「数十年後も残るようなガンダムにしたい」という監督の言葉を受けて生まれたデザインの数々──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』モグモ(キャラクターデザイン原案)インタビュー

2022年11月06日 19:020

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MBS/TBS系全国28局ネットにて毎週日曜午後5時から、ガンダムシリーズのTVアニメーション最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(以下、『水星の魔女』)が好評放送中だ。

本作は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(以下、『鉄血のオルフェンズ』)以来、7年ぶりのTVシリーズ新作であり、TVシリーズ初の女性主人公、学園が舞台と新たな魅力を見せている。本編の放送前には前日譚「PROLOGUE」も公開され、こちらも大きな反響を呼んだ。

 

話題のガンダム最新作で、キャラクターデザイン原案を担当しているのがモグモさんだ。これまでのガンダムとはまた違った世界観の中で、主人公であるスレッタ・マーキュリーをはじめとするキャラクターをどのように生み出したのか、制作秘話を中心にいろいろとお話をうかがった。

 

 

コンペでは、設定や世界観を妄想して企画書の形にまとめて提出

 

――まずは、モグモさんが『水星の魔女』のキャラクターデザイン原案を担当するに至った経緯からお聞かせ下さい。

 

モグモ サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)の方にご挨拶する機会があり、そこで「次の新しいガンダムの企画コンペをやるので参加しませんか?」と、モリオン航空としてお声がけいただいたのがきっかけです。

  

――コンペへの参加とはいえ、ガンダムシリーズ最新作と聞いて率直にどうでしたか?

 

モグモ 絶対にチャンスだと思いました。正直、受かるとは思っていませんでしたが、即答でしたね。

 

――そして見事にコンペを通った時は、プレッシャーや嬉しさ、楽しみなどどういった気持ちが強かったですか?

 

モグモ もちろんプレッシャーはありました。でも、それ以上に楽しみな気持ちが強かったですね。「今までとは違った新しいガンダムを作りたい」「いろいろチャレンジをしたい」と話を聞いていたので、そこに自分が入ることができたら楽しいだろうなと。

 

 

――その時点で描いたデザインは今とは多少違うかと思いますが、どのようなことを意識して描いたのか教えてください。

 

モグモ 女性主人公というのは最初から決まっていたので、どういう子なら面白いかを考えました。ガンダムって“ちょっと未熟な少年が成長していく物語”が基本だと思っていたので、あえて、その逆である自立した指揮官タイプの女性が主人公だったら面白いと思い、そのイメージでとりあえず立ち絵を描いてみたんです。

 

――指揮官タイプということは、今のスレッタとはかなりイメージが違いますね。

 

モグモ そうですね。今とは性格も真逆です。当時もらったコンペ用の資料の中に、「女性主人公であること」は書いてありましたけど、それ以外は何も決まっていなかったので、同人(企画サークル・モリオン航空)を一緒にやっているHISADAKEさんと一緒に設定や世界観を妄想して、「こういう女性が格好いいかな……」と描いていったんです。そうやって描いた絵を企画書のような形にまとめてコンペに出しました。ライバルの魔女とかも考えましたし、キャラクターの背後にガンダムを勝手に描いたものもあります(笑)。

 

 

学園の制服は海外の士官学校をイメージ

 

――モグモさんから見た『水星の魔女』のチーム、スタッフの印象はいかがですか?

 

モグモ 直接お会いしてやり取りする機会はそんなになく、基本的には週1回のオンラインミーティングでしたが、印象は……“体力お化け”ですね(笑)。いつ休まれているんだろうって。膨大な仕事をひたすらこなしていて、その情熱、創作に対する姿勢はすごいなと思っていました。

 

――そういうモグモさんも、本作でデザイン原案を担当したキャラクターは結構な数になりますよね。

 

モグモ そうなんですけど、たくさん描いたというよりも、キャラクター1人ひとりに時間をかけて作っていった感覚ですね。正直モブもデザインしたいくらいでしたが、メインだけでかなり時間をかけてしまいました。

 

――キャラクターについては後ほどひとりずつ聞くとして、先に全員共通の制服についてお聞きします。この制服やつけている小物もモグモさんがデザインされたのですか?

