あの話はこうやって作られていた! 脚本・冲方丁が語る、「攻殻機動隊ARISE/新劇場版」制作秘話

2017年12月20日 12:130

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2013年から2014年にかけて全4部作で劇場上映された「攻殻機動隊ARISE」。攻殻機動隊の「公安9課」がいかにして結成されたかを描く前日譚的な作品であるが、本作と、TV版として放送された「攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT」、そして「攻殻機動隊 新劇場版」とつながる一覧の「攻殻機動隊ARISE/新劇場版」のBlu-ray BOXが、2017年12月22日より発売となる。


これに先だって、本シリーズの脚本・シリーズ構成を担当された、作家の冲方丁さんにインタビュー。本シリーズ制作に関わる貴重なお話の数々をうかがうことができた。


「ARISE」の話が来たときは、いろんな意味で「逃げられない、どうしよう」って思いました

 

--まず、冲方さんにとって「攻殻機動隊」との出会いはいつでしたか?

 

冲方丁(以下、冲方) まずは漫画が先で、その後、劇場版の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(1995)を見ました。作家デビューのちょっと前のことだったので、感動はしましたけど、どちらかというと勉強になりましたね。作家修行時代最大の教科書のひとつと言ってもいいかもしれません。そんなに簡単に消化できない(笑)。

 

--当時の修行時代には、どんなことをされていたのですか?

 

冲方 学んで、知識を得て、技術を身につけて、それを自分の感性に従って発揮するにはどうしたらいいかということを試行錯誤していました。そうしないと食っていけないぞと。

 

--元々、こうした近未来SFのような設定の作品はお好きだったんですか?

 

冲方 特にこのジャンルがというよりも、それぞれのジャンルですぐれた傑作からなんとかしてそのエキスを吸ってやろうと。そのうちの、「SF・ディテクティブ・サイバーパンク・サイボーグアクション」の筆頭だなあと思います(笑)。

 

--まさにそうですね(笑)。

 

冲方 ていうか、ほかにないくらいですけどね(笑)。

 

 

--その時のファーストインプレッションはどんなものでしたでしょうか?

 

冲方 「ここまでやれるんだな」というのが最初の印象です。漫画でもアニメでも、ここまで深くテーマを掘れるし、キャラクターを繊細に描けるし、かつ超複雑な世界観を、漫画の場合は細密画のように散りばめていって、映画版の場合、エキスだけをスパッと抽出して、非常に抽象的なイマジネーションでもって統一しているという、それが非常に勉強になりましたね。

 

--その後の冲方さんの創作にもだいぶ影響を与えたんじゃないですか?

 

冲方 結構そうですね。情報密度の基準が、あの作品のせいで人よりずれちゃったなあ(笑)。普通の気分で書いてても、一般の読者の方からは「密度が濃い」って言われちゃう(笑)。密度という点で言えば、「攻殻機動隊」をはじめとした士郎正宗先生の影響はありますね。

 

--欄外にまでびっちりいろんな説明が書いてありますもんね。

 

冲方 小説の場合、(注)ってして、巻末に説明を書けるんですけど、「小説でそんなことするんじゃない」って言われるだけなので(笑)。

 

--あの説明の細かさはすごいですよね。

 

冲方 ああやって構築していくのもやっぱり「芸」なんだと思います。テクニックを駆使してああいう表現の方法にたどり着いているので。でも、欄外にいろいろ書けば士郎正宗作品らしくなるかっていうと、意外にならないんですよね(笑)。

 

--そんな冲方さんに「攻殻機動隊ARISE」(2013-2014)の脚本の依頼が来たときの心境はどんなものだったんでしょう。

 

冲方 いろんな意味で「逃げられない、どうしよう」って思いました。受けざるを得ない感じがしましたね。日ごろから「攻殻好き好き」言ってたので、「いや、攻殻はちょっと」って言えるわけないしなあとか。あと、勉強させていただいた恩返しっていう意味合いもありました。「攻殻機動隊」って単発の作品じゃないんですよね。「攻殻機動隊」自体がひとつのジャンルというかコンテンツになってますので、今後とも続いていくだろうという思いがありました。誰かがバトンを受け取って次に渡さないと、バトンとバトンの距離が広くなってしまって、作品世界と現実世界との隔たりができてしまう。ちゃんと誰かがつながないとダメだろうというので、覚悟を決めました。後から聞いたら「ハリウッド版」(編注:「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017))の企画もあったとかで、先に言えよ、って感じなんですけど(笑)。

--結構、使命感を感じてたんですね。

 

冲方 使命感とか持たないと、こんな面倒くさい作品できませんよ(笑)。

 

--確かに、そんな感じは(笑)。しかし、「攻殻機動隊」と言えば、やはり押井守さんや神山健治さんの作品という印象が強いですが、その中で、冲方さんならではの個性というか、味付けをどうしようというお考えはありましたか?

