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2013年5月31日(金)より劇場上映される新海誠監督の最新作「言の葉の庭」。
今回は、監督に作品のテーマから、こめられた思い、制作についてをお聞きしました。
「あらすじ」
靴職人を目指す高校生・タカオは、雨の朝は決まって学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。ある日、タカオは、ひとり缶ビールを飲む謎 めいた年上の女性・ユキノと出会う。ふたりは約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、次第に心を通わせていく。居場所を見失ってしまったとい うユキノに、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願うタカオ。六月の空のように物憂げに揺れ動く、互いの思いをよそに梅雨は明けようとしていた。
-----本作では雨がテーマなのでしょうか。
新海監督:今回は、実際の2つの意味で雨宿りの話にしようと思いました。1つは、雨宿りのために2人の男女が偶然出会うという話。もう1つは、象徴的な意味での雨宿りで、彼らにとってはあの数ヶ月間が一時避難のようなもので、人生の中に雨が降っている時期に2人が出会い雨宿りしている話でもあると思います。
2重の意味で雨宿りの話ですので、実際に描く雨も2人の関係性を象徴するようなビジュアルとして、少しずつ変えながら描いています。
-----メインの舞台は東京の新宿にある日本庭園ですね。
新海監督:僕は、ここ10年以上は新宿や渋谷の辺りを作品毎に転々と住処を変えていますが、すごく好きな場所なんです。公園の周りや新宿駅の風景や西新宿の風景や代々木のdocomoタワーもすごく好きな眺めなんです。なのでシンプルに好きな眺めを映像にしたいという気持ちがありました。
2011年には大きな地震があって、自分達が当たり前だと思っているものが意外にすっと無くなってしまうことがあるんだなという実感が誰の心の中にも、無意識のうちに植えつけられたと思うんです。
自分が生活していて好きだと思っている空間が、もしかしたら10年後、20年後、30年後には、まったく違う風景になってしまうかもしれないっていう気持ちを抱いていて、今のこの時期をそのままフィルムの中に焼き付けておきたいという気持ちもあったんだと思います。
-----公園では、手前に木々があり後ろに人物が重なる描写が多いのですが、意図的な構図なのでしょうか。
新海監督:アニメーションは、原理的に狙わないと絵が作れませんので、すべて意図というか、あのような絵にしようという思いがあって描いています。いくつか理由ががあるんですが、1つには今回は2人の距離。年齢的にも心理的にも距離がある2人のお話ですから、常に間に何かが挟まっているという絵にしたかったんですね。
だから、2人の間には雨や葉っぱや枝といった、そういう2人の間を隔てるものをアニメでいうブック(本のBookと同じ綴り)っていうんですけど、ブックをキャラクターの間に挟んでます。
そういう表現としての演出としての意味合いのほかに、今回はコンテをデジタルで描いていることも理由の1つです。フォトショップで描いていて、コンテの時点でレイヤー分けしてキャラクターの手前にあるものは、別レイヤーとして描いているんですね。
キャラクターが動く時にカメラが追ってフォローしているときは、重なっている木のスピードを少しずつ変えてスクロールさせて遠近を出すんですが、ここの木は3レイヤーぐらいあれば立体感十分かなとかコンテを描きながら考えていました。コンテの時点でブックの数まで考えて設計しきれたのはコンテをデジタルで描いているからだと思います。
-----雨、水の描写が綺麗で透明感がある表現でした。
新海監督:雨は、1つのキャラクターというぐらい重要な位置でしたから、雨の降り方、雨の種類みたいなものは描き分けていました。強い雨、弱い雨、土砂降り、天気雨、それぞれの雨が土に落ちた時、水たまりに落ちた時、アスファルトに落ち時の表現は、今回雨が1つのテーマだからこそ、そこまで雨にリソースを割けたんだと思います。
あと、水というのは、すごく絵を表現するにあたって魅力的な題材なんです。無色透明で見る角度によって、まるで表情が変わりますよね。
空を反射して、鏡のように見える瞬間もあれば、全く何も写さず、下の地面がそのまま見えてしまうような角度もあるし、こう表現したいというアイデアさえあれば、どこまでも写実的に描くことができるし、水たまりって、こうだよねとか、濡れているものはこうだよねという共感を得やすい題材だと思うんですよ。
水たまりの見え方や雨に濡れた物の見え方は、みんな分かっているようでいて、なんとなくしか把握していないけれどアニメーションの中で具体的にディティールを持って表現してあげると「あ、そうだ!こうだったんだ!」という驚きを与えることができます。
それは実写でただ撮っても「ふーん」で流れてしまうことだけど、アニメーションで表現するからこそのインパクトですよね。
-----本作は、プラトニックな恋愛作品なんですが、これまでの作品と違いエロスを感じました。
新海監督:少年が15歳で女性が27歳という立場ならば、美しく純粋な関係を描けるんじゃないかと。だからといって肉体的な欲望が排除される訳ではなく、特に少年から見てみたら(ユキノは)未知の塊みたいな存在です。
未知の塊というのは、神秘的でもあるし、なんというか肉欲に結びつくような魅力もあります。
ユキノはタカオにとって、そういう存在である必要がありました。冒頭の「まるで世界の秘密そのものみたいに彼女は見える」の台詞もありますけども、そういう対象なんだとしたら、やっぱりそれは意図的に女性らしいフォルム、胸はちょっと大きめにして、時々ちょっと胸元も見せてとか(笑)
足もそういう部分ですよね。少年にとっては、まさに未知の部分です。そのような意図があってエロティックに描かなければいけないという部分は、意識して描いています。