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「恋する和牛」は、和牛のご当地ソングになればいいかなと(笑)
── 2曲目「人生美味礼讃」はアルバムタイトル曲ですね。 宝野 「美味シリーズ」の始まりの曲です。初収録は「Dilettante」(2005)というアルバムで、「好事家」を全体のテーマにしていたので、そこには当然、食通の曲も入れなければということで作りました。
片倉 この曲がなかったら、「美味シリーズ」は存在しなかったし、必然的に今回のアルバムも生まれなかったという重要な曲ですね。今回のアルバムの既存曲は、どれも原曲を収録しているんですけど、「人生美味礼讃」だけはマスタリングの直前というかなり制作が進んだ段階になって、宝野さんにボーカルを録り直したいと急に言われたんです(笑)。
宝野 かなり前の曲なのでボーカルがかわいいんです。今だったら、もっと黒い歌い方ができると思って提案したんですけど、片倉さんにあえなく却下されました。
片倉 一応、検討はしたんですけど、スケジュール的に無理だと思って。
宝野 結局、原曲のままの収録になりましたが、聴き返してみたら、むしろ、かわいい声だからこその狂気が感じられて、歌い直さなくてよかったと思い直しました。
── 最後の演奏が、宗教音楽のように荘厳になっていくのが印象的でした。歌の主人公はラストで、自分の死後の運命を想像するのですが、その姿がサウンドでも表現されているように感じました。 片倉 その通りです。最後は鎮魂歌ですね。
宝野 (曲の主人公は)美食をとことん極めたいと願っている人なので、「私が死んだら、どうぞ食べてください」と思うんじゃないかと思って書いたのが、最後の部分でした。それに片倉さんが天に召されるような音楽をつけてくれました。
片倉 音楽的にはけっこうふざけている曲なんです。部分的に、人が歌うことを想定していないような、現代音楽風のメロディになっていたりするんですが、宝野さんが見事に歌ってくれました。
── ふざけていると言えば3曲目の「恋する和牛」です。歌詞も楽曲もユーモア満点でした。 片倉 ウチのバイオリンが芦屋のおぼっちゃんで、実家の庭のバーベキューで神戸牛が振る舞われるそうなんです。じゃあ、みんなで行こうという話から、牛肉の歌を作ることになって。
宝野 たしか「ランティス祭り」の控え室だったと思います。バンドメンバーみんなで、「GYU! GYU!」と繰り返す和牛の曲を作ろうと盛り上がって(笑)。
── 和牛と言いつつ、サウンド的にはエスニックなんですよね。 片倉 そうですね。日本じゃないです。ふざけた曲なので、音楽的にも遊ばせてもらいました。
宝野 そのおかげで、日本語の歌詞をメロディに当てるのが、意外と難しかったです。発想としては、神戸牛と言えば、日本四大和牛のひとつだというところから始まって、残りの3つも出していこうと。近江牛と米沢牛と松阪牛ですね。
── 和牛へのこだわりがたっぷり入った歌詞です。 宝野 日本産イコール和牛かというと、そうじゃないんですよね。ネットでいろいろ調べて、エサのこだわりとか肉質の等級とか、牛についてのあれこれを歌詞に盛り込んでいきました。牛のおならとげっぷが地球温暖化の要因だというちょっと腹立たしい学説があるじゃないですか。それには疑問符をつきつけてみました(笑)。
── 四大和牛以外にも、いろいろな銘柄がでてきますね。 宝野 片倉さんが北海道出身で私が熊本出身なので、十勝和牛とくまもとあか牛も加えました。ライブで披露するときは、この部分をご当地の和牛に変えたいなと思っています(笑)。
片倉 ご当地和牛ソングです(笑)。
