“アニメファン”に直球を投げる作品に
――相当念入りにシナリオ作りを進めていかれたんですね。視聴者のターゲットについてはどんな意識でしたか?
これは僕の意識というよりも周りからの意見ですが、「虚淵さんと水島さんが組んで映画でオリジナル企画をやる場合、一番注目してくれるのはアニメファンだから、彼らに対して直球を投げてください」とか、「水島さんはわりとメジャー志向で広いところを見る傾向があるけど、今回はちゃんと“アニオタ”に向けて作るべき」とか言われていました。
確かに、虚淵くんと組んでTVシリーズを経るわけでもない映画単独の作品を作るうえで、最初にそこに訴えられるものにならなければ広がってもいかないよなぁと。自分も過去アニメを見て育ってきた「アニオタ」ですから、アニメが好きで応援してくれる人に向けてちゃんと作ろうと改めて思いました。
――アニメファンに訴える「メカと美少女」の要素もバッチリですし。メカは変形するまでは丸いんですけど、逆にそれがエポックなところかな(笑)。「ガンダム00」のときもそうだったんですけど、止め絵で目立つよりもやっぱりアニメーションの本質って動いてナンボなところがあるので、その意味では球形から変形して繰り返し見ていく中でカッコよく見えるのが一番いいなと思って。
公開されているPVを見ると、回り込みながら1カットで変形して行くんですが、実は最初2カットで割っていたんです。それは3D制作上そうしてほしいとの要望もありそうしていたんですけど、野口プロデューサーが1カットでカッコよく変形するのを見たいと無茶ぶりをしたんですよ。
それに対し、グラフィニカ側が「やってやるぜ!」と作ってくれたカットなんです。ここは『
ガールズ&パンツァー』で3D監督を務めた柳野啓一郎さんが技術的にも大変な苦心をされて作ったカットです。そうやって作り上げられたメカなので、メインキャラクターと一緒にポスターに立つまでになって、こいつも出世したなぁって感じです(笑)。
――キャラクターのアニメーションはメカとは、また違ったご苦労があったかと思います。日常芝居に関しては経験が浅く、最初は3Dのアニメーターが皆、不安がっていました。、なので、2Dのアニメーターに手伝ってもらいながら、芝居や表情付けをしていったのです。その過程で、OKが出たものを参考に、色々と表現出来る様になっていきました。特に表情はどんどんアーカイブ化していって、ライブラリに蓄積して、そのうえでさらに細かくチューニングしたり、表情のかわいさに個々のセンスを出してジャンプアップしていきました。もちろんツールの開発もあったと思いますが、グラフィニカには、そういうものを受け入れ、蓄積し成長させていく独特の文化があったと感じます。
――文化というのは?グラフィニカには、スーパーバイザーとして板野一郎さん(『
超時空要塞マクロス』シリーズなどで知られるアニメーター。「板野サーカス」と呼ばれるアクロバティックな空中戦作画が有名。このほか特撮や3DCG業界に多くのアニメーション技術を伝えている)がいて、みんな彼に師事しているんです。メカアクションとかメカの表現とか、それも含めてお芝居として捉える考え方ですね。もちろん、それらは演出するうえで強く関連しています。
なので、話を戻すと、そんな彼らが一度自信を持った後では、次からはもっともっと感覚的に詰めていけるので次々とよいカットがあがりました。もともと地力はあったんだけど自信がなかったのが一気に開花したんじゃないかなと。手付け(モーションキャプチャーのみに頼らず、1コマずつアニメーションを追求する手法)って手間がかかるし、センスも必要なので、そう簡単に追いつけないものができたと思います。もっと言えば3DCGのモデル作りはハッキリとコストがかかるものなので、今後他社が3DCGでアニメを作る場合、複数の作品での展開も含め会社全体を通じて技術開発をどのように位置づけるかにかかってくるでしょうね。
二度見の注目ポイントは「作中すべての音」
――本作の制作を振り返って最大の挑戦は何でしたか?今までやってきた作画アニメーションで培ってきたものに加え、3DCGだから表現できることをハイブリッドにまとめ、映画的に見応えのあるものを作ったということがそれに当たるかなという気がします。あまり3DCGだって考えないようにする一方で、3DCGだからこそできたレイアウトシステムを、作画と違うアプローチで行えたりとか、その中でいろいろ新しい試みとか、映画を作るプロセスをスタッフみんなと共有することが一番の挑戦だったと思います。
――この映画を初回にご覧になるお客様は、おそらくすべてを堪能されると思いますので、改めて2回目をご覧になる方に向けての注目ポイントを教えていただければと思います。“音”ですね。それは音楽やキャラクターのセリフも含めたすべての音のことです。今回の演出において音楽は重要な要素ですし、この世界の中で鳴っている音についても気にしていただくと、ものすごい物量が注ぎ込まれていることがわかると思います。
そしてセリフについては、先ほど言ったように、かなり吟味して、ソリッドにまとめているので、無駄なく、必要な情報が入って来ると思います。そこに注目していただいて、考えていただくとキャラクターに対する理解がさらに深まると思います。アンジェラ、ディンゴ、フロンティアセッターと三人三様の「何が人間たらしめるのか?」という疑問、その対比や、彼らがなぜ、そう考えるに至ったかを考えていただけるとその答えをそれぞれが導き出せると思います。
劇場で2回目以降をご覧になるときには、この世界を表現するための音にも注目してもらえると、より一層楽しめると思います。劇場では本編フルのブルーレイも販売しているので、お買い上げいただいた際にはぜひご自宅で、ヘッドホンで細かな音まで堪能していただければと思います。
(取材・文/日詰明嘉)
<あらすじ>
ナノハザードにより廃墟と化した地球。人類の多くは地上を捨て、データとなって電脳世 界ディーヴァで暮らすようになっていた。西暦2400年、そのディーヴァが異変に晒されていた。地上世界からの謎のハッキング。ハッキングの主は、フロン ティア・セッターと名乗った。ハッキングの狙いは何か。ディーヴァの捜査官アンジェラは、生身の体・マテリアルボディを身にまとい、地上世界へと降り立 つ。地上調査員ディンゴと接触しようとするアンジェラを待ち受けていたのは、地上を跋扈するモンスター・サンドウォームの群れ。
アンジェラはそれを迎え撃つため。機動外骨格スーツ・アーハンを起動する。荒廃した地上のどこかに、フロンティア・セッターが潜んでいるはず。アンジェラとディンゴの、世界の謎に迫る旅が今、始まった。
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(C) 東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサエティ