「ロボットってどんな風にコミュニケーションを取るのか、楽しんで観てもらえたら」──アニメ「エデン」入江泰浩監督インタビュー!

2021年06月01日 10:000

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Netflixオリジナルアニメシリーズ「エデン」が、2021年5月27日(木)より全世界独占配信がスタート。早くも話題を呼んでいる。

「エデン」は、何千年もの未来を描いたSFファンタジーシリーズ。

人間が姿を消した、緑豊かな、ロボットだけが生活する世界「エデン3」に暮らす2体の農業用ロボットは、禁じられた古代神話の存在である「人間」の女の子の赤ちゃんと出会う。そこからロボットの教義に疑問を抱き始めた2体のロボットは、エデンの外で「サラ」と名付けられた女の子をひそかに育て始める。

やがて、サラは「エデン3」の謎に迫っていく……。

 

本作制作の指揮をとったのは、「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」などでも知られる入江泰浩監督。企画の成り立ちから、どのような意図を持って作品を制作していったのかなどをうかがった。
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自分のやったことのないジャンル、世界観だった

ーー作品の企画の成り立ちを教えてください。

 

入江 私の知り合いで、エデンでは共同プロデューサーとして参加している長谷川さんから、「プロデューサーのジャスティンがアニメの監督を探していいます。興味ありますか?」というお話をいただきまして、それが本作に関わることになったきっかけです。

 

その時点でジャスティンが書いた「エデン」の世界観、大まかな物語の流れを読ませていただき、面白いなと。自分がやったことがないジャンルであり世界観なのでやってみたいと思い、参加することにしました。

 

ーージャスティンさんの中で、すでに世界観があって、そこからストーリーを構築していったのですね。

 

入江 そうですね。最初のテキストでは、今現在から100年後、200年後にこういう出来事があってロボットだけの世界になって、そこから何百年経って……という歴史的な部分も書かれていました。その中でここの部分をアニメにするんですよと解説していただき、その後、脚本のうえのきみこさんに参加してもらい、ジャスティンと一緒にディスカッションしてストーリーを練っていきました。

 

そこから、サラという人間のキャラクターの部分によりクローズアップして、サラとロボットたちのコミュニケーションを中心とした物語を作っていきました。

 

ーー「エデン」はSF作品ですが、想像していたよりもSF要素を全面に押し出したものではなく、印象としては家族の愛についての話が中心に据えられていると感じたのですが、この辺りの意図を教えてください。

 

入江 私自身、ライトなSF作品というものは読んだり見たりしてきたのですが、ハードSF……ロバート・A・ハインラインなどの伝説的な作家たちが描いてきた作品の素養というものはないので、自分がやるとしたら、ハードSFの魅力を全開にするというよりは、キャラクターの感情の流れだとかコミュニケーションを描くほうが得意だと思いました。

 

なので、バックグラウンドとしてSF設定はあるのですが、作品の方向性としては、キャラクターにクローズアップしていくことを、判断として行いました。それについてはジャスティンのほうも「とてもいいことだ」と感じてくれていたので、スムーズに今の形になっています。

 

 

ーー昨今、はるか先の未来を描く作品も多くありますが、その中で「エデン」特有の未来へのアプローチというのはどういったものでしょうか?

 

入江 個人的に魅力的だなと思ったのは、ロボット側の倫理観というか、ロボット側のルールについて、最初のテキストの中に強く記述されていたんです。

 

そういうアプローチで作品を描くということは、自分の発想にはなかったことなのでとても面白いと思いました。たとえば人間側のルールであれば、言わずもがなで「これが大切だよね」という共通認識であると思うんです。でもロボット側のルールを、あえて作っている作品はあまりないなと思ったんです。ロボットそれぞれに役割が分担されていて、その役割ごとに倫理観なりルールが設定されているというのは面白いですよね。

 

ーーロボットなのに、その社会ルールの中で適合できない個体があるというところが、とても面白いと思いました。

 

入江 高度にプログラムが発達すればするほど、バグではないけど、そこから外れた行動をすることが起こりうるんだろうなという。そういう感覚なのだと思います。

 

ーーそういう高度に発達したプログラムがあるというのは感じることができるのですが、そこをあえて細かく説明しない印象もありました。これはこういうことかな?と想像の余地を残してくれているところが、とてもよかったと思っています。そこはあえてそうしていったのでしょうか?

 

入江 それに関しては、尺としては1話25分×4本という総尺は決まっていたというのもあります。カット数も、3DCG会社との間で、1エピソードあたり300カット以内というのも決まっておりましたので、どこを重点的に描くかを選択していき、それ以外の部分を多く説明しなくても、こちらが描きたいほうに興味を抱かせる、抱いてもらうほうが作品にとっては有益だろうという判断がありました。結果的に、視聴者がいろいろ妄想できる部分も生まれたかなと思います。

 

ーー〈エデン〉の世界がどう作られていったのか。ドクターがエデン・プロジェクトでどういうポジションにいたのかというところなど、いろいろなシーンから想像していくのが楽しかったです。

 

入江 そこは皆さんの想像を外すことはないと思っていますし、誤解は生じないだろうなと思いますが、こちらが思ってもいなかった想像が生まれると逆に楽しいですね。

 

 

ーーサラが一気に成長していたところは、どんな感じで育ったんだろうと想像するところは多かったのかなと思いました。

 

入江 そうですね。サラは小さい頃から一気に10代前半になり、そこから18歳になっていくのですが、10代前半のところでもっといろいろなことができるのではないかというアイデアは、シナリオ会議の段階では多く出ました。

 

だけどもそれをやってしまうと、今回の物語のひとつの解決までなかなかたどり着けないというところで、サラが大きくなるところまでは、点描的にショートショートで進めていったところはありますね。

 

ーーロボットに育てられたのに、なぜあんなに普通の女の子のように成長しているのかという部分で、先ほども出ましたが、それほど高度に発達したAIなんだろうし、でもなぜそういう機能があるのかなど、想像がふくらみますよね。

 

入江 描かれていないところでの出来事があったでしょうしね。描写はしていないですけど、動物などもいるでしょうから、そういうものと追いかけっこをしていたかもしれないですし、そのへんは楽しく想像してもらっていいかなと思います(笑)。

 



さまざまな才能が集った制作チーム

ーー今回3DCGで動かすという点で、デザインの仕方に2D作品との違いはあったのでしょうか?

 

入江 3DCGで動かすためにデザイン的な制約があるのだとしたら、1点だけで、髪の毛の長さや裾やスカートなど、体に影響する長いものはなるべく避けてほしいということでした。そこは川元利浩さん(キャラクターデザイン。代表作は「カウボーイビバップ」「血界戦線」など)にもお伝えしましたが、それ以外の部分でデザイン的な制約はなかったです。

 

ーー今回、なぜ川元さんにお願いしたのでしょうか?

 

入江 ジャスティンと川元さんは古くからの知り合いで、ジャスティンもいつか一緒に仕事をしたいと思っていたそうなので、彼のほうからオファーをしていました。私自身、川元さんとは一緒に仕事をしたこともある知り合いでしたので、何の心配もなく、「むしろやってくれるんだ、うれしい!」という気持ちでしたね(笑)。

 

ーーロボットのデザインも個性的ですよね。

 

入江 サラと一緒にいるロボットたちは、クリストフ・フェレラというフランスのイラストレーターであり漫画家の方がデザインをしています。彼の中で、日本のロボットアニメのような顔のあるものではなく、工業製品としてのアプローチがしたいという希望がありまして、僕もその方向性でやってみたいと思っていたので、どんどん描いてくださいと言って進めていきました。

 

ーーロボットのデザインが、かわいいですよね。

 

入江 四角かったり丸かったりという部分でシルエット自体もキャラクターごとに描き分けられていますし、色もイメージボードの段階でクリストフが付けていました。とてもやさしい方向の、親近感あるいいデザインだなと思います。

 

 

ーー今回の声の収録は2回あったそうですが、どういう流れだったのでしょうか?