── 続く3曲は、既存曲ですね。「昭和B級下手喰い道」、「茸狂乱美味礼讃」、「狩猟令嬢ジビエ日誌」とどれもタイトルからしてインパクトが強く、歌詞にはストーリー性がありました。 宝野 どれも私の身の回りのことから生まれた曲です。「昭和B級下手喰い道」は徳間ジャパンの宣伝担当の方が昭和の話が大好きで、いつも昭和の食べ物の話題で盛り上がっていることから生まれた曲です。「茸狂乱美味礼讃」は私がキノコ鍋にハマった時期に作って、「狩猟令嬢ジビエ日誌」は大好きなジビエ料理を題材にしました。ちょうど海外ドラマの「ダウントン・アビー」にハマっていたころで、あれは貴族の館の話じゃないですか。狩りのシーンがよく出てきたので、じゃあ、貴族の令嬢が自分の敷地内で狩りをして、それを料理人にさばいてもらって食べる歌にしようと思いました。
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── 7曲目の「喰らう女」は新曲で、ストレートなロックをやっているので驚きました。アリプロとしてはすごく珍しいことですよね。 片倉 ギターサウンドで、こういう曲は初めてですね。
宝野 実は最初、ヤプーズ(編集部注:戸川純がボーカルのロックバンド。1983年結成)の「肉屋のように」をカバーしようと思ったんです。
片倉 アリカさんが、昔、大好きだったんです。
宝野 戸川純さんを追いかけてました(笑)。「肉屋のように」は、愛しいあなたを食べたい、という歌で名曲なんですよ。でも、私がヤプーズをカバーすると、戸川純さんにしかならないなと思ったの。
片倉 好きだから、真似しちゃって。
宝野 そうなると、原曲を超えることはできないので、自分たちで新たに曲を作ろうと思いました。
片倉 それでパンクバンドをイメージして、ギターを鳴らしているような曲が生まれたんです。
── ボーカルも、いつものアリカさんとは違って、女性ロックボーカリストの雰囲気になっていました。 片倉 この人は、レコーディング前に一切練習してこない人なんですよ(笑)。当日、スタジオでマイクの設定などをしつつ、5回くらい歌って、歌い方についてもいろいろと調整して本番に行き、本番も多くて5回、少なければ3回歌っただけで、完成まで持っていくんです。この曲も当然練習なんかしてきてないから、どうなるかな? と思ったら、練習を含めて3テイクで録れてしまいました。こういうシンプルなメロディは、あっという間に歌えるんだなと思いました。
宝野 なんだか、いつもより楽でした(笑)。
片倉 でも、こういうジャンルに声が合っているんです。前にDEAD ENDのトリビュートアルバムに参加して、「Serafine」という曲を歌っていましたが(編集部注:2013年リリースの「DEAD END Tribute -SONG OF LUNATICS-」)、そのときのボーカルもかっこよくて、アリプロの複雑な曲より、シンプルなロックのほうが向いてるんじゃないかと思いました(笑)。
宝野 こういう曲を歌うと、歌が上手いと言われるんですよ。アリプロのちまちました曲を、しっかり歌っても言われないのに(笑)。
片倉 ちまちましてて悪かったね(笑)。
── 「喰らう女」が異質に聞こえるのはアリプロならでは、だと思いました。続く8曲目「お毒味LADY」は、2009年のアルバム「Poison」(プワゾン)の収録曲です。どこか懐かしいシンセポップですね。 片倉 「喰らう女」からの流れで8曲目にしました。2009年はシングルもいっぱいリリースして、忙しかった年ですね。音楽的には雑食主義で、いろいろなことをやっていた時期でした。
宝野 この曲はドラァグクイーンたちに好評なんですよね。だから、ライブでもよく取り上げています。
片倉 ゲイ受けする曲ですね。アリプロファンの5%くらいはゲイの方なので、反応がわかるんです。
宝野 いや、もっと多いと思う。10%くらいはいるんじゃない?
片倉 女性が圧倒的に多くて、男性も増えつつあって、ゲイも一定数いるというのがアリプロのライブです。