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3か月もの間、毎週長時間の定例会が開かれました
── 「あんしん」は、宇宙ステーションなのに、内部は現代の日本の街みたいなんですよね。どこかで見たような企業のロゴがところどころにあり、自動販売機から神社の鳥居まであり。「あんしん」という名前も、全方位に気を配ったあげくにかっこ悪くなってしまった日本のお役所感があって、笑いました。 石塚 「あんしん」の内部を映像で見たときはインパクトがありましたよね(笑)。企業のロゴもパロディ要素満載で面白かったです。
── サントラにも収録されていますが、「あんしん音頭」がスピーカーから流されていたりして、いかにも日本的だなあと。 石塚 「あんしん音頭」は2度目のレコーディング直前の最後の定例会で、発注を受けたんです。フリー音源に音頭はたくさんあるから、それを使ってもいいかなという方向に行きそうになったとき、いや、やはりオリジナルの音頭を作ろうと。「普通の音頭でいいよ」と監督から言われたので、ごく普通に作りました(笑)。
── 今おっしゃった定例会とは、どんなものですか? 石塚 2021年になって始まった、リモートによる音楽のための会議です。サントラのレコーディングが4月と5月にあったんですが、その前の3月から2度目のレコーディングをした5月中旬まで、毎週続きました。
── 毎週というのはすごいですね。 石塚 しかも毎回、夕方6時から深夜までやってました。
── 毎回そんなに長く話し合っていたんですか!? 石塚 できあがった曲をその場で監督に聴いていただいて、たとえば「この曲のパーカッションだけ消したものを聴いてみたい」と言われると、僕がすぐにパソコンで楽器をミュートして、またチェックしていただくみたいな感じで、楽器単位で細かいところまで検証していったので、すごく時間がかかったんです。それを全曲やったので、まあ大変でした(笑)。
── 今まで聞いたことがないようなサントラの作り方です。 石塚 磯監督ならではですね。作品全体に流れる質感を音楽によって決定づけたいとおっしゃっていて、そのためにも楽器1つひとつについて、想定しているシーンに合うのかどうか、確認する必要があったんだと思います。今回は、数曲を除いて、映像のタイミングに合わせて楽曲制作する「フィルムスコアリング」ではなかったんですけど、それ以上に手間がかかることをやっていたと思います。
── 音響監督の清水洋史さんは、サントラについてはどのような役割を担ったのでしょうか? 石塚 まずは監督の意向を踏まえて、具体的な音楽メニューを作ってくださいました。監督が求めている曲を列記しつつ、こういうタイプの曲がないと、サントラとして成立しないという現実的な観点からリストに曲を加えて、全体的なバランスを取ってくださいました。
定例会では、監督と僕の間に立って、監督の言葉をわかりやすくかみ砕いてくださったり、僕の考えを監督に伝えてくださって。清水さんを交えて監督とトライアングルの関係性を築けたことによって、音楽制作はより円滑に進むことになりました。定例会では清水さんだけでなく参加したスタッフからたくさんの意見が出て、風通しのいい会議になっていましたね。もちろん監督の意見を一番大事にしつつ、それをいかに具体化していくかについて、みんな同列の立場で話し合っていきました。遠慮はせず、意見があれば全部出していこうという空気ができあがっていたのが、よかったと思います。
── 先ほど、数曲を除いてフィルムスコアリングではなかったとおっしゃいましたが? 石塚 重要なシーンの音楽は、後から映像に合わせて修正できるように、作曲段階で工夫しておいたんです。そして映像ができ上がった後にタイミングを合わせる作業をやったので、ほぼフィルムスコアリングと言っていいのではないかと思います。
── オーケストラのレコーディングはいかがでしたか? 石塚 演奏者のみなさんには事前に、今回の曲のいくつかは「スマホ的音楽」をコンセプトにしていることを説明しました。僕の言葉を見事に汲み取ってくださって、すばらしい演奏になりました。