アニメ業界ウォッチング第11回:「ガンダムではなく、ガンダムに乗るパイロットの食事をデザインする」アニメ現場の縁の下の力持ち、ベテラン・メカデザイナーの大河広行に学べ!

2015年07月26日 10:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

――レイアップで玩具デザインに関わった後、「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」(1997年)のメカデザイナーとして、本格的にアニメ業界に戻ってきますね。

大河 実を言うと、「ビーストウォーズ」のころは、ぎりぎりレイアップに在籍していました。だから、葦プロ(現「プロダクション リード」)さんからデザインの話があったときは「レイアップを通してくれます?」という話はしたんですよ。同時に、その頃は「会社をやめて、フリーランスになりたい」という気持ちがあったんです。そんな内情や現場の都合もあって、「ビーストウォーズ」は“大河広行”というペンネームで、参加しているんです。このペンネームは「ヴイナス戦記」のときに初めて使いました。

――フリーになろうとした動機は、何だったんですか?

大河 レイアップにいると、どうしてもバンダイさんの仕事がメインになってしまうので、もっと幅広く仕事したいと思ったんです。当時は結婚して子どももいましたから、家族会議を開きまして、なんとかフリーになることを納得してもらいました。「どうすればメカデサイナーになれるんだろう?」と悩んで玩具デザインの会社に入って、アニメ業界に戻ってきたら、いきなりメカデザイナーになっていた(笑)。

――フリーになってからの初仕事は?

大河 「激闘!クラッシュギアTURBO」(2001年)のゲストマシン・デザインです。ほぼ並行しながら、「スクライド」(2001年)の各話デザインをやって、その流れで「ガンダムSEED」の各話設定、「出撃!マシンロボレスキュー」(2003年)のデザインワークスが同時に始まりました。その頃はサンライズの8スタ(第8スタジオ)に机を置いて、仕事していました。「F-ZEROファルコン伝説」(2004年)では、葦プロさんにも机がありました。

――すると、複数のスタジオを行ったり来たり……

大河 そうですね。作品数でいうと、1年に2~3本ぐらいはやらないと商売にならない。最近のアニメは1クール、長くて2クールでしょう。じゃあ、放送期間の長い方が準備期間も長いのかというと、どっちも変わらないんですよ。

――「ゼノサーガ」はアニメとゲーム、両方に関わっているんですね。

大河 東映さんの「Xenosaga THE ANIMATION」(2005年)ではメカデザインだけでなく、原画を描いたり、演出に近い仕事もしまして、その関係で、ニンテンドーDSの「ゼノサーガI・II」(2006年)にも関わることになったんです。ゲームでは「止め絵で、イラストがスライドするようにしたい」との要望だったので、絵コンテを切ったりしました。キャラデはスタジオライブの竹内浩志さん、僕はビジュアル演出となっています。

 

――スタジオライブとは、何か縁があったのですか?

大河 「F-ZEROファルコン伝説」のキャラデザインが、スタジオライブの芦田豊雄さんだったんです。その縁で、芦田さんの漫画のアシスタントをやったりしましたよ。


――漫画のアシスタント(笑)。まさに、何でもアリですね。当時は、紙とインクの時代でしたか?


大河 ええ、今はすべてパソコンで描いていますけど、当時の主な画材はシャーペンでした。「境界線上のホライゾン」(2011年)のメカデザインを契機に、画材をフルデジタルに切り替えたんです。作品を見てもらえばわかるように、すさまじい情報量でしょう? 「ホライゾン」では、いろいろなメカをデザインしましたけど、僕は全長8キロの武蔵という大型艦をまかされたんです。「こんなの手で描いたら、死ぬな……」と思って、下書きから何から、すべてペンタブレットで描きました。

――「紅 kurenai」(2008年)はメカアニメではありませんが、何をデザインされたんですか?

大河 最初は、車のデザインとして参加しました。ほかの方が写真をベースに描いたらしいのですが、意外と写真そっくりに描いても、車に見えないんです。人間の目って、脳の中でウソの像を結ぶんです。そのウソが正しいので、それを描いてあげなきゃならない。「紅 kurenai」ではもうひとつ、「物語最後のほうで山奥のお寺が舞台になる」と監督に相談されて、「じゃあ、ここにヤマの斜面があって」「ここを上がって、この建物で戦って」と、シーンの大雑把な設計図を描きました。

――絵コンテでも美術設定でもなく?

