「大空の風」になれる映像体験! 9月11日公開「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」MX4D先行体験&プログラマーインタビュー!

2020年09月07日 19:110
「大空の風」になれる映像体験! 9月11日公開「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」MX4D先行体験&プログラマーインタビュー!

「ガールズ&パンツァー」「SHIROBAKO」などで知られる水島努監督が手がけたTVアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」。本作は少女たちを主人公に描かれた空戦アニメだが、TVシリーズを再構成し、新規カットを追加した「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」が9月11日より全国公開されるうえ、7.1chサラウンドの音響やMX4D版での上映も決定している。

 

MX4Dとは、映画に合わせて、映画館の座席が動いたり、エアーやストロボ、スモークなどの特殊効果が付加されたりすることで、映像をさらに楽しめるシステム。今回、そのMX4D版を先んじて体験できた。さらに、MX4Dのギミックをプログラミングしたダイナモピクチャーズの吉田和弥さんと野中友恵さんにお話をおうかがいすることもできた。新たな劇場エンターテインメントとして広まりつつあるMX4Dによって、「荒野のコトブキ飛行隊」はどのように再生したのだろうか。

 

 

まず、MX4D版「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」(以下、「完全版」)の感想を述べるならば、「アトラクション」のひと言に尽きる。主人公であるキリエは、搭乗した隼一型のコックピットで計器のスイッチを入れ、ハンドルを回し、垂直尾翼やフラップの可動を確認し、羽衣丸の格納庫内レーンへとタキシングしていく……。そのひとつひとつのアクションに合わせて座席が振動する。もちろん、筆者には戦闘機で空を駆けた経験はないが、実際の振動がこのようなものであっただろうという感覚ではなく、画面や音響から得られる刺激を後押しするような効果になっている。その点ではどのようなコンセプトで効果をつけていったのだろうか。主に座面の振動を担当した野中さんによると、

「基本的には、画面の効果音に合わせて座面の振動をつけていきます。『完全版』に関して言えば、あえてほとんどBGMをなくしていて、かつ戦闘機の搭乗時間も長いうえ、機銃の音や爆発の音が同時多発的に起こっていきますから、それらをすべて拾って振動に落とし込むことになります。そのうえで、一番楽しいバランスになるように調整しています。音楽のミックスのような作業ですが、『完全版』はそこがかなり大変でしたね」

ということだ。

野中友恵さん

 

椅子自体の動きや、ストロボ、スモーク、匂いといった外部ギミックを担当する吉田さんはさらに、

「画面と音響で得られる情報に効果をつけていく、という形なので現実(リアル)というよりは、描かれている虚構に対するリアル、ですね。画面と一体感があるように。むしろ、現実でのリアルを追求しすぎて映像と合わないとなると、見ていても違和感を覚えてしまうので」

と説明してくれた。求めているのは、作品につけられたSEやBGMを増幅する動き、つまり、MX4Dという効果も映像の補佐のひとつであるという考え方だ。その意味で、効果をつける個所、効果の強弱といったところは、多くの経験に基づいたプログラマーの感覚にゆだねられる。

吉田和弥さん

 

だが、ダイナモでMX4Dを担当する全作品全プログラムを手がけ、劇場版「マクロスF」や「マクロスΔ」、同じ水島努監督の劇場版「ガールズ&パンツァー」(以下、「ガルパン」)のMX4D版なども担当した2人には数多くのノウハウが蓄積されている。

 

「まずは2人で映像を確認し、象徴的なシーンを選んで効果をつけていきます。こういった方向性で効果をつけます、というサンプルですね。それを、監督をはじめとするコンテンツ側に確認していただき、コンセプトのすり合わせを行ったうえで実作業に入ります。やはり派手めに付けておいてからあとで修正するほうが簡単なので、最初の段階では遠慮せずに効果をつけていきます。そこは僕らの経験値というか、こういう映像ならこのくらい、という感覚ですね」(吉田)

「『マクロス』のバルキリーもそうでしたが、アクロバティックなシーンのほうがつけやすく、あまり動かない作品ですと苦労しますね。その点、『完全版』は絵の中の登場人物が激しく動くので、得意なジャンルではありました」(野中)

 

有する経験が、今回の「完全版」に存分に生かされているわけだ。その点については水島監督からの信頼もあり、結果にも満足いただいているようだ。

 

では、水島監督との間では具体的にどのようなやりとりがあったのだろうか。戦闘機や空戦が好きという水島監督だけあり、「完全版」につけられた効果には監督の意向が反映されていると見た。

「以前に劇場版の『ガルパン』で経験させていただいたこともあり、監督の予想に近いところを、方向性を決める打ち合わせで出せたようで、細かな修正は多くありませんでした。ただ、『完全版』は戦闘シーンが多いという構成上、アクセントを考えずに作業をすると全編に効果を付けることになりそうで……(笑)。普通は映像の50%、少ないと20~30%ですが、『完全版』の場合は、80%くらいはありそうでしたから。実際にギミックが入った量を考えても、今までやってきた映画の中でトップクラスですね。ただ、効果が多すぎると見る側も疲れ果ててしまいます。落とすところ、絞るところは考えました。水島監督からも、ラストの戦闘が一番盛り上がるように中盤は若干抑えてもらえますか、とは言われていました」(吉田)

