「月がきれい」のナチュラルな空気感はいかにして生み出されたのか? 岸誠二監督ロングインタビュー

2017年05月26日 12:000
(C) 2017 「月がきれい」製作委員会

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すべてのスタッフワークを中学生の日常に集中。軸のぶれない姿勢が高品質に繋がる


── 視聴者のターゲット層については考えましたか? 登場人物と同世代とか、彼らにノスタルジーを感じる大人世代とか。

 両方ですね。今の子が見ても面白く感じてほしいし、お財布に厚みのある大人にちゃんと面白いと思ってもらって、ソフトを購入する価値があると思ってもらいたい。それにやっぱり小太郎と茜、両方の目線を入れて作っているので、男女両方のファンが付いてほしいと思っています。さらに言えば、30代男性が「茜カワイイな」と思うのと同時に「小太郎カワイイな」と思ってほしいし、女子から見ても茜がカワイイと思ってほしい。実際、私も小太郎がカワイイと思っていますし(笑)。

 もう、甥っ子みたいなもんですよ(笑)。

 若い子たちが実際にどう思っているのか、スゴく聞いてみたいですね。

 聞いた話では中学生くらいの子が反応してくれているそうですよ。それはとてもうれしいですね。私たちはリアルタイムな思春期物語を描こうとしていて、それって彼ら・彼女らからしたら鏡に映されるようなものなわけです。その頃を思い出していただくとわかると思いますが、自分のことを客観的に示されても、それって受け容れられないじゃないですか。にもかかわらず共感していただけているのであれば、そうした拒否感を覆す以上の心の動きがあり、それはつまりこの作品が一定のエンターテイメント性を得られたからなのかなと思いますし、非常にありがたい話です。

── 彼らを描くアニメーターさんのお仕事の凄さも画面から伝わってきます。画面作りはどんなところが大変ですか?

 まず絵コンテの段階で、アニメの定型的な表現はナシにしてくださいとお願いしています。つまり、普通に登場人物たちの感情を追いかけて物語の主軸である彼らをしっかりカメラにとらえましょうと。レイアウトは3DCGによるものと、私や助監督が撮ってきた写真をほぼそのまま使っています。それにプレスコによる生々しい会話が載ってきます。それを受けて絵コンテをもう1回私が修正し、それに追随する形で動きをつけてもらっています。写実的な画面と音に合わせることが今回のアニメーションの主目的ですので、言い方が悪いかもしれませんが、その意味でアニメーターの自由度は少ないと思います。でもこの作品の目標は中学生の息遣いと恋愛模様をしっかりと映像に落とし込むところにあり、その意味で作品としての軸をブラさずにやっていただけているので、アニメーションによる空気感は十分に出ていますし、その結果が画面の高級感に繋がっていると良いのかなと。


── アニメーターが考えて付け加えていく余地もありますか?

 それはもちろんありますよ。伸びをしている芝居があったとして、その伸びを人物像に合わせてどう表現するかというのはアニメーターの力量ですから、そこはあなたの本領を発揮してくださいとお願いしています。みんな一生懸命やってくれて、しっかりしたものに仕上がっているのは画面を見ていただければわかると思います。

── 線の強弱が出て温かみが出ているのは撮影によるものでしょうか。

 はい。画面上から温かみがほしかったので、多少のゆらぎがある、非常にアナログ的な線に撮影さんのほうで加工してもらっています。塗りも撮影処理をしてもらっているのですが、ほんのり水彩のような処理を入れていただいているので画面はやわらかい。さらに思春期のドラマを描くということで、背景美術では比較的明るめに画面を構築していただいて、全編通してさわやかな画面を突き通していただいているので、非常に一貫したフィルムになってくれていると思っています。


── そして温かみについてはキャラクター原案がloundrawさんによる絵柄であったことも大きいと思います。

 実はloundrawさん以外に候補がもうひとりいたんです。そのかたはもう少し、所謂アニメ寄りの絵柄だったんですよね。

 当時、私はまだアニメにしやすそうな絵柄に行こうとしていました。loundrawさんの絵って等身と肉体が生々しいんですよね。つまり、この絵柄を選んだ瞬間にアニメーションとしては逃げ場がなくなり、徹底的に日常のスケッチをしないと成立しない画面づくりに突入する。……そして、そんな現状です(笑)。

 最後の決め手は「だってこっちのほうがよさそうじゃん」という気楽なひと言でした(笑)。

── キャラクターデザインの森田和明さんはアニメ用のデザインに仕上げるにあたってご苦労をされていましたか?

 それでも彼はさすがの腕です。一発である程度のものを上げてきました。アニメーションで動くということも考慮に入れたうえで、loundrawさんの絵を100%生かした形にしてくれたので、あとは微調整のみでした。その意味ではスキがない設計です。


 今回は、設計図とか方法論をあらかじめ全部決めてあるという作り方なんですよね。

 そうでないと今回目指す空気感は出ないし、成立しない。非常にハードルは高いです。この間、ふだんめったに人のことを褒めないベテラン演出のかたから、「実写っぽいとか言うけれどさ。これはアニメだからこういうふうに感動できるんだよ。その意味でアニメ向き。これがホンモノだよ」と言ってもらえたんです。あれはうれしかったですね。

 うん、目頭が熱くなった。

 たしかにハードルはデタラメに高いですけど、そう考えるとアニメ向きの作品だったのかなと思いながらやっています。

── 物語も中盤を過ぎ、残すところ5話分ほどになりました。

 物語も進んで、こういう作品なのかということが十分に伝わっている頃かと思います。そしてこの流れが続いていきます。当事者である中学生にとっては何気ないところだけれども、実はその日常というものはこんなにもドラマチックなのだ、というところが描かれていきます。世界も狭く選択肢も非常に限られた中で、どういう選びかたをして、どんな恋愛をしていくのかを見守っていただければと思います。そしていい年になればなるほど、それはそれでドキドキしながら見られると思います。「ああ~」と、悶え頭を抱えながら見るのが正解です(笑)。これまで見逃した方は、総集編や一挙配信で総ざらいしていただき、後半の物語を楽しんでもらえればうれしいです。

主人公・安曇小太郎と同じ、連雀町の法被姿の岸誠二監督



(取材/構成:日詰明嘉)
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配信情報

■TVアニメ「月がきれい」総集編 “前半抄「道程」”&第1話~6話本編再配信
・第1話「春と修羅」 https://youtu.be/ygfsl0rQta0 ※常設
・第2話「一握の砂」 https://youtu.be/5H4NRY2t--c
・第3話「月に吠える」 https://youtu.be/LQxOjatXniA
・第4話「通り雨」 https://youtu.be/5ij2be8JuQ0
・第5話「こころ」 https://youtu.be/6lPSNnhYiaQ
・第6話「走れメロス」 https://youtu.be/YHEERWpiaZI
・前半抄「道程」 https://youtu.be/hZqIZYnEUuQ


※2017年5月23日(火)12:00~5月30日(火)11:59まで


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  • 主人公・安曇小太郎と同じ、連雀町の法被姿の岸誠二監督

関連作品

月がきれい

月がきれい

放送日: 2017年4月6日~2017年6月29日   制作会社: feel.
キャスト: 千葉翔也、小原好美、田丸篤志、村川梨衣、筆村栄心、金子誠、石見舞菜香、鈴木美園、千菅春香、井上ほの花、広瀬裕也、石井マーク、白石晴香、熊谷健太郎、岩中睦樹、東山奈央、岡和男、井上喜久子、岩田光央、斎藤千和、前川涼子
(C) 2017 「月がきれい」製作委員会

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