.A.N.に「Endless」を発注している場でした。シナリオはまだでき上がっていない状態で、監督がいきなり、「実はアンジェラはタオと兄妹なんだ」と言ったんです。

天野 僕ら2人で目を見合わせて、「知ってた?」「知らないよね」と(笑)。

西辺 アーティストの目の前で知らなかったとは言えないから、納得しているような表情をして(笑)。その後、すぐにライター陣に連絡しました。


── 「キャロル&チューズデイ」は現在の社会状況を見据えての作品でもありましたね。

西辺 そうですね。2クール目に入ると、政治ドラマの色合いがより強くなっていきました。

天野 多様な人種がいて、現代社会に照らし合わせた政治状況になっていくというのは、渡辺監督が当初から描こうとしていました。キャロルとチューズデイ自身が政治を語るということはないんですけど、今の状況に対して、音楽でどう真摯に向かい合っていくのかというのはこの作品のテーマにもなっていました。

西辺 名曲が生まれるときというのは、世界の政治や経済、さまざまな環境が歪んでいるときだ、という話を監督がされていて。1985年に有名アーティストが集まって歌った「ウィー・アー・ザ・ワールド(We Are The World)」や、ジョン・レノンの「イマジン(Imagine)」の話が出たので、「奇跡の7分間」の曲もそういう曲になるんだろうなというイメージがありました。

天野 それはこの作品で本当に名曲を作らなきゃいけないということなんですけどね(笑)。

西辺 「奇跡の7分間というからには、7分の曲を作るということですよね?」と監督に聞いたら、「もちろん」と。それで、エヴァン・ボガート(Evan Borgart)というビヨンセの「ヘイロー(Halo)」とかを作っているクリエイターにお願いすることにしました。「キャロル&チューズデイ」ではほかに、アンジェラの「Light A Fire」やフローラの「Give You The World」を書いてくれた方です。

── 「奇跡の7分間」の楽曲制作者の人選は、お2人が中心になって行われたと。

西辺 そうですね。エヴァンはロサンゼルスに住んでいるんですけど、日本のアニメーションが好きで、メールのレスも早くて、こちらのオーダーに対してもしっかり対応してくれる人だったので、信頼できるなと。「エヴァンにお願いしたいです」と渡辺監督に進言してOKをいただきました。曲ができてからが大変でしたけど。

── 「Mother」は、火星中のミュージシャンが集まって、みんなで歌う曲ですからね。

西辺 各国をプロ・ツールスのデータが行き交うことになりました。キャロル&チューズデイとアンジェラをまず日本でレコーディングして、それをベースにカナダに投げたりウェールズに投げたりフランスに投げたり、アメリカに投げたりして、各所で歌を録ってもらい、それを日本でまとめて、またエヴァンのいるロサンゼルスに送ってと。

天野 「奇跡の7分間」も、実際に歌っている映像を撮って作画しました。主要キャラの後ろに30人くらい火星のミュージシャンが並んで一斉に歌っているシーンは、さすがに30人は集めきれなかったので、スタッフ含めて10人くらいに横並びになって歌ってもらったものを、編集で合成したうえで作画で増やしていきました。


西辺 その中にはボンズの南さんも混ざっているんですよね。作画では女性に変わってましたけど(笑)。

天野 あのシーンの為に30人分のキャラクターをデザインを作るのも大変でしたね。

西辺 現実のミュージシャンをオマージュしてキャラを作っているので、みんなどこか似ているんですよね。それの1人ひとりにめいめいの動きをさせるということで、作画枚数は恐ろしいくらいの量になりました。

天野 まさに作画も音楽も総力戦というシーンでしたね。

画像一覧

  • (C) ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

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キャロル&チューズデイ

キャロル&チューズデイ

放送日: 2019年4月10日~2019年10月2日   制作会社: ボンズ
キャスト: 島袋美由利、市ノ瀬加那、大塚明夫、入野自由、上坂すみれ、神谷浩史、宮野真守、堀内賢雄、宮寺智子、櫻井孝宏、坂本真綾、安元洋貴
(C) ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

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