 

モグモ そうです。キャラクターが身につけているものは基本的にデザインしました。

 

 

――制服のデザインでこだわったポイントを教えてください。

 

モグモ 最初は海外の士官学校の制服をベースにしました。結構オールドタイプというか、クラシカルな軍学校の制服をイメージしたんです。そこから、だんだんと世界観が決まっていくうちに、ちょっとSF感を足していって今の形になりました。特徴的なのは、この太い袖ですよね。「魔女」という言葉から、魔女や魔法使いが着ているケープのようなシルエット感を出したいなと思って、いろいろ練った結果がこの形です。

 

――パンツスタイルなのもモグモさん考案でしょうか?

  

モグモ それは小林監督の案です。最近のアニメでもあまり見ない感じですし、すごく面白いな、男女共通なのもいいなと思ったので、パンツスタイルで描きました。

 

――キャラクターによっても丈が違うのは個性を出そうと?

 

モグモ はい。同じ制服の中でキャラごとの差を出そうと思って。ただ、あまりベースの形を崩しすぎてもよくないので、微妙な差で調整していきました。

 

 

――モグモさんは、これまでにVTuber「KMNZ」の衣装なども担当しています。VTuberやアニメって動きがあるものですよね。先ほど話していた袖もそうですが、デザインを描く際には、動きもイメージしていたのでしょうか?

 

モグモ もちろんそうです。それこそ制服の太い袖はたなびく感じが優雅に見えて、普通の制服よりも動きが出た時に効果的なシルエットになるんじゃないかと考えました。小林監督の指示で調整することもありましたね。

 

――小林監督との二人三脚というか、やり取りの中でキャラクターも衣装も作り込まれていったのですね。

 

モグモ そうですね、キャラクターの設定や性格に合わせて考えていきました。

 

――スタッフは“体力お化け”と言っていましたが、小林監督もやっぱりパワフルですか?

 

モグモ パワフルですね。小林監督は絵をすごく描ける方なので、イメージが本当に具体的なんですよ。たぶん、僕が今まで知り合った中で一番絵がうまいんじゃないかと思うくらいです。デザインでぶつかることはもちろんありましたけど、とても尊敬しつつ勉強させていただきました。

 



数十年後に残るガンダムにするため、今の流行を入れずにデザイン

 

――コンペの段階から今のデザインに落とし込む際に、プロデューサーや小林監督からの言葉で特に印象的だったものがあればお聞かせください。

 

モグモ 先ほど言ったように、プロデューサーは「新しいガンダムにチャレンジしたい」と話していました。なので、今までのガンダムのデザインを踏襲することはあえて考えずに、最初はとにかく「新しいガンダムとはなにか」を考えながらデザインしましたね。

 

小林監督と合流してから細かなところをいろいろ話したんですけど、監督は「数年後も数十年後も残るようなガンダムにしたい」と言っていたんです。本人は何気なく言ったのかもしれないですけど、それほど次のガンダム作品は重いことだし、重要なことだと改めて認識したので、そこからは僕もデザインに対する考えを改めるようになりました。

 

――具体的にはどのようなことでしょうか?

 

モグモ 今流行っている要素をあまり入れないようにしたんです。それを入れてしまうと、数年後に見たら古く感じるというか、“この時は”流行っていたよね、みたいな印象になってしまいますから。そうではなくて、数年後に見ても新しい、この作品にしかないようなデザインにしたいなと。

 

――では、それぞれのキャラクターについてさらにお聞きします。スレッタはどういうところを意識したのか教えてください。

 

モグモ スレッタのシルエットはかなり試行錯誤しました。たとえばアホ毛は簡単に特徴的なシルエットが作れるパーツではありますが、個人的には唐突にそこだけ起き上がってるのが納得できなくて、いろいろ考えた結果、ヘアバンドでかき上げてできたことにしようと思ったんです。ほかの人からしたら大した差ではないかもしれないですが、そういう自分なりの細かいこだわりは入れるようにしています。

 

 

――スレッタの髪色は最初から?

 

モグモ はい。別案もありましたが、この色が小林監督的にもしっくりきたみたいでした。

 

――ミオリネ(ミオリネ・レンブラン)は今よりもお嬢様感が強かったそうですね。

 

モグモ そうなんです。最初の設定ではそういう感じでした。令嬢感が強く、そもそも学園の生徒という扱いではなかったので制服を着ていなかったんですよ。衣装も露出多めのデザインにして、しっくりきていたんですが、学園の生徒に設定が変更になって。学生服と合わせるとちょっと地味になってしまい、今の形にするのがなかなか大変でした。

 

――現在のデザインにするうえで、具体的にこだわったポイントを教えてください。

 

モグモ やはり髪型ですかね。スレッタとの対比で考えていたので、髪のハネ方や、シルエットが対照的になるようにデザインしています。

 