大河 美術設定は、ちゃんと美設(美術設定)の方が描かれたはずです。僕はあくまで、監督の頭の中にある「こうしたい」というプランを聞きながら、トータル的な流れを絵にしていったんです。


――それは、なかなか表に出ない仕事ですね。


大河 確かに、表には出ないでしょうね。デザインだけやる場合もありますけど、デザインも、大きな仕事の流れの一部なんです。だから、演出的な手伝いをすることもありますし、一部、絵コンテを描く場合もあります。サテライトさんでやった「トータル・イクリプス」(2012年)で、電磁投射砲というレールガンを撃つシーンがあるんですが、最初の絵コンテでは必殺武器を撃つにしては、少しタメが足りなかった。「ここ、コンテ切らせてもらっていいですか?」とお願いして、発射シーンだけ切らせてもらったんです。結局、アクション・パートのコンテも切らせてもらいました。「トータル・イクリプス」はデザインだけでなく、CG打ち合わせにも立ち会って、「右肩をもっと大きくして、首の軸を後ろにズラして」と、アニメロボなりの嘘の見せ方も指示しました。CGでは、形や動きが、正確に出すぎるんです。刀を振るんでも、きれいに振らずに、「この絵とこの絵は抜いてください」「その方が、振ったときの勢いが出ます」と、2Dアニメのような動き方にしてもらいました。

――アナログ的な発想を、CGにも導入したわけですね?

大河 いい意味で、アニメーター時代の経験が生きましたね。だから、「トータル・イクリプス」でも「ノブナガ・ザ・フール」(2013年)でも、オープニングでは「メカデザイン」、エンディングでは「メカ作画監督」としてクレジットされているんです。

――フリーといいながら、ずっと現場にいらっしゃるわけですね。

大河 基本的に、家では仕事しません。僕の場合、デザインするにしても、スタッフや監督のいる現場で仕事するほうが好きですね。「監督、こんなの思いついたんですけど」って、すぐ見せやすいですしね。

――今はCGの人たちがレイアウトを組んだり、アニメーターも「キャラ作監」「総作監」だとか、細分化してますよね。そんな複雑なアニメ現場に、ストレスは感じませんか?

大河 もともと、僕は玩具の会社にいたでしょ。玩具の仕事って、1人だけでやり切ることって、まずないんです。企画だって、クライアントや営業の人の意見も聞かないといけない。生産段階に入ると、工場の人たちの意見も出てくる。いろんな立場の人たちの意見を組みいれて、ひとつの形になるわけで、100%、自分だけのオリジナルの仕事なんて、ほとんどないんです。皆さんの意見を取り入れて調整して、ひとつの形にする仕事ですから、モノによっては、自分のオリジナリティなんて10%以下でしょうね。例えば、「美少女戦士セーラームーン」の商品企画をやったときには、原作の武内直子先生から「こういう感じで」とスケッチが来ますけど、そのままでは商品としては難しいので、こちらから「こういう形にしたいのですが」と、武内先生におうかがいをたてる。アニメの現場も同じことで、監督、プロデューサー、スポンサーの意見、いろいろ聞くのが当たり前。ですから、ストレスは感じませんね。

――素人考えだと、「デザイナーは100%、自己主張すべき」などと思ってしまいますが。

大河 それも正しいと思うんです。強烈な個性を持ってグイグイ引っ張ってくれる人も、絶対に必要。そういう人がいないと、ここまでアニメは盛り上がってなかったと思います。だけど、僕はアニメーターでもデザイナーでも漫画家でもない、とにかく「絵を描く仕事をしたい」という欲求が根源にあるんです。だから、カッコいい主役メカでなくとも、「このキャラクターの持つシャーペンを考えて」といわれたら、よろこんで考えますよ。

――誰かが、やらねばならない仕事ですね。

大河 アニメって、ゼロから描きおこす表現なんです。現実世界なのかSFなのか、ちょっとファンタジーなのかによって、求められるデザインは違ってきますよね。サテライトさんが「グインサーガ」(2009年)をアニメにしましたけど、監督に「この砦には、こういうギミックが欲しい」と求められたら、僕は「グインサーガ」の世界観でのみ成り立つギミックを考える。それが、楽しいわけです。

――今は誰もがわかりやすいところを目指していて、「ガンダムをデザインしたから偉い」となりがちですよね。

 

大河 今、「俺が最新のガンダムをデザインしたい!」と夢を抱いたところで、デザイナーの数は多いし、かなり頭がつかえてますからね。僕がガンダム作品に参加するなら、ガンダムのパイロットがしている腕時計でいいや(笑)。

――なるほど!

大河 たとえば、「ガンダムSEED」は大河原邦男さんがメインのモビルスーツを決められていたので、僕はコクピット設定と各話設定、それと「パイロットの食べる食事を考えて」と言われたんです。

――食事のデザインですか?

