――カサハラテツロー先生は、どういうタイミングで参加されたのでしょうか。
手塚 ゆうき先生は初期にアイデアを出してくださったんですが、スケジュール的に執筆は難しいと。それでゆうき先生の初期のアイデアを踏まえつつ、カサハラテツロー先生にマンガを描いていただくことになりました。カサハラ先生は、メカにこだわりがある方ですし、手塚治虫作品にもこだわりがある方ですので、実作業は基本的におまかせしています。第2巻で、A106以前に天馬とお茶の水が作ったロボットが、ヘビ型など非人間型のデザインをしているところにはカサハラ先生のそんなこだわりを感じました。
A106以前に天馬とお茶の水が作成したA10シリーズのロボット達。A102は飛行型、A104は犬のような四足歩行型、A105は蛇型になっている。
――実際のストーリーなどに手塚プロとして意見をいう時はありますか?
手塚 基本的には思うように描いていただいているんですが、手塚治虫へのオマージュがあまり強くならないように、というところは意識をしています。「アトム ザ・ビギニング」は新しい物語です。違う方法論で原典である手塚治虫からどう離れていけるかを考えたほうがおもしろいと思うからです。まったく新しいお話ではあるけれど、ラストはアトム誕生に到達しなくてはいけないというところは難しい点ですが。でも、原作からぐっと離れて、そこから原作にどう近づいていくかが本作のおもしろさだと思います。手塚治虫の原作を神棚に飾ってしまうのでなく、ポピュラーなものとして改めて外に広げていきたいと考えているんです。
――「アトム」の魅力というのはどこにあると考えますか?
手塚 ピュアな心を持った子供のロボットというキャラクターがまず魅力的ですよね。アトムに馴染みすぎているから、普通に感じるけれど、100万馬力というパワーと子供が持っている純粋性が同居しているところがドラマの源になっていると思います。また現代の視線で読むと、AIやロボットが人間の生活に入ってきた時に何が起きるのかが描かれている予見性にも驚かされますね。
100万馬力のパワーと心を持ったロボット・アトム。 ©TEZUKA PRODUCTIONS
――アニメにはどの程度タッチされているのでしょうか。
手塚 脚本会議には、私もカサハラ先生もほぼ全回立ち会い、かなり綿密に進めました。アニメだけのオリジナルエピソードもあるので、そこはどんなふうに映像が出来上がってくるか楽しみです。実力あるスタッフの方ばかりなので、映像化の部分についてはもう安心しておまかせしています。
――「アトム」のこれからについては教えてください。
手塚 「アトム ザ・ビギニング」の企画を考えている時に、天馬についていろいろ考えました。天馬は、アトムを作ったあと失踪します。原作では精神状態がおかしくなったからと説明していますが、彼の中で大きな変化があったのでしょう。それがちょっと「スター・ウォーズ」のダースベーダーを思い出させるな、と。そんなことを思いついた時、「ビギニング」「原作」、そして“原作のその後”を描いた作品の3部作として「アトム」を考えることができると思いました。つまり「ビギニング」は、アトム・サーガの第一部なんです。アニメも併せて楽しんでいただければと思います。
(※注)1980年に放送されたテレビアニメ「鉄腕アトム」の劇中では2030年がアトムのもう一つの誕生日であると設定されている。