最終話放送終了&絶賛再放送中! 監督&プロデューサーが語るアニメ「ウマ娘 プリティーダービー」制作裏話!

2018年07月09日 19:200

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最終話の放送が終了したばかりのTVアニメ「ウマ娘プリティーダービー」。これまでを振り返って、及川啓監督、東宝伊藤隼之介プロデューサー、P.A.WORKS 橋本真英プロデューサー、Cygames 石原章弘コンテンツプロデューサーの対談インタビューを行なった。

これを読めば、7月より始まっている「ウマ娘 プリティーダービー」再放送も改めて楽しめること間違いなし!

 

キャストも名馬への思いを抱きアフレコに臨んでいた

──今回の取材は、各社プロデューサーの皆さんにご参加いただいてますので、それぞれの本作での役割分担などを教えてください。

 

石原章弘(以下、石原CP) Cygamesでコンテンツプロデューサーをしております。さまざまなメディアに広がっている「ウマ娘」の世界観設定やキャラクター設定、脚本などを見ています。

 

伊藤隼之介(以下、伊藤P) アニメーションの責任者なんですが、個人的に競馬好きでもありますので、作品全体の競馬の面から見た考証も担当していると勝手に思っています(笑)。

 

橋本真英(以下、橋本P) 映像を作る現場での、実制作の責任者をしています。

 

──放送を終了しての手応えや、ファンからの反響について教えてください。

 

及川啓監督(以下、及川監督) 手応えはすごく感じていますね。ありがたいことに視聴者の皆さんにもいい評価をたくさんいただいているようです。アニメファンだけでなく、競馬ファンの方にも興味を持っていただけているようで、それも嬉しいですね。

 

 

──アニメ「ウマ娘 プリティーダービー」では現実のレースや競走馬たちの生涯をモデルにしていることもあって、「次回あたりサイレンススズカに大変なことがありそうだ」など、先の展開を予想しながら待ち構えている空気があったのは独特ですね。

 

伊藤P 今はそういう感じになっているのですが、本当にそういう空気になってくれるか、競馬好きな人たちが興味を持ってくれるかはやってみないとわからない部分だったんです。だから競馬ファンとアニメファンが一緒に展開を予想しながら楽しんでくれていた状況はとても嬉しかったですね。

 

橋本P アニメーションを作る以上たくさんの人に見てもらいたいと思っていますし、競走馬をモチーフにする以上、作品を通じて馬や競馬に興味を持ってくれる人が増えればと思っていました。実は元々、P.A.WORKSの社内には競馬に詳しい人はあまりいなかったんです。でもこの作品をきっかけに、競馬の話をする人間が増えました。実は先日、ランドセルを背負った小学生が、「シンボリルドルフは速いんだぞ!」みたいな話をしているのを見かけたんです。このタイミングで小学生がその話をしているのは、もしかしたら(アニメを)見てくれていたのかな、と思いました。

 

伊藤P その話はいいですね(笑)。僕も、あまりアニメとは縁がなさそうな体育会系の男性が、居酒屋帰りに「ウマ娘」のよさを語ってくれていたのは嬉しかった。

 

石原CP 「ウマ娘」に参加してくれている声優のお父さんたちが作品をすごく見ていて、今回ここがよかった、みたいに言われたんだそうです。たくさんの人が見てくれているのはもちろんですが、今まであまりアニメを見ていなかった層の人が見てくれたことをすごく感じています。

 

及川監督 海外の方も笑ってみてくれていたりするようです。

 

──声優さん自身も、リアルタイムでは活躍を知らない名馬たちに思い入れを持って演じていらっしゃるのを感じます。

 

石原CP 演じてもらっているのは競走馬そのものではなく、あくまでキャラはキャラではあるんですね。だから名馬を演じるという部分は声優さんだけでなく、作画、シナリオ、みんなで背負いたいと思っています。ただ彼女たちも表に立つ立場なので、人前で語るからにはモデルになった馬のこともしっかり勉強したい、という気持ちは感じますね。

 

伊藤P アフレコの初回挨拶の時に、キャストさんにお話したんです。この作品は擬人化物の系譜として語られることもあると思うけど、決定的に違うのは、それぞれの名馬の関係者や、ファンの方々が健在だということを意識してほしいと。サイレンススズカのオーナーの永井啓弍さん、生産者の稲原牧場の皆さんもお元気ですし、先日亡くなったスペシャルウィークの牧場のスタッフの皆さんも愛情を持って面倒を見ていらっしゃいました。それはゴールドシップについても、全ての馬について言えることなんです。日本刀であったり戦艦であったり、歴史上の物の擬人化とはそこが一番違うんですね。だからそういう存在を扱う責任を感じていきましょうとは、社内でも常々話しています。

