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――ちなみに『SHIROBAKO』はどちらの手法をとられたんですか?
あえて分けるなら、王道でしょうか。『SHIROBAKO』に関しては、「アニメ業界のアニメです」という大きく話題を集められそうなポイントがあったので、ネタばれ防止も含めて放送前に特殊な宣伝はやりすぎないようにしようと思っていました。
P.A.WORKSさんの制作で、水島努さんが監督で、さらにアニメ業界の話です……ということさえ、きちんと認識されてていれば、アニメが好きな人ならまず見てもらえると思ったんです。「アニメはたまに見るだけ」くらいの人でも、アニメ制作の裏側には興味があるはずだとも思いましたし、放送されることが認知されればいいくらいの気持ちでした。
だから普通に番組宣伝(=放送を告知するテレビCM)を打って、コミケのワーナーのブースでPVを流して、公式サイトを公開して、公式サイトで順番に情報を公開していって、媒体のみなさんにもご連絡して記事にしてもらって……と、本当にオーソドックスな宣伝をしました。逆に内容などを詳しく説明しすぎると、この作品の場合はライトな方の試聴選択肢に入らない可能性も出てくるので…。
――なるほど。
ほかには、主人公の宮森あおいがアニメの制作進行、ようするにアニメ制作会社の会社員であるということで、彼女の名刺を用意させていただきました。。配った名刺に載っているメールアドレスと電話番号は実際に使えるようになっていて、電話をかけると宮森が電話に出ますし、メールを送ると返信がある。それらは通常のアニメにはないかもしれない手法ですね。興味を持ってる人達の中で話題を創出するネタを用意したという感じでしょうか。
――公式サイトにアニメ制作のワークフローがわかるコンテンツや、アニメ業界の専門用語集が置いてあったのもユニークですよね。
あ、そうですね。宣伝とは少し違う話かもしれないですけど、コンテンツとしてそういったものは用意してみました。1話目ができあがった段階で、アニメに携わっている僕たちからしても、わからないところがあったんですよ。フィルムの密度が濃いし、だいぶ抑えるように調整したそうなんですが、やはりセリフに専門用語が多い。これは説明したほうがいいよね、という話になったんです。わかって見たほうがやはり面白いですからね。
――宮森も名刺も、公式サイトの作りも、アニメの世界と現実を重ねあわせるようなことをやられているのかな、と。
公式サイトというのは、ムサニ(武蔵野アニメーション)のページを用意していたりするところですよね。たしかに、『SHIROBAKO』の世界と、現実を少しずつ近づけてはいます。昨年の1クール目、劇中の日程もほぼ同じなんですよ。劇中アニメの『えくそだすっ!』は、「10月開始の1クールもの、全13本のテレビアニメ」という想定でスケジュールを組んでいて、放送日も毎週木曜なんです。
『SHIROBAKO』も10月新番で、TOKYO MXでの最速放送は毎週木曜。『えくそだすっ!』の方が『SHIROBAKO』より1週早く、10月2日の木曜日から放送が始まっていますが、ほぼスケジュールの想定は同じです。だからたまに画面に登場する日付も、実際の制作とシンクロするようなところがあったりします。そこは制作スタッフのこだわりですね。
――そこまで生々しいものとなると、見ていて感じるところもあるのでは。
いやー、『SHIROBAKO』の中で交わされている会話というのは、やっぱりものすごくリアルだと思いますよ。
P.A.WORKSの堀川さんが何かのインタビューで「『SHIROBAKO』は6割リアル、3割は盛っている話で、1割はファンタジーだ」と仰っていたと思います。要は9割くらいは、リアルな要素があるってことですよね。そこは本当にそう感じますし、『SHIROBAKO』の面白いところだと思いますね。
それでいて、アニメの制作現場の話にとどまらない、「お仕事あるある」としての魅力があるんですよね。社会人であれば誰でもわかる要素が詰まっている作品だと思います。宣伝的にも、いろいろな角度から見てもらえるように、アピールしていきたいなとは思っています。
――2クール目の展開も楽しみです。
『えくそだすっ!』の話が終わって、新たなキャラクターが出てきて、また新しい局面にムサニも入ってきて5人の女の子たちがそこにどう関わっていくのか、最後まで注目していただければ。水島監督に、ものすごくおもしろい作品にしていただいているので、1クール目のおどろきと同じようなものが、2クール目でも感じられると思いますよ。
あとはブルーレイにも注目していただければ。映像特典は、宮森を演じている木村珠莉さんがP.A.WORKSさんに行って、制作スタッフに話を聞くという内容で、音声特典はスタッフのコメンタリーです。どちらもそこでしか聞けない裏話が満載です。また、発表されましたが、地域とのコラボイベントなどもやっています。公式サイトやTwitterをぜひチェックしてください。
――では最後に、アニメの宣伝という仕事に携わっていて、どんな瞬間にやりがいを感じるのかをうかがって終わらせていただこうかと。
お、なるほど……僕はアニメが好きなので、全般的にやりがいを感じてるんですけど……宣伝という業務に限定していうと、作ったもの、実施したことみなさんが喜んでくれているとうれしいですかね、やはり。それは「宣伝に成功しているから」という理由だけではなく、喜んでもらえていること自体がうれしい。宣伝のために設置したものやイベントの感想がSNSに投稿されて、そこから見に行った人たち、あるいは、携わってくれた人たちに反応が広がっていくのをみているときは、幸せです。
あとは……そうですね。最終的には「流れ」を作ることができたときにやりがいを感じます。できあがった作品の面白さと、宣伝の力が合わさって、「流れ」を作れたなと実感できたときは、ものすごくうれしい。オンラインゲームの仕事をしていたときには、これは味わえなかったんですよ。オンラインゲームはニッチな産業なので、お客さんからの反応はよく返ってくるので凄く楽しいんですけど、業界全体としての流行というのは感じるのが難しいんですよね。でもアニメって、時にはものすごい科学反応が起こる。やっぱりテレビや劇場といった「マスメディア」を通じて広まるものは、影響力が大きいなと思いますね。アニメファンだけではなく、アニメを見ない人までタイトルを認知するような大きな「流れ」を、ワーナーからも生み出していけたら、うれしいですね。
(取材・文/前田久)
<イントロダクション>
シロバコとは映像業界で使われる白い箱に入ったビデオテープの事でありひとつの作品が完成した際に、制作者が最初に手にする事が出来る成果物である。イラストや写真等で華やかに作られている販売用パッケージと比べれば、白い箱に入っただけのテープは地味かもしれない。しかし、そこにはクリエイター達の想いが詰まっている。この物語は、5人の夢追う女の子を中心に、シロバコの完成を目指し奮闘するアニメ業界にスポットを当て日々起こるトラブルや、クリエイティブな仕事ゆえに起こる葛藤や挫折、集団で作るからこそ起こる 結束や衝突といったアニメ業界の日常を描いた群像劇作品である。そして、5人が共に目指した夢への挑戦。その先に見出す希望へと続くサクセスストーリー。 そう、アニメの今がここにある・・・。