「ドリフターズ」はいかに「原作そのまま」の印象を紡ぎ出したか―TVアニメの常識を超えた職人技

2016年12月29日 18:000

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平野耕太節をアニメで表現するための猛烈な作り込みとは


──中森さんは「HELLSING」からキャラクターデザイン・総作監を務められているので、平野先生の絵をアニメで表現するうえで欠かせない人物ですが、「ドリフターズ」の場合はTVシリーズということで、どのくらいの労力を割かれているのでしょうか?

鈴木 「HELLSING」はOVAだったので、基本的には100%稼働してもらいました。キメのカットだけではなく全カットを見てもらって、すべて中森クオリティで作品を完結させる作りでした。でも「ドリフターズ」はTVシリーズと言う事もありカット数も全体的に多いので、中森さんのリソースも限られている中で1話数あたりどのくらいを見てもらえるかはすごく考えました。そもそも「ドリフターズ」は「HELLSING」と比べてキャラクターのパーツが多いし、アクションも多いので、あのレベルで全カットを動かすことはできないんですよ。

上田 だからキャラクター設定も、カメラが寄った場合、ミドルの場合、引いた場合でそれぞれ作っています。中森さんもメインの3キャラ(豊久・信長・与一)の表情集については、普通は5~6枚のところをあらゆる角度から表情集を描いてくれました。

鈴木 作画が崩れそうな時は、最悪これをトレスすればいいというリスクヘッジも考えられて設定を起こしているんですよね。

上田 表情芝居が多いし、平野タッチでアオリ(被写体を見上げる構図)を描くのって難しいよね。普通のアニメーターがマンガを参考にして描いてもなかなかうまくいかないので、そうなると中森さんにやってもらうしかない。

鈴木 ただ各話の作監陣もがんばってかなり中森さんの絵に合わせてくれましたので、アクションシーンなどは彼らに任せることができました。

──平野先生のタッチを出すためにはどんな工夫をされたのでしょうか?

鈴木 主には撮影と影付けと“くくり線”ですね。鼻の陰とか、線の周りを囲って表現するんです。


上田 輪郭線を作画で拾おうとすると線が痩せてしまって迫力が出ないんですよ。これのコントロールが難しくて、どこまでを太くしていいのかみんなわからないので、現場がすごく混乱するんですよ。

鈴木 単純にすべての線を太くすればいいというわけではないんですよね。

上田 サインペンみたいな線になってしまうと全然違うものになる。

鈴木 平野先生の癖をいかに拾うか。そこはアニメ用に削りつつやるという感じですね。

上田 そこはキャラクターデザインの領域として中森さんが平野節を「これだったら現場が注意すれば、実現できるレベル」を設定に落とし込んでくれています。

──キャラクターデザイナーというのは、単にカッコいい絵を描くのではなく、スタッフの歩留まりのよさを設定するのもお仕事の重要な部分なんですね。

鈴木 そうです。アニメは大勢で作るものなので、みんなで作業ができるように準備しなくてはいけません。そこはイラストレーションとは異なるところですね。また作品によって、しきい値(可不可の境界)は違ってきます。中森さんは「ドリフターズ」で本来的に求められている絵と、TVシリーズとして量産体制が可能なギリギリのクオリティを狙ってデザインをしてくれています。

上田 もっと簡略化したほうが動かしたり遊びはできるけど、平野作品に求められている質感というものがやはりあるわけです。

鈴木 質感というのは素材のそれではなく、フィルムとしての質感。原作をパッと見た人は黒っぽいなという印象を抱くと思うんです。それをカラーのアニメでどう出していったらいいかというところを上田さんとはよく話し合いましたね。


──どんな方針を立てられたのでしょうか?