 



サイレンススズカの悲劇をいかに描いたか

──現実の競走馬をテーマにするうえで、サイレンススズカが予後不良となった秋の天皇賞を描くこと、そしてその後の彼女の復活を歴史のIfとして描くのはとてもデリケートな素材だと思います。物語の軸にスペシャルウィークとサイレンススズカの関係性を持ってきた理由を含めて、題材として選んだ理由や想いを教えてください。

 

石原CP どのウマ娘のモデルになった競走馬もそれぞれのドラマを持っているので、どの馬でもメインにできるのは前提にあったんです。特に、今表に出ているウマ娘のモデルは一流の競走馬ばかりなので。その中でスペシャルウィークをメインに選んだのは、競走馬人生的に「勝って勝って勝ちまくった」という馬ではなかったからです。勝ったけど負けて、また勝ったと思ったら負けてという起伏に富んだ生涯なんですね。

 

また、エルコンドルパサーやグラスワンダーといった、魅力的なライバル馬が多い世代であることも後押ししました。だから、スペシャルウィークをメインに描こう、ということが最初に定まったんです。実はスペシャルウィークとサイレンススズカは、史実のレースではからみはないんです。レースから離れて、あの世界でウマ娘が女の子として生きていくうえで、どう歩んでいく姿を描くのがいいか。それを考えた時に主人公が憧れを持つ対象としてサイレンススズカを選びました。

 

もちろん、サイレンススズカの結末については多くの人が今も複雑な想いを抱いているので、扱いについては慎重にしなければいけないなと思っていました。だから、サイレンススズカを物語としてどう描くか、に関しては、脚本会議の最初からずーっと、争点であり続けましたね。

 

伊藤P スペシャルウィークとサイレンススズカの関係性を描くこと、サイレンススズカの天皇賞(秋)をどう描くか、ということはそれぞれ別のテーマとして議論を重ねました。石原さんが話した通り、史実のスペシャルウィークとサイレンススズカには面識はほとんどないんですが、そこに関係性を仮定することで物語を作り始めました。

 

スペシャルウィークとサイレンススズカは一歳違いなので、ひょっとしたら一緒に走った可能性もあったんじゃないか、ということですね。同じ武豊騎手が騎乗していましたし、スズカの事故があった翌年の天皇賞(秋)はスペシャルウィークが勝っているんです。その時に武豊騎手が「サイレンススズカが背中を押してくれたのかもしれない」と話していたつながりもあって、この組み合わせを決めました。

 

その上で、サイレンススズカの天皇賞(秋)をどう描くのかには議論を重ねました。スペシャルウィークがサイレンススズカに出会ったことが最大のIfで、そのことでスペシャルウィークがサイレンススズカを助けるというIfにつながったのは、2つのテーマについて一緒に議論を重ねていたからこそだと思うし、作っている我々にも面白い、興味深い体験でした。僕自身子供の頃、サイレンススズカのあのレースを見ていたので、あのシーンを流していいのか、結末を変えることも含めて葛藤はありました。

 

ただファンの方から、この作品を通してサイレンススズカの物語が伝えられたんじゃないか、この結末に救われた気がする、という言葉をいただいて、やってよかったなと思いました。

 

 

──サイレンススズカという存在の鮮烈さや、アクシデントのシーンを描くうえで、監督として意識したことはありますか?

 

及川監督 あのシーンの悲しさ、悲劇性ばかりをピックアップするような見せ方にはしたくないね、とは話していました。競馬ファンの方があまり心を傷めないようにしたいと考えていました。

 

石原CP 話数の最後でも彼女の笑顔を見せたり、とにかく、彼女には続きがあるんだ、ということを予感させる作りになっています。

 

及川監督 そもそもサイレンススズカの事故のシーンは描かずに、普通にレコードタイムを出して終わろうという話もあるにはあったんですよ。あのシーンに関しては、伊藤さんが競馬を愛する人として本当に葛藤しているのが伝わってきたので、僕のほうで「レース前に負傷を予感させるフラグを立てまくって、本番は何事もなく勝つ」という展開も提案した覚えがあります。

 

伊藤P 事故はありませんでした、で済ませることがストレスというか、見る側への負荷は一番少ないのですが、それでサイレンススズカの物語を描いたことになるのかどうか。目を背けたくなるシーンですが、それを描くからこそサイレンススズカをテーマにする意味があるのだと思いました。

 

石原CP ファンの方の受け止め方を気にしながらも、反応を過剰に気にしすぎてもいけない、そのバランスがとても難しかったです。実際に放送されるまで、反応が一番わからないエピソードでした。

 

──7話に関しては、サイレンススズカの予後不良の史実がアニメファンにも拡散されていたので、見る側も視聴前にある程度覚悟ができていたように思います。なのでヒロイン格の事故という“事件”にも関わらず、マイナスの反応よりも「復活の可能性があって、(サイレンス)スズカの続きがあってよかった」という反応が大きいように感じました。

 

及川監督 本当にそうなってましたよね。

 

伊藤P やっぱりつらい気持ちでアニメを見終わってほしくないんですよ。脚本でも音楽でも、安心につながる演出を入れていますので、ちゃんと伝わってくれてよかったです。

 

石原CP 音楽についてもあそこは相談してかなり時間をかけました。毎話数ダビングに7~8時間かかるんですけど、この話も本当に長かった……(笑)。



スタッフも自腹を切って資料集め!

──1クール作ってきて、皆さんそれぞれの制作上の苦労話などをうかがいたいのですが、橋本さんは、多人数の美少女が入り乱れて全力疾走し、終わった後はライブシーンまであるというのは、大変な作画カロリーだったのでは。

 

橋本P 作画さんに100%言われたのはパーツが多いということです。たとえば、日常シーンでもダイワスカーレットはティアラをしていたり。

 

及川監督 作画の苦労は、どうしても愚痴っぽくなるので(笑)、軽めの話をすると、府中や阪神などの競馬場に作画の資料として写真を撮りに行ったんですよ。ある土曜日、府中の観客席で、あ、ここでサイレンススズカやスペシャルウィークがレースを見ている姿が描きたいな、という場所を見つけたんですが、その日は夕方でもう撮れなかったんです。翌日改めて出向いたんですが、日曜はお客さんが多くてですね。スペたちがいる場所をおじさんが定位置にしていて、1日中動かなかったんですよ。仕方なく、翌週また出向いて撮影しました(笑)。

 

伊藤P ゲートが自動ドアの話とか面白くないですか?

 

橋本P あれですか(笑)。ウマ娘が出走する前に入るゲートには開閉を担当するスタッフさんがいて、1話のスタートシーンでは描かれているんですが、後話数で、自動で閉まっていたカットが音響時に見つかって。

 

及川監督 これ自動ドア?って話になったんですが、各話、結構勝手に閉まっているように見えていて、あーってなったんですが。あれはちゃんと、カメラから見えない角度でスタッフが開閉しているんです(笑)。

 

橋本P ふと気を抜くと、実際の競馬にある情報が抜けてしまったりするんですよね。

 

石原CP ゼッケンの色とか、レースのグレードに合わせた諸々とか、あるんですよ。

 

橋本P 最初は社内に競馬に詳しい人間がいなかったんですが、伊藤さんの競馬愛はひしひしと感じていたので、なんとかこの愛に応えたいとは思っていたんですが。

 

伊藤P 最初は、え、そこからかよ、というぐらい競馬の基本的なところから説明してましたね。馬番は20番まで、とか。皆さん勉強してくださっていて、今はかなりスムーズになりました。

 

 

──セイウンスカイがゲート入りを嫌がっていたシーンが印象的なんですが、馬らしさと、理性ある女の子としてのウマ娘のバランスって難しくないですか?

 

石原CP セイウンスカイについては、パッケージ1巻(BD-BOX『ウマ箱』第1コーナー)に「ウマ本」という冊子がついていて、そちらに収録されている小説で「セイウンスカイがなんでゲート入りを嫌がったのか」の気持ちはちょこっと説明しています。もちろん大本は史実のレースで嫌がっていたからなんですが、彼女たちはウマ娘なので、そのあたりの理屈はつけています。

 

伊藤P 競走馬の本当の気持ちは誰にもわからないですからね。なのでそこは僕らがファンとしてした解釈でいいかなと思っています。

 

──凱旋門賞ではフランスのロンシャン競馬場が登場しますが、資料とかには苦労しませんでしたか?

