「来年こそ出展の意義が問われるはず」コロナ禍を乗り越え開催された「AnimeJapan2023」を振り返る! 一般社団法人アニメジャパンの浅沼誠理事長インタビュー

2023年05月07日 10:000

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毎年3月に開催される世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan」が、今年開催の「AnimeJapan2023」で10周年を迎えた。

2014年に、「東京国際アニメフェア」と「アニメ コンテンツ エキスポ」という2つのアニメイベントを統合する形でスタートした「AnimeJapan」は、毎回、数多くのメーカー、アニメ制作会社、関連企業がブースを出展。新作、話題作のアニメ情報や展示を楽しめるほか、メインステージではさまざまなアニメの出演者、スタッフが登壇し、トークや企画、ライブイベントが披露されるなど、アニメの祭典として業界内外に大きな存在感を示している。

その結果、年々一般客の来場者数は増加し、2018年は歴代最多の152,331人(延べ人数)を数えるまでに至った。

 

しかし新型コロナウイルスの世界的流行を受けて2020年は中止、2021年はオンラインのみ、2022年はリアル開催をしたものの人数規制を行いつつオンラインとのハイブリッドでの開催となった。このため、2022年の来場者数は、およそ5万人と大きく縮小したものの、2023年は10万51人まで来場者数は復調した。

 

現在に至るまで山あり谷ありの「AnimeJapan」だが、無事10周年を迎え、すでに2024年3月23~24日開催予定の「AnimeJapan2024」まで発表されている。コロナ禍を乗り越え、また今や日本のエンターテインメント業界において大きな存在感を示すまでに成長したアニメ業界を盛り上げる乾坤一擲のイベントとなることは間違いない。

 

そこで今回、「AnimeJapan」を主催する一般社団法人アニメジャパンの浅沼誠理事長(株式会社バンダイナムコフィルムワークス代表取締役社長)に、「AnimeJapan2023」を振り返っていただきつつ、今後のAnimeJapan、そしてアニメ業界の現状についてうかがった。

 

 

――一般社団法人アニメジャパンの理事長は交代制だとうかがいました。バンダイナムコフィルムワークス代表取締役社長の浅沼さんはいつ頃から就任されたのでしょうか?

 

浅沼 私は昨年6月から理事長を務めています。その前から4年間理事を務めていたので、コロナ禍以前からAnimeJapanに携わってきました。

 

――そもそもAnimeJapanは、「東京国際アニメフェア」と「アニメ コンテンツ エキスポ」が合体して2014年に初開催されたところから始まります。浅沼さんが理事になった当初は、ちょうど折り返し頃ですね。

 

浅沼 ゲーム業界には、大規模な見本市として「東京ゲームショウ」が存在します。私がゲーム業界の部署にいた時に見えていた風景では、東京ゲームショウと比べてAnimeJapanはアニメ人気の割には派手さが少ないように感じていました。ゲームの場合、実際に新作に触れることができるので、プレイをすることが来場するモチベーションに繋がります。でも、アニメの場合は声優やスタッフのトークショーは大人気ですが、実際に本編をフルで観ることはできない。なので、モチベーションの差があるように感じていたんです。そんな中、理事としてAnimeJapanに参加することとなりました。

 

――来場者数も右肩上がりで、2018年には最高記録の約15万人を達成しました。

 

浅沼 実際にAnimeJapanに携わるようになってから感じたのは、ファンがさまざまな楽しみ方をしているということです。アニメを家で楽しむだけじゃなく、グッズを買ったり、ほかの人と一緒に楽しんだり、トークイベントを間近で観ようと考えている人がとても多い。暑い中でも寒い中でも朝早くから並ぶような方もいて、熱量がとても高いんですよね。同時にアニメ人気も高まってきて、AnimeJapan会場にも多くのファンがいらっしゃるようになりました。

 

――しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止、2021年は無観客開催となりました。リスタートは人数を絞っての開催となった2022年からになります。昨年(2022年)の来場者数は約5万人、今年(2023年)は来場者約10万人と以前の水準に戻ってきましたね。

 

浅沼 コロナ禍を経て、来場者の層が大きく変わったようには感じません。ステージを開催すれば、そこに人が集まっていくのも同じ流れですね。ただ、各企業のブースの完成度が高くなっていったように思います。来場者が「これは観に行きたい!」と思えるようなブース作りを各出展者がしていて、そこが以前と少し雰囲気が変わりましたね。

 

各ブースには大勢の来場者が足を運んだ(AnimeJapan2023・「アイドルマスター」ブースより)

――今年は海外渡航も解禁となり、外国人来場者も増えたのではないでしょうか?

 

浅沼 厳密なデータは出ていないんですが、このAnimeJapanのために来日された方もいらっしゃるようで、とても嬉しいです。弊社が運営している「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」も渡航の制限がゆるやかになってきてからは観客が増加しましたし、AnimeJapanにもその影響は少なからずありましたね。とはいえ、まだまだ全世界の方が日本に来ているわけではないので、来年以降には期待しています。

 

―――変化という点で言えば、コロナ禍以前は併設されていた「ファミリーアニメフェスタ」が再開されていません。家族連れ向けの試みでしたが、これは来年以降復活する可能性があるのでしょうか。

 

浅沼 はい。今年はまだ新型コロナウイルス感染症の影響があるだろうと思い、開催を見送りました。ですが、お子さんが観ている「クレヨンしんちゃん」や「それいけ!アンパンマン」、「ちびまる子ちゃん」のような作品のコーナーはこれからも作っていくつもりです。来年以降は情勢にもよりますが、再開できればと考えています。

 

――今年は来場者数が約10万人でしたが、2018年に記録した約15万人規模まで戻す策として、何か考えられていることはありますか?

 

浅沼 まず、今年は何か新しい具体的な策を大きく打って出られなかったと反省しています。今回は、昨年の時点で大規模な仕掛けをする段階まで踏み込めなかったこともあります。もしアクセルを強く踏んでいても、直前で中止という可能性もありましたからね。ただ、現在の情勢ではそのような可能性から脱却したように思えるので、現在は来年に向けて準備をしているところです。おっしゃるように新しい策を練らないと、来場者数を増やし、アニメの存在感を上げていくことはできません。その方向はプロモーションなのかイベントなのか、そこも含めて考えていこうと思っています。

 

新作アニメの情報屋イベントを楽しめるのもAnimeJapanならでは!(AnimeJapan2023・小プロブースより)

――この春からイベントの規制も緩和されているので、来年開催されるAnimeJapanは大きく変わる可能性がある……?

 

浅沼 それは今後の情勢次第でもありますが、コロナ禍の間に「鬼滅の刃」がヒットしてから、アニメに対する世間の注目は拡大しました。そんな中でアニメーションビジネスにより注目してもらえるようにするためには、これまでのものからもう一段階先の仕掛けを考える必要があると思うんです。それが具体的に何なのかはこれから考えるべきことだと思っていますが、来場者の皆さんが喜ぶものを考えていきたいですね。

 

――AnimeJapan開催後、SNS上で「AnimeJapanは声優のトークショーばかりで、スタッフの露出が少ない」といった意見が話題を集めました。理事長の立場としては、この意見をどのように感じましたか?