「監督からは注文というよりも、むしろ“リクエスト”のような感じでした。たとえば、ロングショットで離れたところの爆発を映すシーンでは、振動が遅れてくるようにしてほしい、といったことは言われました」(野中)

「あとは、コトブキ飛行隊が増槽(追加燃料タンク)を落とすところでは、機体が軽くなった分少し上昇するんですね。そこは水島監督としてもこだわった演出なので、『効果でも拾ってほしい』とは言われました」(吉田)

 

実際、「完全版」を体感する中でも、全編通しての効果の強弱、バランスは非常に感じられ、アトラクション的でありながらもやはり映像表現だ、と実感させられた。

 

いっぽう、体感する前から気になっていたのは、加速運動中に受ける圧力「G」だ。アニメや映画などで航空機が描かれるとき、その描写は肝となるところであり、本作でも巧みな映像表現がなされ、あるいは演者たちも注力したところだ。ただ、効果を体感させるうえでは非常に難しく、どのようなプログラミングでアプローチしたのか気になる。

「できる範囲で(笑)」(吉田)

「がんばってはいる(笑)」(野中)

「乗り物で移動しているシーンも椅子を回すことで表現するんですが、飛行機って宙返りしますよね。さすがに椅子を宙返りさせるわけにはいかないので、そこをどう再現するかは試行錯誤しました。動きとしては、MX4Dは椅子を前後左右、ピッチとロールの方向に動かすんですが、それを前から始まって横の動きを組み合わせ、後ろも動かす、とグラインドさせました。そこはもう、いかにそれっぽい感覚を作れるか、という挑戦ですね」(吉田)

ただ、MX4Dではシートの突き上げといった効果があり、「衝撃」を受けることで搭乗感を増すこともできる。そこは「完全版」でアトラクション性が高いと感じたひとつで、テーマパーク的ではあるが、座席のグラインドと合わせて、戦闘空域にいるような疑似体験を得られるはずだ。そして、その点を実現した背景にはあるコンセプトがあった。

  

 

「目指したのは、戦闘機に乗っている感じというよりも、戦闘空域の中に吹く“風”になった感覚ですね」(野中)

「主人公と敵がはっきり分かれている作品ですと、主人公視点だけを表現することもあります。つまり敵がやられたときには、効果音や振動は付けないという場合ですね。主観と客観のどちらに効果をつけるかというのはいつも悩みどころです。たとえば、右旋回しているときに、コクピット視点から戦闘機を前から映すカットに切り替わったとしたら、右に椅子を倒すのか左に倒すのか」(吉田)

たとえば、「シン・ゴジラ」では制作者の意向で、ゴジラの背中にミサイルが当たってても振動させなかったという。それは観客が誰に感情移入するかを意識した結果だ。だが「完全版」では、攻守が入れ替わりながら戦闘が続くというドッグファイトを描いている点が大きな魅力でもある。そのスピード感を損なわないためには、MX4Dとしても一方の視点で効果をつけていては意味がなかった。そこで効果でも主観と客観を織り交ぜている。撃たれたのがコトブキ飛行隊であろうが自由博愛連合であろうが、機銃の着弾に合わせてエアー(風)が噴出されるわけだ。それによってある種、常に撃たれ続けているような高い緊迫感が出てくる。「つまり、『完全版』は誰視点かというと“風”視点ということですね」(野中)

 

 

前述もしたが、「完全版」最大の見どころはラスト、コトブキ飛行隊が自由博愛連合との決戦を迎えるところ。ここで注目したいのがイサオの搭乗した震電改。ジェットエンジンを搭載し、キリエたちの戦闘機をはるかに凌駕する速度を誇る機体だけに、空戦シーンでの飛行における効果も当然異なっており、体験した身としてもその違いは感じ取れた。

「微妙な差ではあるんですが、戦闘機によって振動も変えています。震電に関しては劇中でのエンジン音がウィーンという高音なので。音に合わせて素直に落とし込んだという感覚ですね。コトブキ飛行隊が乗っている隼一型はガタガタガタって感じで(笑)」(野中)

「震電はちょっと特別で、気持ち悪い動きをするので(笑)、その気持ち悪さが出るようには意識はしました」(吉田)

このあたりは劇場版「ガルパン」で、戦車によって振動を変えたという経験が生きている。

「ただ、『ガルパン』のときは、ひとつひとつの修正はたいしたことないんですが、量がすごかったですね(笑)」(吉田)

 

 