 

及川監督 PAさんの設定制作さんがすごく優秀な方で、凱旋門賞用の資料もしっかり用意してくれました。

 

伊藤P 設定制作の福澤祐也さんという方が、競馬にたくさん投資をしながら資料を集めてくれています。

 

橋本P 彼は競馬で第9レースまでウン万ぐらい大勝していたのが、最終レースで全部なくなって帰ってきたのが伝説になっています(笑)。彼も「ウマ娘」に関わる前は競馬に詳しくなかったんですが、阪神、中山、京都、いろいろな競馬場に行って写真を撮ってきてくれました。

 

──キャストさんの収録面で印象に残っている出来事とかはありますか?

 

石原CP トレーナー役の沖野くんが、実は舞台のお仕事で途中に足を怪我してしまって。7話頃だったかな、本人がどうしてもやりたいと言ってくれたので収録は行なったんですが。その時のハナさんとの会話が、怪我の大変さを語る内容だったんですよ。これでサイレンススズカの気持ちがわかるとか話していたので、ある意味持っている人だな…! となりました。お芝居ではみんなに苦労をかけましたが、スペシャルウィーク役の和氣さんも沖野くんも熱演してくれていますし、サイレンススズカ役の高野さんもどう演じるべきかものすごく悩んで、考えながら演じてくれました。だから毎回の収録がギチギチで、休憩3分で次!みたいな感じでした。でもその苦労と熱演は作品できっちり実っているなと思います。

 

 

──プロモーション面では武豊騎手がウマ娘プロモーターに就任したのは驚きました。武豊騎手にまつわるエピソードがあればお願いします。

 

石原CP アフレコは武豊騎手が京都にお住まいなので、京都のスタジオを取って僕と伊藤さんで音声を録りに行ったんです。アフレコ自体初体験ということなので、僕から演技指導をさせていただきました。CMにもすごく協力的に参加してくださいました。CM撮影の時に武豊騎手を見る伊藤さんの目が忘れられなくて、あんなに嬉しそうな伊藤さんは初めてでしたね。

 

伊藤P 競馬場の客席からはよく見ていたんですが、肉声で我々と話す武豊騎手が側にいるのは不思議な経験でした。でもスペシャルウィークのレースを武豊騎手に見ていただくのは、本当に緊張しました(笑)。

 

──最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

 

石原CP まだアニメは新作の14~16話相当のお話が、アニメパッケージ4巻に収録されますので、引き続き応援のほど、よろしくお願いします。

 

橋本P この作品を通して、競馬を知らなかった人の休日の選択肢のひとつに、競馬(もちろん楽しみ方はいろいろ)が増えていたら嬉しいです。ギャグ、レース、ライブと盛りだくさんの作品です。1話ごと、すっきり見られる内容になっていると思います。何度でも、まだ見ていない方は再放送の途中からでも、見ていただけたらありがたいです。

 

伊藤P 最終話で描かれたドリームレースでは、ナリタブライアンとビワハヤヒデ、ウオッカとダイワスカーレット、マルゼンスキーとグラスワンダーなんてのも面白かったですよね。でも、そういうレースの結果よりも、その日を迎えたキャラクターたちのあり方を楽しんでいただけていたら嬉しいです。そこに寄り添うトレーナーという存在もいてですね。彼らをどう描くかをみんなで苦心しながら考えたので、再放送やBD-BOXで改めてトレーナーの気持ちで見てもらえたらありがたいです。

 

及川監督 頼れるスタッフの方々が本当に一生懸命作ってくれてました。情熱あふれる映像を見届けてもらえていたら嬉しいです。

 

 

TVアニメ「ウマ娘 プリティーダービーはTOKYO MX 毎週月曜日23:00~、BS11毎週月曜日24:30~にて再放送中。

 

(取材・文/中里キリ)

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ウマ娘 プリティーダービー

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放送日: 2018年4月1日~2018年6月17日   制作会社: P.A.WORKS
キャスト: 和氣あず未、高野麻里佳、Machico、大橋彩香、木村千咲、上田瞳、大西沙織、髙橋ミナミ、前田玲奈、鬼頭明里、首藤志奈、藤井ゆきよ、沖野晃司、豊口めぐみ
(C) 2018 アニメ「ウマ娘 プリティーダービー」製作委員会

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