 

浅沼 そこは出展者ごとに意図があるのでひと口には言えませんが、ここ十数年、声優さんの人気はすさまじいものがあります。アニメを知ってもらうために声優さんがフロントに立ってくださっていました。それに、ここ数年は紅白歌合戦に「ラブライブ!」が出たり「鬼滅の刃」がヒットしたりしたことで、声優さんがお茶の間からも認知されるようになってきましたよね。なので、AnimeJapanの来場者が増える、という意味では声優さんのトークショーが開催されるのは嬉しいことです。ただ、同時にアニメスタッフやスタジオの知名度も上がってきましたよね。

 

人気作品の原画など、貴重な資料を展示するブースもあった(AnimeJapan2023・アニプレックスブースより)

――確かに「鬼滅の刃」のヒットでufotable、「呪術廻戦」「チェンソーマン」の影響でMAPPAといったアニメーションスタジオの名前を覚えた方は大勢いらっしゃいます。

 

浅沼 日本は、邦画興行収入ランキングを見ても、トップ10中9作品がアニメなんですよ。加えて、昨年から今年にかけて「ONE PIECE FILM RED」「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」と100億円超えのヒット作が続出している。そんな状況なので、これからAnimeJapanのラインアップにも確かな変化が訪れていくように感じます。スタッフのトークショーも目立つ形で開催されるようになるかもしれませんね。

 

――浅沼さんはグループ内にバンダイナムコピクチャーズ、SUNRISE BEYOND、アクタスを、また社内にはSUNRISE Studiosなど複数のアニメスタジオを擁するバンダイナムコフィルムワークスの代表取締役社長として、「鬼滅の刃」や「ONE PIECE FILM RED」など、映画のヒット作が続いている状況をどのように感じていますか?

 

浅沼 面白い作品であればヒットするんだなと単純に感動しました。実写映画とアニメを面白さで比較するわけではありませんが、アニメ制作会社の社長としては興行収入50億円超えのヒット作へのチケットを持っている嬉しさもあります。実写映画を作って「興行収入100億円を目指すぞ!」と言っても現実的なハードルは相当に高いですが、アニメの場合、可能性がまだあるのではないかと。加えて弊社は「ガンダムシリーズ」や「ラブライブ!シリーズ」、「宇宙戦艦ヤマトシリーズ」、「コードギアスシリーズ」といったIPも持っています。そんな弊社が興行収入100億円超えのヒット作を狙わなくていいのか!と日々感じています。

 

バンダイナムコフィルムワークスのブースでは、歴代主役キャラが大集合していた(AnimeJapan2023・バンダイナムコフィルムワークスブースより)

――コロナ禍の大きな変化に、NETFLIXやAmazon Prime Videoのようなサブスクリプション配信サービスの加入者が増えたことがあげられます。そんな中でも、テレビ放送がされるとSNSでトレンドに上がる作品もありますよね。

 

浅沼 面白い状態ですよね。たとえば、弊社では現在「機動戦士ガンダム 水星の魔女」を制作していますが、日曜の夕方になると話題になるというのはとても嬉しいです。毎週放送を待つこと自体が現在のスタイルに合わない、そもそもテレビを持っていない、という意見もあると思いますが、ガンダムシリーズの最新作を作ることを考えると、テレビで毎週放送することの意義は大きいはずです。実際、毎週放送することで「来週どうなるんだろう?」と話題にしてくださる方がいらっしゃいます。加えて放送が日曜の夕方ですから、翌日会社や学校でも話題にしてくれる。こんな幸せなことはないですよね。個人的には予想以上にグエルが人気で驚いているんですけど(笑)。

 

――グエルの人気は予想以上だったんですね。ナレーションを担当した総集編でもありましたね。

 

浅沼 弊社の社員からも「この後、『水星の魔女』どうなっちゃうの?」「言えませんよ!」なんて会話が聞こえてきます。視聴者の方々も毎週盛り上がってくださっていて、一挙配信を否定するわけではありませんが、毎週放送の意義を感じました。コロナ禍で視聴者数も増えましたし、興味を持ってくださる幅が広がっているような実感があります。なので、新作・過去作問わず観ていただけているわけです。そんなユーザーさんをないがしろにせず、これからも期待に応えられるような作品を作ることが僕らの課題ですよね。

 

イベント当日はガンダムも会場を練り歩いていた!(AnimeJapan2023・dアニメストアブースより)

――いっぽう、アニメーターの低賃金や労働実態について、コロナ前から変わらず問題視されています。実際にそのような環境にいる方ばかりではないと思われますが、その点についてはどのように考えられていますか?