上田 キャラクターが軽くならないようにしています。撮影やセルの処理を、通常のTVシリーズだと時間的に難しいような工程で行なっています。撮影監督がOKした素上がり状態のものから編集のeDiTzさんが特殊なソフトを使って質感やグレード感を高める作業を行なって、さらにソニーPCLで色調補正をかけるというステップを踏んでいます。

鈴木 つまり仕上げから数えると画面作りに4工程をかけているわけです。

──それによって一見しただけで画面の印象が原作らしいと感じることができるわけですね。また、本作では絵コンテを担当された方の中に監督経験のある方が数多く並んでいますが、事前の段階で特にお願いしたことはありましたか?

鈴木 原作で使っているような重要なコマはなるべくすくい上げてほしいという発注をしました。絵コンテをチェックするときにも、いかに平野作品のアニメに見えるかというところはすごく気にしていました。それ以外の部分はこちら側で直すという作業をしています。

──たとえば原作では小さいコマで描かれていても、作劇をするうえで重要な場合は印象に残るような見せ方をされたりとか?

鈴木 そうですね。当初の目的として、アニメを見た人が「このシーン、原作にあったな」とコミックスを確認したら、実はなかったと思わせるくらい、気づかれずにアニメのほうで補完するようにできればと狙っていました。

──芝居の流れを作るうえで、ギャグのシーンは演出するのは難しくありませんでしたか?

鈴木 難しいですよー(笑)。今でも何が正しかったかわからない(笑)。

上田 実は、海外ではあのギャグのシーンは慣れないと受け入れられないだろうし、平野作品の硬質なイメージとかブランド感に逆行してしまうので、監督にはできるだけ減らしてってプレッシャーをかけていたんですよ(笑)。もちろん作品の楽しい部分でもあるから、むやみにカットはしませんが、それでもいざ切ろうとするとストーリー的に絶対に省略できないような、お話のキーポイントになるような大事な部分がソコにブチ込まれてたりする地獄罠(笑)。


鈴木 かといって、そこだけ急に真面目にしても流れがおかしくなってしまうんです。だからギャグでやるしかない。でも流れでいくと引っかかるし、本当に悩みどころでした。

上田 結局、ギャグってセンスの話になるからテッパンのギャグ以外、かけ合いの微妙なさじ加減は監督が引き上げてやらないとダメなんですよ。

鈴木 単に絵面をあの絵にすればいいというわけではなく、タイミングも重要なんですよね。

上田 背景も、原作のあの背景を素材として使っても画が保てないんだけど、監督が愉快なBGMをうまく流して保たせてくれたりして。8割方変わってないんだけど、残りの2割をカッティングなどである程度の水準までもっていく。

鈴木 数コマが勝負ですね。とにかく引っかからないように注意はしましたね。

上田 そう、ウケたいんじゃなくて引っかからないようにする。面白いのは原作で面白いわけだから。

──引っかかりについていうと、原作ではキメとなる大コマに長尺のセリフが書かれていることがあります。こうしたコマはどのように処理されていますか?

鈴木 たとえば10秒間、画面が保つクオリティのコマだからといって、それをそのまま10秒映していいというわけではないんです。フィルム全体のバランスとして、ここに10秒を投じていいのか、2秒にすべきではないかと考えて演出をしています。だから、15秒使っているキメのコマもあれば5秒で済ませているコマもあります。

上田 結果としてキャラクターの言った言葉が視聴者の印象に残っていればいいというわけです。

鈴木 ギャグもそれの延長線上ですよね。テンポよく演出していくといっても、そこに含まれている内容まで聞き逃されてはダメなので。そことリアルな場面との整合性をいかにうまく作れるかというところかなと思います。

画像一覧

  • (C) 平野耕太・少年画報社/DRIFTERS製作委員会

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放送日: 2016年10月7日~2016年12月23日   制作会社: フッズエンタテインメント
キャスト: 中村悠一、内田直哉、斎賀みつき、鈴木達央、青山穣、家中宏、小野大輔、高木渉、櫻井孝宏、古城門志帆、西田雅一、楠大典、皆川純子、乃村健次、北西純子、田中正彦、安元洋貴、石田彰、宮本充、伊藤かな恵、間島淳司、続木友子、石塚さより
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