 

冲方 まあいろいろありましたけど、何か新しいものを作って、斬新にやっていけるという状況でもなかったんですね。たとえば、最初の劇場版「GHOST IN THE SHELL」のときと、「S.A.C.」(攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX:2002-2003)を作り始めたころって、ほとんど誰も知らないわ、そんなに売れてないわで、やりたい放題なわけじゃないですか(笑)。それがドカーンってヒットして、これはすごいってなっちゃうと、いろんなところが変わってしまうんですよね。会社の関わり方とかいろいろ。それらも含めて「付き合おう」と(笑)。

 

「今やらないと、今後やれなくなることって何だ?」という話になり、だったら「過去編」だろうと

 

--「攻殻機動隊ARISE」の企画がスタートした頃にはすでに、「攻殻機動隊」って、ファンも含めて、もうある種のイメージが固まっていたと思います。そのイメージをまずは壊しにいくという作業をなされたんじゃないかと思いますが。

 

冲方 そうなんですよね。しかも、別の意味で単発ではない、「オムニバス形式の連作」で、監督がひとりひとり違うんだけど、話としてはつながるようにしてくれっていう。バカヤローって話ですよね(笑)。自分が何を言っているのかわかってるんだろうか、っていう気分でしたけど。それも、しょうがない、受け入れようと(笑)。いろんなものを受け入れてやらざるを得ないって思ったんですけど、それをするだけの価値がある作品だし、作るだけでも勉強になりました。なので、最終的には、やれてよかったと思ってます。

 

--おそらく、プロット作成段階から、相当なご苦労があったんではないかと思いますが。

 

冲方 もう忘れました(笑)。

 

--「攻殻機動隊ARISE」は、時系列的には、士郎先生の原作漫画「攻殻機動隊THE GHOST IN THE SHELL」の冒頭につながるという前日譚を描いた作品ですが、そのあたりの設定自体は最初から提示されていたんですか?

 

冲方 いえ、そこにたどり着くのが大変だったという感じですね。最初はもう、てんでバラバラな意見が飛び交うカオスな会議でしたので。取りあえず僕のほうでも、こんなことやったらいいんじゃないかとか、いろいろ提案をしていくうちに、「今やらないと、今後やれなくなることって何だ?」という話になり、だったら「過去編」だろうと。もしかすると、この後、さらなる続編が作られていったときに、(草薙)素子っていう存在がいなくなるかもしれないし、書くなら今しかないんじゃない?という話になっていきました。

 

--なるほど。そこで初めて「攻殻機動隊THE GHOST IN THE SHELL 」の最初のシーンにつながっていくお話になったと。

 

冲方 「攻殻機動隊」を知らないような、なるべく新しい方が、原作漫画であったり、「GHOST IN THE SHELL」であったり、「S.A.C.」であったりに入っていってほしい。そういう意味での橋渡しもしたかったので、たとえば、「攻殻機動隊 新劇場版」(2015)のラストは漫画の冒頭の部分につながるようにするとか、ちゃんとオマージュ回も1回は入れるとか、要所要所でそういう工夫はしましたね。後はもうオムニバス形式と言うからには、監督それぞれにやりたいことがあるでしょうから、ひとつひとつテーマを決めて。でも尺がないから、ひとつテーマを決めたら、それ以外はやるなとか(笑)。

 

--そのあたりで、各回の監督さんとのやり取りはスムーズに進んだんですか?

 

冲方 何度会ってもそのたびに言うこと変わる人と(笑)、1回も会わなかったのに、なぜか全て通じている人と、もう千差万別だったんですけど、ただ各監督から出てきたテーマとはどれも新しいもので、「SFでそれをやるのか?」っていうものばかりで、そういう意味でも勉強になりました。たとえば「border:1」(むらた雅彦監督)だと「サスペンスがやりたい」って言われまして、「NARUTO -ナルト-」とか作ってる人なのに、なんかやりたかったみたいで。サスペンスって、「孤立した状況で情報が遮断されることで生まれる緊張感」が重要なわけですが、「電脳戦の達人がどうやったら孤立するんだろう?」っていろいろ悩んだりしまして(笑)。ただ、その結果、「疑似記憶」というものの扱い方が決まったりして。悩むと副産物がいっぱい出てきてくれるいいコンテンツだなと(笑)。

 

--そうすると、最初からすべて冲方さんのほうで大筋を書かれていたという感じでもないんですね。

 

冲方 最初は、わーっと書いてくれればいいよって言われてたんですけど、ふたを開けてみたら、全くそんな状況じゃないじゃないことがわかったので、おひとりおひとりリスニングをして意見をまとめて、最後は、脚本上、器の中に全部収めるという作業でしたね。調整役みたいなところもちょっとあったのかなあと。

 

 

--単なる脚本・シリーズ構成という役割でもなかったと。現場の声を吸い上げてまとめていくというディレクター的な働きもなされていたわけですね。

 

冲方 元々矛盾したものをまとめるのは割と得意なほうなので(笑)。「しょうがない、やるか」という感じでやりましたね。

 

--そう言われて妙に納得してしまったんですが、「border:1」から「border:4」に至る4部作を見ていると、明らかに「border:3」(黄瀬和哉監督)ってラブストーリーですよね。

 

冲方 あれはもう完全にオーダーです。黄瀬さんが「ラブストーリーがやりたい」って言って、演出の方がポカーンとした顔になったという(笑)。結果的には、人魚と義体をかけてみたりとか、老人達の第二の人生であったりとか、義体と電脳の恋愛ってどんなものだろうとか、いろんなテーマが派生して楽しかったです。

 

--そういう意味で、4作ぞれぞれのバリエーションがすごかったですよね。全体として話が進んでいくのかいかないのか、みたいな。普通は、もう少し前後のつながりが感じられるように思うのですが、途中で「あれ?」と思うような部分もありましたが(笑)。

 

冲方 (笑)。でもそうしないと、前回の監督と、次回の監督が打ち合わせをして、こことここがちゃんとつながってるから、こういう風にしてくださいっていうことをやらなくちゃいけないですし。各監督は次の話のことなんて何も考えてないですから(笑)。

 

--変なわだかまりを残さないようにと(笑)。

 

冲方 そうそう。「受け取れないでしょ、これ」みたいなことがないように(笑)。「うっかりこの都市を崩壊させました」とか、そういうことがないようにしようねと。

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