 

浅沼 比べればの話ですが、ゲームの場合、お金をかけてビッグタイトルを作り、ヒットすれば多大な利益を得ることができます。その利益を使って次の作品を作る……というのがゲーム業界の流れです。ですが、アニメーション業界の場合、ゲーム業界と違って作り方の仕組みの違いや、そこまで利益が生じない場合があることが問題なんですよね。ゼロからモノを生み出していく点では変わらぬ苦労があるんですが。請け負っているスタッフ全員にきちんとお金が回る仕組みを考えた上で、仕事がしやすい環境を整備していく。それが私たちの責任だと思っています。

 

——その環境はどうして生まれるのでしょうか?

 

浅沼 複数考えられますが、要因のひとつに制作本数の多さがあると思います。1年間にテレビシリーズは200シリーズ以上制作されていますが、すべてがヒットしているわけではないのが現状です。でも、「鬼滅の刃」や「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のように巨大なヒット作が出るロマンもある。ロマンだけでやっていない部分もあると思いますが、ゼロからイチを生み出す楽しさは忘れないようにして、これからもよりよい業界になるようにしていきたいですね。

 

——バンダイナムコフィルムワークスとしては、今後どのようなことをしていくのでしょうか。

 

浅沼 現在日本のアニメーションが世界中から注目されているのは、人が描いている質感があることもひとつの要因と考えています。CGアニメも増加している昨今ですが、手描きの技術をきちんと継承するように、弊社では数年前にサンライズ作画塾を設立しました。技術を継承しつつ、注目していただけるようにいろいろな施策をしていくことが重要だと思います。

 

声優・アニメスタッフらによるステージイベントもAnimeJapanの魅力だ(AnimeJapan2023・DMM TVブースより)

——そんな状態も踏まえつつ、AnimeJapanも新たな一手を打っていくわけですね。

 

浅沼 海外に目を向けると「コミコン」というイベントがありますが、これはもともとファンイベントから始まりました。そこにクリエイターが入ってきて、サイン会や原画を売る企画が始まったわけです。いっぽうで「Anime Expo」は、世界におけるアニメ見本市の総本山として機能しています。その両方のよさを取り入れて、ビジネスの場所としても使えつつ、一般ユーザーも新しい情報をつかめるようにしていきたいですね。日本でもAnimeJapanのほかに「京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)」などが開催されています。そういったイベントも参考にしつつ、ここに来たらアニメの現在を知ることができて、満足できる。そんな場所にしていきたいですね。

 

——いっぽうで、世界最大のゲーム見本市である「E3」が今年は開催中止になるなど、見本市の存在意義が問われる事態も発生しています。

 

浅沼 E3の開催中止には驚きました。ゲーム業界の方々は、E3に出展するよりも「Nintendo Direct」のように自分たちで発表する形にシフトしたんですよね。アニメの場合はすぐそうなっていかないのではないかと思いますが、AnimeJapanに出展する意義を作っていく重要性は感じています。今年はリスタートがテーマだったので、来年こそ出展の意義が問われるはず。そこは理事会のみんなで真剣に考えていこうと思います。

 

——AnimeJapanのようにファンが集えるお祭り的なイベントが続いていくことを祈っています。

 

浅沼 来年また取材を受ける際に、「具体的に新たな取り組みは何ですか?」と聞かれてもすぐに答えられるように、1年間がんばって準備をしていこうと思います。来年も皆さんが行きたくなるAnimeJapanを作っていこうと思いますので、ぜひご期待ください。

来年もまた同じ会場で盛り上がれることを祈って……!



(取材・構成:太田祥暉[TARKUS])

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