 

――スレッタとミオリネは性格もそうですし、対になっているというか、パートナー感がありますからね。

 

モグモ そうですね。2人が並ぶことはかなり多いと思いますので。実はスレッタのほうが背は高いとか、ちょっとした気づきもあると思います。スレッタって女性陣の中でも大きなほうなんですよ。

 

――キャラクターのイメージからすると、ちょっと意外ですね。

 

モグモ そうかもしれないです。逆にミオリネはニカよりも小さいですから、だいぶ小さい設定ですね。

 

スレッタ、ミオリネ以外のキャラクターデザイン原案制作秘話も明らかに

 

――御三家の男性3人は、それぞれどのようなことを意識してデザインしたのか、苦労した部分などお聞かせください。

 

モグモ 基本的には3人のバランスをみながら考えていきました。グエル(グエル・ジェターク)はパッと見は粗雑そうですけど、右目の下に泣きぼくろを入れて、角度によって格好よく見えるようにデザインしました。

 

――泣きぼくろをグエルのようなタイプの男性につけるのは面白いですね。

 

モグモ そうですね。ちょっとやんちゃなキャラについていると珍しいんじゃないかと思って。そこが特に気に入っているポイントです。

 

 

――ほかの2人に関してはいかがですか?

 

モグモ エラン(エラン・ケレス)は比較的早くまとまったキャラで、最初から王子様をイメージしていました。ただ、制服のデザインは決まっていたので、それをいかに王子様にするかで結構苦労しましたね。マントをつけてみたり、タイツを履かせてみたり……どうやったら王子様感を出せるのか試行錯誤したんです。最終的には、ジャボという昔の胸飾りを近未来風にデザインすることで、王子様感を出せたと思います。

 

――あれは“ジャボ”という名前なのですね。知りませんでした(笑)。

 

モグモ 僕も途中で知りました(笑)。

 

 

――シャディク(シャディク・ゼネリ)はまた雰囲気がガラッと違います。

 

モグモ シャディクは一番時間がかかりました。和装や飄々とした感じを最初はイメージしていたのですが、すでに決まっていたグエルとエランといかに合わせるか。バランスを見ながら二転三転しましたが、最終的に今の形で落ち着きました。

 

――長髪で軟派なキャラクターという、わかりやすいキャラ感が出ていると思います。

 

モグモ そうですね。わかりやすさはすごく重視しました。

 

――ニカ(ニカ・ナナウラ)とチュチュ(チュアチュリー・パンランチ)についてもお聞かせください。見た目ではやはりチュチュの髪型はすごいインパクトがあります。

 

モグモ 最初はあんなに大きくなくて、もうちょっと小さかったんですよ(笑)。

 

 

――今は顔以上に大きいですからね(笑)。

 

モグモ チュチュはデザインし始めた時はまだほとんど設定がなく、名前だけが決まっていたんです。なので、名前からひたすら考えていきました。チュチュという名前から連想したので、小柄でちょっとふっくらしたシルエットで髪の形が耳っぽいとか。チュチュはシュシュとも響きが近いなと思って、ドーナツ状の形とかも試してみましたし。当時は設定もほとんどなかったので、名前からインスピレーションを受けて考えていきました。割とゼロから考えたキャラクターですね。

 

 

――ニカは一番普通な感じです。個性豊かなキャラクター達の中に落ち着いたキャラクターを入れた感じでしょうか?

 

モグモ まさにそうですね。物語的にも性格的にもスレッタやミオリネといった個性的な子をなだめるというか、バランスを取る役割だと思ったので、デザインも奇抜なことはせず制服も全然カスタマイズしていません。とてもスタンダードなキャラクターとしてデザインしました。

 

――改めてキャラクターを見直すと新たな発見がいっぱいありそうです。貴重なお話ありがとうございました。

 

(取材・文/千葉研一)

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放送日: 2022年10月2日~2023年1月8日   制作会社: サンライズ
キャスト: 市ノ瀬加那、Lynn、阿座上洋平、花江夏樹、古川慎、宮本侑芽、白石晴香、富田美憂、内田直哉、斧アツシ、金尾哲夫、勝生真沙子、小宮和枝、沢海陽子、斉藤貴美子、花輪英司、大塚剛央、高田憂希、広瀬ゆうき、山根綺、佐藤元、能登麻美子、榎木淳弥、畠中祐、KENN、天﨑滉平、稲垣好、島袋美由利
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