大河 アークエンジェルの内部で、食べるシーンが多いらしいんですよ。だから、食事は1種類では少ないから6種類ぐらい必要と言われて、「コレは○○を調理したもの」と、ひとつひとつ献立を決めていって(笑)。僕の中では、それがガンダム本体をデザインするのと同じぐらい、楽しいんです。

――そういう仕事を楽しめる性格なんでしょうね。

大河 そうかも知れません。絵のうまさで言うと、僕は業界では半分ぐらいの腕前でしょう。残り半分は、これまでの経験値で、なんとか補っているわけです。だから、現場の若い子たちに、いろいろと経験談を話すようにしています。アニメ業界は「食えない」と言われてますけど、ちゃんと食えてる人も、山ほどいるんです。だから、若い人たちが食えないままフェードアウトしてしまうのではなく、経験を生かしながら、何とか食えるようにしてあげたい気持ちはあります。自分も若いころは食えませんでしたし、せっかくの雑多な経験を、自分の中にだけ封じ込めていても仕方ないですから。「うぜえオヤジだな」って、周囲から思われてるかも知れませんけどね(笑)。


(取材・文/廣田恵介)

画像一覧

関連作品

戦姫絶唱シンフォギアGX

戦姫絶唱シンフォギアGX

放送日: 2015年7月4日~2015年9月26日   制作会社: サテライト
キャスト: 悠木碧、水樹奈々、高垣彩陽、日笠陽子、南條愛乃、茅野愛衣、水瀬いのり、久野美咲、井口裕香、石川英郎、保志総一朗、赤羽根健治、瀬戸麻沙美、小松未可子、東山奈央、赤﨑千夏、石上静香、村瀬迪与、井澤詩織、田澤茉純
(C) Project シンフォギアGX

ノブナガ・ザ・フール

ノブナガ・ザ・フール

放送日: 2014年1月5日~2014年6月22日   制作会社: サテライト
キャスト: 宮野真守、日笠陽子、櫻井孝宏、梶裕貴、杉田智和、茅原実里、東山奈央、中村悠一、木戸衣吹、石田晴香、島﨑信長、七海ひろき、小山力也、中井和哉、松岡禎丞、奈波果林、梅村結衣、高橋紗妃、織田圭祐、下野紘、大原さやか、石川界人、近藤孝行、遠藤綾、藤原貴弘
(C) 河森正治・サテライト/ALC/GP/ノブナガ・ザ・フール製作委員会

トータル・イクリプス

トータル・イクリプス

放送日: 2012年7月1日~2012年12月23日   制作会社: サテライト/ixtl
キャスト: 小野大輔、中原麻衣、生天目仁美、能登麻美子、野川さくら、浜田賢二、大原さやか、杉田智和、小山力也、津田英三、斧アツシ、本田貴子、石原夏織、羽多野渉、田中理恵、ayami、日笠陽子、高森奈津美
(C) 吉宗鋼紀・ixtl / オルタネイティヴ第一計画

境界線上のホライゾン

境界線上のホライゾン

放送日: 2011年10月2日~2011年12月25日   制作会社: サンライズ
キャスト: 福山潤、茅原実里、沢城みゆき、田村睦心、子安武人、名塚佳織、小野大輔、黒田崇矢、東山奈央、新田恵海、井上麻里奈、真堂圭、斎藤千和、小清水亜美、悠木碧、大橋歩夕、平川大輔、森永理科、又吉愛
(C) 川上稔/アスキー・メディアワークス/境界線上のホライゾン製作委員会

境界線上のホライゾンII

境界線上のホライゾンII

放送日: 2012年7月8日~2012年9月30日   制作会社: サンライズ
キャスト: 福山潤、茅原実里、沢城みゆき、斎藤千和、小清水亜美、井上麻里奈、小野大輔、黒田崇矢、東山奈央、新田恵海、真堂圭、子安武人、名塚佳織、田村睦心、大橋歩夕、悠木碧、平川大輔、森永理科、又吉愛、白石涼子、楠大典、清水愛、真殿光昭、中原麻衣、小林ゆう、中田譲治、杉田智和、寿美菜子、白石稔、宮下栄治、田村ゆかり、白鳥哲、三宅健太
(C) 川上稔/アスキー・メディアワークス/境界線上のホライゾン製作委員会

F-ZERO ファルコン伝説

F-ZERO ファルコン伝説

放送日: 2003年10月7日~2004年9月28日   制作会社: 葦プロダクション
キャスト: 森川智之、井上喜久子、矢尾一樹、飛田展男、千葉一伸、辻親八、水樹奈々、田中秀幸
(C) Nintendo/葦プロ

関連シリーズ

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。