 

入江 手描きのアニメの場合は画を作って、アニメーターや演出がタイミングを作り、そこに声を乗せる感じなのですが、フル3DCGアニメーションというのはガイドとなる音声がまず必要で、それに合わせてアニメーションを作っていくという手順になるんです。

 

なので仮音声という形で声を録って、それに合わせてアニメーションを作っていき、ある程度完成に近づいたところで、改めてアフレコをしました。そこからさらにアニメーションで微調整をする作業をしました。

 

ーー最初にプレスコで行った音声は、使われないのですか?

 

入江 使った部分はあるかもしれないですが、ほぼ映像がある程度完成したところで録り直した音声が本番のものになっていると思います。

 

ーーサラ役の高野麻里佳さんは、顔の映像も撮っていたとおっしゃっていました。

 

入江 キャラクターがセリフをしゃべるときに、どういう目の見開き方をするのか、眉のしかめ方をするのかなど、声優さんは芝居をするときに、いろんな表情を作りながら声を出していますので、その表情をアニメーターの参考にさせていただきました。

 

ーーサラの両親の芝居がとても絶妙で、本当の親でありそうでロボットでもある。このラインはどうやって演出したのでしょうか?

 

入江 E92役の伊藤健太郎さんとA37役の氷上恭子さんという、実力のあるお2人が演じてくださったことで、とても楽しいキャラクターになったと思います。

 

こちらからは、サラと初めて遭遇したときに言語機能が立ち上がって、そこからコミュニケーションを重ねるごとにロボット側に情報が蓄積されてコミュニケーションの勉強を積み重ねていく。言語機能とコミュニケーション機能というのがどんどん発達していくので、話数を重ねるごとに人間臭く、人間らしくなっていきますというオーダーをして、それを実現していただいた感じになります。

 

ーー最初に、赤ちゃんのサラを警護ロボットから守ろうとしているところは、本当に人間なんじゃないかなと思うような感じで、プログラムなんでしょうけど、かわいらしかったです。

 

入江 人間を守るために合理的に判断して行動した結果、こちらから見ているとコミカルな印象になればいいなと思って作っていました(笑)。

 

 

ーープログラムの結果の行動だろうけど、感情があるんだと思いたい自分がいる、みたいな感覚でした(笑)。ゼロ役の山寺宏一さんも、難しい役柄だったと思います。

 

入江 本当にいろいろな状況を演じ分けてくれました。今どういう気持ちで言葉を発しているのか、どういうバランスでやるのか、その配分が重要となるキャラクターだったのですが、山寺さんは、こちらのディレクションを踏まえたうえで、考えて演じてくれていました。無機質なロボットでも根っこのところで、パーソナリティが感じられるような、そういう芝居をしてくれたなというのは、アフレコを聞いた瞬間から感じていました。

 

ーーそして劇伴音楽もとても印象的でした。追いかけられたり、焦ったりするシーンでもどこか優雅なところのある音楽が使われています。

 

入江 ラフな状態の映像を見ながらフィルムスコアリングのような形で、ケビン・ペンキンが音楽を作ってくれました。その中で激しい部分ではなく優雅なところでチョイスしてくるというのがケビン特有のセンスだと感じます。それによって作品の匂い、香り、品というものが決まっていったのかなと。そのチョイスはすごくよかったと思います。

 

ーー日本のアニメでは見ないような付け方の感じがしましたし、ラストに流れる歌もよかったです。

 

入江 ありがとうございます。それはケビンも気に入っていた曲なので、とても喜ぶと思います。ケビンがやりたいアプローチがあると言って作っていたので、それが伝わったんだと思います(笑)。

 

ーーでは最後に、アニメを観てどんなことを感じてほしいですか?

 

入江 「エデン」にはいろんな要素が盛り込まれていて、結果的に現実社会で起こっていることとリンクするような印象があるかもしれないのですが、単純に25分×4本の連続モノのエンターテインメント・娯楽作品として、存分に楽しんでいただける作品になっていると確信しておりますので、サラってどんな子なんだろう、ロボットってどんな風にコミュニケーションを取るんだろうなどと思いながら楽しんで見てもらえたら、それがいちばん嬉しいです。

 

 

(取材・文/塚越淳一)

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配信日: 2021年5月27日   制作会社: CGCGスタジオ
キャスト: 高野麻里佳、伊藤健太郎、氷上恭子、山寺宏一

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