最後に、プログラミングに携わったおふた方から効果という点での見どころを聞いてみたが、そこである興味深いコメントもいただいた。

「僕はTV放送のときから見ていたんですが、そのときから『これ、つけたいな』と思っていたんですよね。実際に作業しても、MX4Dを意識した映像になっていると感じました。水島監督の他作品を見てみると、最初の劇場版『ガールズ&パンツァー』よりも、劇場版でMX4Dを体験してから制作した作品である『ガールズ&パンツァー 最終章』のほうが“主観”はどんどん増えています。そして『完全版』ではとても自然に効果をつけられました。やっぱりほかの映画に関しては『そこにあるものに付けていく』という感覚なんですが。弊社ではMX4Dを組み込んだVRアトラクションも作っていて、主観という点だけ見ればその究極はVR映像になると思いますが、その感覚には近かったですね。今までで一番アトラクション感が高い映画だとも言えます」(吉田)

 

「あとはやはり、座面の振動からも“風”と一体になれる映画だということは言っておきたいですね。風を切るときの微妙な音など、目の前を飛行機が横切るような迫力を、体が震えるような振動を再現しているのでそこを感じてほしいです。MX4Dのプログラム作業では、表現としてのクリエイティビティを求められるのですが、いっぽうで私たちはモノを作り出すクリエイターではないんですね。クリエイターはあくまでも監督さんであって、監督さんが意図された演出表現を4Dというツールを使って拡張・具現化するための作業だと思っています。ですから、プログラムをチェックしていただく際には、水島監督のように映像に想いを持った方にご確認いただけるのが、一番重要なことだと思っています。なので、私たちは、その想いをしっかりと受け止めて、どうすれば観客の皆さんにその想いを届けられるか、という事を一番意識しています」(野中)

 

右より吉田さん、野中さん。そして取材に同席していただいたソニービジネスソリューション株式会社 MX4Dプロジェクトリーダー・條々淳さん

 

「荒野のコトブキ飛行隊」の特徴として、ドッグファイトシーンが多いのはもちろんだが、操縦席視点が多いことに気づいた人も多いだろう。戦闘機、ロボットを問わず、古今東西存在する戦闘シーンに比べると、キャラクターの苦悶や歓喜を描くシーンは抑えめとさえ言える。ガールズアニメでありながら異端とも言えるその表現が気になっていたが、MX4D版を体験することでその答えのひとつを得られた感覚だ。主観と客観が巧みに交差していく絵作りや演出に、MX4Dという特殊効果がリンクしたことで生まれる新たなアニメーション体験。水島監督作品を味わえる魅力的な手段のひとつとして、MX4D版で「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」をぜひ体験してもらいたいと感じた。

 
(取材・文/清水耕司)

【作品情報】
■「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」
公開日:2020年9月11日(金)
配給:バンダイナムコアーツ、ショウゲート
宣伝:クロックワークス

<スタッフ>
監督・音響監督:水島努/シリーズ構成:横手美智子/脚本:横手美智子 吉野弘幸 檜垣亮/メインキャラクター原案:左/キャラクターデザイン:菅井翔 /ミリタリー監修:二宮茂幸/ミリタリー設定:中野哲也 菊地秀行 時浜次郎/設定協力:白土晴一/3D 監督:江川久志/テクニカルディレクター:水 橋啓太/総作画監督:中村統子/美術監督:小倉一男/色彩設計:山上愛子/撮影監督:篠崎亨/編集:吉武将人/音楽:浜口史郎/音響効果:小山恭 正/サウンドミキサー:山口貴之/エンディング主題歌:コトブキ飛行隊「翼を持つ者たち」/制作:デジタル・フロンティア/アニメーション制作: GEMBA/作画制作:ワオワールド

<キャスト>
キリエ:鈴代紗弓
エンマ:幸村恵理
ケイト:仲谷明香
レオナ:瀬戸麻沙美
ザラ:山村響
チカ:富田美憂
マダム・ルゥルゥ:矢島晶子
サネアツ:藤原啓治
アンナ:吉岡美咲
マリア:岡咲美保
アディ:島袋美由利
ベティ:古賀葵
シンディ:川井田夏海
ナツオ:大久保瑠美
ジョニー:上田燿司
リリコ:東山奈央

<イントロダクション>
一面荒野が広がる世界、“イジツ”――。 ある日、空に“穴”が空き、そこから色々なものが降ってきた。中でも“ユーハング”がもたらしたものの影響は大きく、とりわけ飛行機の存在によって 人々の生活は激変。以降、世界の潮流は空へと移っていった。 時は流れ――、空には商船とその用心棒、荒くれ者の空賊など、さまざまな人々が飛び交っていた。オウニ商会の雇われ用心棒“コトブキ飛行隊”は、空 を飛ぶことが大好きな、女の子だけのスゴ腕パイロット集団。 彼女たちは愛機である隼一型とともに、イジツ全体を巻き込む大きな戦いへと立ち向かっていく――。

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上映開始日: 2020年9月11日   制作会社: GEMBA
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(C) 「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」製作委員会

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