【インタビュー】音楽でいろいろな遊びができる作品でした──作曲家・伊賀拓郎、「スローループ」の劇伴を語る

2022年02月22日 12:000

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モールス信号にすると「スローループ」となるリズムを入れたりして、遊びました


── 演出での遊びが、音楽に絡んできている部分もありますね。たとえば、小春がアクアパッツァを作るシーンは、料理番組みたいな演出がされていて、そこで流れたのが17曲目の「Koharu’sキッチン」です。

伊賀 小春ならではの「3分クッキング」ですよね。この曲は100秒で作ってほしいというオーダーがあって、意外と長いんです。完成形は88秒で100秒には足りてないんですけど(笑)。

── 曲の長短でいったら、叙情的な曲は比較的長くなっている印象がありました。「楽しい会話」「優しさ」「懐かしさ」は2分を越えていて、それよりちょっと短い曲に「家族」「姉妹の絆」があります。

伊賀 多少の長短はありますが、どれも土屋さんが指定した尺に合わせて作っています。たとえば、「優しさ」「懐かしさ」は120秒という指定でした(編集部注:完成形は「優しさ」は132秒、「懐かしさ」は120秒)。一番長い秒数を指定されたのは「説明」の150秒です。これは叙情的な曲ではなく、第2話で恋ちゃんがフライの種類を説明するシーンのための曲です。

── 「説明」はセリフのじゃまをしないように、音数が少なくすき間のある曲になっていました。

伊賀 曲が流れている間、ずっと3人がしゃべっていることを想定して、ミニマルミュージックにしました。この曲も試行錯誤があって、鍵盤の位置とは違う音が出るようにシンセを設定して弾いてみたり、モールス信号として聴くと「スローループ」となるリズムで、同じ音を弾き続けたりしているんです。

── モールス信号! そんなことをしているんですか(笑)。

伊賀 誰かが気づいてくれたら、面白いなと。

── 叙情を感じる曲では、「懐かしさ」が印象に残りました。オーボエの音色がやさしくて。

伊賀 夕陽を感じる音色ですよね。ノスタルジックな曲を作ろうとすると、すぐオーボエを使ってしまうクセがあって(笑)。オーボエは演奏者によって、音色ががらりと変わる楽器でもあって、今回の演奏者の最上峰行(もがみたかゆき)さんは、音色を聴けば、すぐに最上さんとわかるくらい特徴があるんです。僕は最上さんのオーボエが好きで、今までの作品でも、何度もお願いしています。


── 「スローループ」の劇伴では、オーボエに限らず木管楽器が全般的に活躍しているように感じました。

伊賀 多用してますね。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスと揃って、ピアノのように下から上まで同じ音色を聴かせることができるのがストリングスの強みですが、木管は逆に、楽器ごとに音色が違って、それぞれさまざまなイメージや感情を想起させやすいんです。ピアノやストリングスの上にクラリネットのメロディを乗せるのか、オーボエのメロディを乗せるのかで、曲から受ける印象は大きく変わるので、そこで差別化を打ち出しています。

── 木管は感情を伝えやすい楽器であり、演奏者によっても印象が変わってくるということですね。

伊賀 そこが木管の面白いところで、ピアノ奏者の自分からすると憧れの楽器なんです。

── もちろん鍵盤楽器も大活躍していて、一般的なピアノからトイピアノ、そしてアコーディオンなど、いろいろな音色が聞こえてきます。

伊賀 35曲目の「いただきます!」のように、みんなが集まって、わちゃわちゃしているシーンで使われる曲は、いろいろな楽器が次から次へと現れたらいいなと思って作っています。フルート、バイオリン、アコーディオン、ピアノ、グロッケン、ギター、ベースなどが次々と出てきて、バイオリンとフルートが核となるメロディを会話しているように奏でているのが「いただきます!」です。

── 「スローループ」の食事シーンは時に近所の人までが集まって、年齢の幅も広いし人数が多いんですよね。そのにぎやかさが、曲でも表現されていると思いました。

伊賀 1つひとつの楽器に意味を持たせて、登場させたいと思いました。たとえば、「いただきます!」では、フルートのコロコロした軽快な感じは小春、バイオリンの落ち着いた感じはひより、そしてアコーディオンが恋ちゃんで、「はい、はい、あんたら」と言いながら2人のやり取りを見ているような感じで、フルートとバイオリンのメロディを支えているんです。

── 「SLOW LOOP」と作品名が付けられた曲が3パターン入っていますが、これがメインテーマということですか?

伊賀 そうですね。これは一番最初に作品のテーマとして作った曲で、楽器をちょっとだけ変えて2パターン提出したら、両方がオンエアで使われたんです。なので、「SLOW LOOP I」と「SLOW LOOP II」がCDには収録されています。もう1パターンはタイトル通り、ピアノソロになっています。

── メインテーマに関しては、どのような発注だったんですか?

伊賀 「仲よし3人の未来」「温かく、期待感」「導入と締め感」の3つをテーマに、「いい曲」を作ってくださいと(笑)。最初の打ち合わせでは、ギターを下敷きにして温かみを出そうという話になったんですけど、作っている間にギターはないほうがいいなと思って、ピアノで行くことにしました。ちゃんとOKをいただけたので、正解だったなと思います。

── 使う楽器が最初の想定から変わっても、求めるイメージ通りの曲ができ上がればいいということですね。

伊賀 僕は感覚よりも理詰めで作曲する事が多いタイプなんですよね。「仲よし3人の未来」だから3拍子にすれば、「3」というキーワードのつながりもありつつ、温かさも出やすいかな、じゃあ楽器はどれを使おうかな、最初はギターと木管とピアノを使おうと思ったけど、うるさい感じがするからいったんギターと木管を外して、でもピアノだけだと透明すぎるから、ハープを入れてみようというように、1つひとつ検討しながら曲のイメージを固めていくんです。

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スローループ

スローループ

放送日: 2022年1月7日~2022年3月25日   制作会社: CONNECT
キャスト: 久住琳、日岡なつみ、嶺内ともみ、名塚佳織、村上奈津実、井上ほの花
(C) うちのまいこ・芳文社/スローループ製作委員会

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