【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第7回「ラブライブ!サンシャイン!!」ほか

2016年07月24日 11:000
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アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひとこと言えば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。


ラブライブ!サンシャイン!!の放送が始まった。言うまでもなく本作は、大ヒット作「ラブライブ!」のシリーズ第二弾だ。

舞台は前作の東京からうってかわって、静岡県沼津市の海辺の町、内浦。そこにある「私立浦の星女学院」の2年生、高海千歌が東京でスクールアイドル「μ's」の姿を見た瞬間からすべてが始まる。μ'sの存在に衝撃を受けたか千歌は、浦の星女学院でもスクールアイドル部を設立しようと、部員集めを始めるが……というのが、物語の導入だ。

前シリーズは第1期、第2期、劇場版とそれぞれの物語があるが、その底に共通して流れているのは「私たちはなぜ歌いたいのか」という問いかけだった。スクールアイドルたちの“甲子園”である「ラブライブ」という設定は、あくまでもスクールアイドルという仕掛けを成立させるためのギミックに過ぎない。だからライバルのアイドルたちとの勝負は実は大きな意味をもっていなかった。一番大事なのは、スクールアイドルをやろうとする「心持ち」なのである。

 

では「サンシャイン!!」では、何が描かれようとしているのか。開幕早々で手がかりは少ないが、前作と比べると見逃せないポイントがある。それは千歌の動機が、「μ'sへの憧れ」だという点だ。

つまり千歌の動機はまず「ファン」として生まれたのだ。しかし仲間を集め、新たなスクールアイドルを作ろうとするなら、いつか「μ'sのファン」から脱皮して、「自分たちらしいスクールアイドル」にならなくてはいけない瞬間がやってくるはずだ。そこで「憧れ」から別の何かへと、動機の更新が行われるのではないか。まずはそんな想像をしながら、やがて生まれる「Aqours」の登場を待つことにしたいと思う。

 

というわけで、今回のキーワードは「アイドルのファン」だ。

 

Wake Up, Girls!は、仙台を中心に活動するアイドルグループ「Wake Up, Girls!」を描いたシリーズ。結成を描く劇場版第1作、大イベント「アイドルの祭典」に挑むTVシリーズ、そしてTVシリーズのその後を描く劇場版第2作(前後編の2部作)がある。

本作の特徴は、弱小アイドルにまつわる光と影のコントラストを他のアイドルアニメよりもぐっと突っ込んで描いてるところだ。TVシリーズで、あやしげな“業界人”がやってきて、健康ランドでつらい営業をさせられるくだりなどはその代表的なシーンといえる。

 

そして本作の特徴のひとつに、アイドルアニメでは滅多に描かれない、男性ファンの姿がちゃんと描かれているという点がある。キャラの名前は、大田邦良。音読すればわかるとおり名前に“オタク”が織り込まれている濃いキャラクターだ。彼は一途に「Wake Up, Girls!」を応援する。しかし彼がメインキャラクターのドラマにからむことはない。だが、むしろからまず純粋なファンでい続けるからこそ、「アイドル」という存在を考える本作にあって、絶対に欠かせない存在となっている。むしろファンである大田邦良こそ、裏側から本作が描こうとしている「アイドル」の存在を浮き彫りにしているともいえる。

 

真っ直ぐにアイドルを応援しているキャラクターとえいばアイカツ!の星宮らいちも忘れてはいけない。

らいちは主人公・星宮いちごの弟。もともとトップアイドルの神崎美月のファンで(その影響で姉・いちごがアイドルに興味を持つことになる)、途中からはさらにいちごと同級生の霧矢あおいの大ファンにもなる。ヒロインの弟というポジションではあるが、幼いながらもかなりのアイドル情報通で、作中では「アイドルのファン」という役回りも多少担っている。

 

らいちは(番組開始時は)小学生なので、邪心がなく真っ直ぐにアイドルファンをやっている。もっとも真っ直ぐすぎて若干ヤバい瞬間があるのも事実。たとえば、あおいが誰にバレンタインチョコを渡すのか気がかりになって、女装してスターライト学園に潜入してしまったりしたこともあった。

さらにらいちは、アイドルのオーラを“匂い”として感知する能力を持っているという設定もある。もし「アイカツ!」世界でなかったら、らいちはかなり濃いめなドルオタとして描かれていてもおかしくない。そんならいちの言動は、「アイカツ!」の隠し味になっていた。

 

しかし、世の中のファンが、大田やらいちのように真っ直ぐな人間ばかりではない。

 

PERFECT BLUEは1997年公開の映画。マイナーな元アイドルを巡るサイコサスペンスだ。ストーカーやインターネットなど'90年代後半に話題になった要素を巧みに取り入れているところもおもしろい。AKB48どころか、モーニング娘。のメジャーデビュー前で、「アイドル」という言葉が今よりもずっとマイナーな響きでもって使われていた時代に作られた映画だ。

 

本作は、マイナーなアイドルグループ・チャムから主人公が脱退し、女優を目指すところから始まる。脱退を宣言するライブは、ヒーローのアトラクションショーの後。客席にはカメコ(カメラ小僧)が並んでいる。ライブが始まる前に、ファンが、上から目線でチャムのこれからを語り合っている点描は、なかなかに痛々しい。

 

さらにライブでは、野次を飛ばして乱闘を仕掛けてくる男たちも現れる。これはおそらく'96年に出版された「アイドルバビロン―外道の王国」(金井覚)で描かれたファンの姿を下敷きにして造型されたキャラクターであろう。同書の説明には「オタクの墓場・アイドルコンサートに潜入! アイドル・マニアの最終形態“外道”の世界を完全ルポルタージュ」とある。そういう意味では本作は、当時のアイドル・マニアの姿の“記録”としても見ることができるのだ。

 

これからもアイドルアニメはまだまだ作られそうな気配だが、果たしてどんなアイドルファンが作品を彩るのか、楽しみだ。


(文/藤津亮太)
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(C) 1997 MADHOUSE

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