【TAAF2019】「短編コンペティション スロット1」レポート:個性豊かな短編アニメが世界中で作られる中、日本のクリエイターは果たして……?

2019年03月11日 13:250

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2019年3月8日(金)、「東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)」のプログラムの一環として、「短編コンペティション スロット1」が、池袋の新文芸坐にて開催された。

本プログラムは、日本国内外のクリエイターが制作した短編アニメーションをまとめて上映した後、一次選考委員による解説が行われるというもの。スロット1からスロット3の3回にわけて作品が上映され、スロット1では、「フロリアーナ」(監督 ルイス・モートン/デンマーク)、「一人ぼっち」(監督 ファン・ユンシアン/台湾)、「グッドハート」(監督 エフゲニヤ・ジルコワ/ロシア)、「私達の宇宙飛行士は」(監督 ガリーナ・ゴルベワ/ロシア)、「もやもや」(監督 エリーズ・シムリン、エドゥアール・ヒュッテ、クロティルド・ボノット、アンナ・コマロミ、マリサ・ディ・ヴォラ・ペイショート、ヘレナ・バスティオーニ/フランス)、「阿公(あごん)」(監督 ゾゾ・ジェン、テナ・ガロヴィク、マリーヌ・ヴァルガイ、イェンチェン・リウ、エリス・カーイン・チャン/フランス)、「黄昏のクインテット(五重奏)」(監督 ジェ・ウォン/中国)、「静けさの中に」(監督 マキシム・クリコフ/ロシア)、「難関を越えて」(監督 イグナシ・ロペス・ファブレガス/スペイン)、「木」(監督 ハン・ヤン&バジル・マレク/フランス)、「モリモリ島のモーグとペロル」(監督 合田経郎/日本)の11本が公開された。

 

各作品とも上映が終わるごとに盛大な拍手が観客席からあがり、個性豊かな作品たちに大きなリアクションを取る観客もちらほら。そんな大盛況のなかで、解説がスタートした。

 

登壇者は小柳貴衛さん(東京工芸大学アニメーション学科 助教)、小森啓裕さん(白組所属、アニメーション監督、代表作は映画「GAMBA ガンバと仲間たち」)、川島英憲さん(クラフター常務取締役、VRディレクター)の3名。映像研究科の叶精二さんの司会・進行でトークは展開した。

向かって左より叶精二さん、川島英憲さん、小森啓裕さん、小柳貴衛さん

 

まず出展作品の印象について聞かれると、「先進的な話を、アナログな質感で見せていく面白さや、現代的なモチーフを扱う作品が多いのが現代的。また、2Dアニメ、3Dアニメ、人形アニメなどのカテゴライズがなくなりつつある。デジタルツールを使って、よりアナログに寄せていっている」(小柳さん)、「どういう技術を使っているか、という垣根がなくなってきている。デジタルツールが作風やスタイルに応じて使いこなされている」(小森さん)、「テクノロジーは作品を表現するためにあるべき。作品のためにテクノロジーをうまく使っている。若い世代でこれだけ作れるというのは、明るい未来を感じる」(川島さん)と、それぞれデジタルツールに使用により、さまざまなアニメーション表現がボーダレスになってきていることを指摘した。

 

そのいっぽうで、日本からの出展作品が少ないことについての指摘も飛び出した。

それに対し、川島さんは「会社としては(コンペの参加は)推奨するが、日本人のメンタリティとしては、まだコンペ文化が根付いていないのでは」と語ったうえで、「現場の話をすると、インプットとアウトプットの両立が難しい時代。自分のためにアウトプットする時間を作らないと、『作品』は作れるけど、ちゃんとしたアウトプットができない」と、日本国内の商業アニメ制作者たちがいかにハードスケジュールをこなしているかがうかがえるコメントを発した。

また、小森さんは短編アニメーション部門には、世界各国の学生が作品を応募していることについて、「それを見てしり込みすることなく、挑むつもりで参加してほしい」と日本のアニメ業界を志望する学生にエールを送りつつも、「日本はセルアニメ大国だが、世界では全然違うものが主流になっている。日本の専門学校では2Dアニメしか作らせない。そういう意味ではここに混じりにくいのでは。2Dアニメ制作の手間を省く技術が多いゆえに、学生は覚えることも多い。その結果、発想力が阻害されているのでは」と日本のアニメ業界が抱える構造的な問題を指摘。

 

トークステージは、「(若いクリエイターに)成功体験を早い段階でちゃんと持たせて、それを支援してあげる仕組みを作ってあげることが大事なのでは」という小森さんの言葉で閉幕となった。

個性豊かな世界の短編アニメーションからうかがえる世界のアニメーション事情と、日本国内のアニメ業界が抱える課題が浮き彫りとなったプログラムであった。

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