【インタビュー】制作期間3年超! 作曲家・石塚玲依が語る「地球外少年少女」サウンドトラックができるまで

2022年01月26日 12:000

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サントラのキーワードは「スマホ的音楽」と「シンフォニック」です


── 磯監督と再び打ち合わせできたのは、いつでしたか?

石塚 2018年の12月だったと思います。そのときの打ち合わせで、「地球外少年少女」のサントラの目指す方向のひとつとして、「スマホ的音楽」というキーワードが出てきたんです。それで今度は、僕が想像する「スマホ的音楽」を作ってみて、監督のイメージとすり合わせていきました。

── 石塚さんと監督がイメージした「スマホ的音楽」とは、どのようなものだったのでしょうか?

石塚 従来のアニメでは、宇宙基地というのは鉄のような重金属ばかりでできているイメージだったと思うんです。でも実際の未来に造られることになる宇宙施設はそれとは違って、布などの軽い素材になっている部分があったり、ポップなデザインがされたりして、子どもにも親しめる空間になっているんじゃないかと、監督がおっしゃっていて。それを音楽で表現するために出てきたのが「スマホ的音楽」というキーワードだったんです。では、具体的に「スマホ的音楽」とはどういうものか。監督といろいろ試していった結果、現実にあるスマホの通知音やジングルを入れ込んで作っていくことになりました。具体的に言うと、マリンバやピアノの短くて印象的なフレーズや電子音を使っていこうと。


── わかります。「地球外少年少女」を見ていると、聞き覚えのある音が流れてきて、「あれ、スマホの電源、切ったっけ?」と思う瞬間がありました。

石塚 あると思います(笑)。登矢を初めとした子どもたちの日常と、彼らが巻き込まれていく危機的な状況はほとんど「スマホ的音楽」で表現されていて、日常曲だけでなく戦闘曲もそうなっています。戦闘曲ではクラップ(拍手)の多用も特徴的ですね。これは監督のお気に入りの音で、僕がひとりで音楽を作っていたら使っていなかったと思います。本物の拍手の音ではなく音源を使った打ち込みなので、人には叩けないような細かなフレーズを奏でていて、拍手という本来人間的な音でありながら人工的な印象を生んでいます。

── 人間的な音と人工的な音のさじ加減というのは、「地球外少年少女」のサントラの多くの曲に感じた点でした。

石塚 そうですね。オーボエのような木管楽器のために、あえて音の跳躍が激しい、人には吹けないフレーズを書いてみたり、そういう試みをいろいろしています。未来だったら、こんな音もあり得そうな気がして。

── 「地球外少年少女」のサントラは、オーケストラによる生の演奏だったはずです。今おっしゃったようなフレーズは、どのようにして録音したんですか?

石塚 基本的には僕がコンピューター上で作曲した音源を、オーケストラの生演奏に差し替えているんですが、今言った人には演奏できない部分のみ、打ち込みのままにしています。マリンバを初めとするマレット系の楽器(枹で打つ鍵盤打楽器)もそうですね。あえて打ち込みのままにしたり、生の演奏でもチープな録音にしてみたりと、いろいろな録音を試しました。マレット系の楽器は人が演奏すると1つひとつの音に微妙な強弱がついて人間味を帯びるんですけど、今回はそれをあえて機械的な均一の音に加工しているんです。

── 「スマホ的音楽」にはくくることができない曲も、サントラには入っています。

石塚 「シンフォニック」という、監督がおっしゃったもうひとつのキーワードがありました。宇宙空間やAIが作り出す抽象的な世界を表現するときは、「スマホ的音楽」から離れて「シンフォニック」な曲にしてほしいと。


── “セブン”という人類史上最高知能に達したAIが、「地球外少年少女」には登場します。それをイメージしたのが33曲目に収録されている「セブン」ですが、これなどはまさに「シンフォニック」ですね。往年のSF映画のサントラのような雰囲気を持つ、壮大な曲でした。

石塚 人間の“セブン”に対する畏怖の感覚を表現した曲ということで、僕は最初、もう少し怖く聞こえる曲にしていたんです。でも、監督はそれを「虚無的音楽」とおっしゃって、そういうタイプの曲は「地球外少年少女」では使わないとNGを出されました。つまり、畏怖する存在をマイナーキーで表現するのではなく、別の形にしてほしいと。それで選んだのがドミソという一番ピュアな和音で、がらりと生まれ変わったのが「セブン」です。ピュアな音だからこその畏怖感という逆転の発想ですね。

── 確かに「地球外少年少女」において、AIはピュアな存在として描かれていました。

石塚 AIをイメージした曲はほかにもありますが、どれもメジャーキーを使ったやさしい感じになっているんです。これらをマイナーにするかメジャーにするかで、作品の雰囲気はかなり変わっていったのではないかと思いますね。監督は「音楽のことはわからない」とよく謙遜していましたが、音楽の演出も見事にコントロールされていたと思います。

── 各曲について、本当に細かく指示を出されているわけですからね。

石塚 サントラの制作を通して、監督からジュブナイル作品を作るためのセンスというものを教えられた気がしました。登矢たちの会話シーンで流れる曲も、僕が最初に書いたのはもう少し落ち着いた曲調になっていたんですが、監督から「子どものやり取りというのは、大人とは違ってもっとテンポが速いものだから、それを音楽でも表現してほしい」と言われて、イチから書き直したんです。そして、最初に書いた曲はおじさんっぽい雰囲気だったということで、「あんしんくん」(作品の主な舞台となる、日本の商業宇宙ステーションのマスコットキャラクター)のテーマになりました(笑)。

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  • (C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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地球外少年少女

地球外少年少女

上映開始日: 2022年1月28日   制作会社: Production +h.
キャスト: 藤原夏海、和氣あず未、小野賢章、赤﨑千夏、小林由美子、伊瀬茉莉也
(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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