-----過去作品との関係について。
新海監督:『秒速5センチメートル』っていう現実を舞台にした話があって、次に『星を追う子ども』というファンタジーがあり、今回『言の葉の庭』という現実があるから『星を追う子ども』が上手くいかなくて『秒速5センチメートル』に戻したんじゃないの?みたいに思われがちかと思うのですが、そうではなくて『星を追う子ども』がなければ『言の葉の庭』のような作品はなかったと思います。
それは、登場人物たちの行動原理みたいなものも『星を追う子ども』のような作品を作ったからこそ、最終的に正面からぶつかり合う様な2人の関係を描くことができたんだと思うし、毎作の反省点があって、それを克服するために次の作品を作りますから『星を追う子ども』は『秒速5センチメートル』の反省をふまえて作ったし『言の葉の庭』は『星を追う子ども』での反省をふまえて作っています。そのように、少しづつ前に進んでいるような感覚です。
-----キャスティングについて。
新海監督:基本的に監督である僕が、決めさせていただくのですが、入野さんは前作も出演して頂いて、確実にタカオを表現してくれるだろうと思っていたのですんなり決まりました。
ユキノの声優さんは全くイメージがなかったので、キャスティング事務所に条件を伝えて、テープオーディションをして、最初の条件として大人役だから25歳以上の女優と声優の中から選んでくださいとお願いしていたんですけど、23歳の花澤さんが混ざっていたんです。ご本人が是非やりたいからと手をあげたので特別に撮りましたということを伺いました。
で、聴いてみて結果的には一番花澤さんがよかったんです。彼女の声はすごく甘えた声に聞こえることもあれば、距離を感じてしまう様な冷たい響きを帯びたりするときもあり、それがユキノみたいな不安定な状態にいるキャラクターにマッチするなと思ったんですね。
花澤さんと一緒にキャラクターを作り上げていこうと思い、彼女にオファーして結果的にはすごくいいものをいただけたと思っています。
-----「Rain」は、以前から注目されていた曲だったのでしょうか。
新海監督:もちろん好きな曲だったんですが、僕が初めて聞いたのは1993年ぐらいだと思います。大学生のときだったんですけどクラスメイトに大江千里が大好きな女の子がいて、誘われて大江千里のライブに行ったりカセットテープを沢山渡されて(笑)
「Rain」もそのうちの1つでいい曲だなーとは当時から思っていたんですけど、雨の物語を描いていく中で、最初に思い浮かんだのが「Rain」だったんです。それで「Rain」をビデオコンテの中に当てはめて、最後のシーンを組み立てていたりしたんですね。そんなことをやっているうちに、これは「Rain」以外はありえないんじゃないかと思うようになりました。
-----歌詞がピッタリですよね。
新海監督:ピッタリだと思います。特に歌いだしの「言葉にできず」というところがすごく良くて、最後2人の気持ちは「言葉からはみ出た部分」な訳で、歌詞もいいし過剰にメロディアスではないメロディも、たんたんとした雨が降り注ぐようなメロディは凄くピッタリで。でも大江千里さんの曲は80年代に作られた曲ですから、2013年の時代感に合うアーティストの方に歌っていただきたいと思い、秦さんにカバーをお願いしました。
-----最後に楽しみにしている方へ。
新海監督:あらゆる言い訳をしなくても済むような作品を作りたいと思いました。
アニメだからアニメ好きの人に見てほしいというのもある種の言い訳だと思いますし、アニメがあまり好きじゃない人が見ても楽しめるものにしなくてはいけないと思いました。
逆に一般層に向けすぎて、アニメ好きには楽しめないというのもよくないと思ったんですね。アニメが好きな人が見たとしても画面的に驚きに満ちていると思いますし、物語としても凄く楽しめる、感情移入できるものを持っていると思います。
それは、アニメ好き以外の人が見たとしてもアニメーションの魅力に気付いてもらえる1つのキッカケになりうる作品ができたんじゃないかという自負があります。今のアニメーションって、こんなにきれいなの?と思ってもらえると思いますし、きっと楽しめる作品になっているになっているんじゃないかと思います。
ですので、周りの友達で自分と違うタイプの人や好きな人とか年上年下の方を連れて、劇場に見に行っていただけると、そのあと凄く盛り上がるんじゃないかと思います。是非そんな風に見ていただけると嬉しいです。