あの話はこうやって作られていた! 脚本・冲方丁が語る、「攻殻機動隊ARISE/新劇場版」制作秘話

2017年12月20日 12:130

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「なるほど、これが攻殻かー」と。神山さんが言ってたのはこれか!っていう(笑)

 

--そんなバリエーション豊かな各回を通じて、シリーズ構成としての冲方さんの役割というか、通奏低音的に流れていたものはもちろんあったわけですよね?

 

冲方 まあ、SFの醍醐味のひとつは「未知の何か」であり、「未知の脅威の向こう側にある何かの可能性」であったりするわけです。攻殻機動隊シリーズでも、割と通奏低音的に流れているものですけれども、「攻殻機動隊ARISE」では「ファイア・スターター」という未知の見えない存在を出しました。なおかつ「疑似記憶」というものが、どうやら「人の世界」と「モノの世界」に対して、「データの世界」という第三の世界として生まれつつあるんじゃないかと。それまで人間は、「人とモノ」という区別しかしてなかったわけですが、そこにデータの世界というものが生まれたときに、そこから勝手に何かが生まれてくるんじゃないのか。そういう可能性も今後あるんじゃないかというテーマを入れ込んでいます。「攻殻機動隊」ってサイバーパンクの世界観もあるので、サイバーパンクの世界観はそこです。

 

そして、サイボーグアクションのテーマですが、人体が機械に置き換えられていくことが普通になっている世界で、まず戦争がありました。そこで兵隊が機械に置き換わっていきました。そしてその戦争が終わりました。そうすると、その兵隊だった機械はいらなくなる。いらなくなるとどうなるかっていうと、バージョンアップされなくなる。いろんな意味でいらなくなってしまう人達が生まれてくるわけです。そのいっぽうで、技術の発達を享受する富裕層達。その格差が恐ろしく激しくなってくるだろうなあということで、「サイボーグにおける二極化」というのを入れました。

 

もうひとつ、「攻殻機動隊」にはディテクティブ(推理)ものという側面もありますので、こっちのテーマも用意しなくちゃいけないわけで(笑)。まずファイア・スターターは一体誰が作ったのかという謎解きですし、一体なぜファイア・スターターを手に入れなくてはいけなかったのかという謎解きにもつながってきます。その答えは、先ほど言ったほかのテーマともからんでくるわけで、というつなぎ方をすれば、なんとかつながってくるだろうと(笑)。

 

--なるほど。そのあたりの構想自体は最初からあったということですね。

 

冲方 それはありました。いつも、どこかで壊れるんじゃないかとハラハラしてましたが(笑)。毎回綱渡りでした。

 

 

--そして、「攻殻機動隊ARISE」4部作から、「攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT」の2話分が挟まって「攻殻機動隊 新劇場版」へとつながっていくわけですが、これは初めからこのような構想だったのでしょうか。

 

冲方 大まかな構想はありました。最初は「border:1」から「border:6」の6部構成だったんですが、途中から劇場版を入れようということになり、そうすると劇場版まで少し間が空くから、テレビ版も作ろうと。「最初から言えよ」って話ですよね(笑)。

 

--途中からだいぶ変わってますね(笑)・

 

冲方 どれほどの綱渡りだったか想像していただきたいんですが(笑)。最初6話って言ってたのに、4話+デカい何かになり、さらにプラスアルファの前後編になり、「なるほど、これが攻殻かー」と(笑)。昔からそうだったらしいんですけど、いつも突然決まるっていう。「S.A.C.」の時も相当大変だったと、神山さんが言ってたのはこれか!っていう(笑)。

 

--なるほど。でも、そういう感じはありますよね、昔から(笑)。

 

冲方 そこでどうしよう、どうにかしようってなった結果、意外に面白いものができるっていう変な伝統がありますね(笑)。

 

--「ARISE」に関しても、結果としてはそうなったという。

 

冲方 輪をかけて大変でしたけど(笑)。

 

--その話を聞いて、いろいろ腑に落ちました。実は、「border:1」から「border:4」まで見たときに、テーマ自体は、ファイア・スターターとか出てきて、「あ、これだな」と思ったんですが、なんか完結しないなと。特に「border:3」とか「border:4」あたりはそうです。でも、その後、「新劇場版」を観に行ったら、最初からものすごい勢いでストーリーが展開していったので、ここまでストーリーがきれいに進んだ「攻殻」ってなかなかないなと思ってたんです。

 

冲方 ははは(笑)。「新劇場版」はテーマはすごくシンプルにして、事態は複雑、キャラクターは感情移入しやすくっていう、あのやり方が非常にはまったなあと。で、監督のオーダーが「青春が書きたい」っていう(笑)。

 

--確かに、ちょっとメルヘンチックな部分もありましたね(笑)。

 

冲方 青春か、じゃあ最後は桜出すか、とか(笑)。原作の冒頭、ちょうど桜が咲いてるんで、「あ、あれは卒業式だったんだ」ていう(笑)。

 

--確かに、妙に爽やかでした。

 

冲方 監督の人柄も出ますよね。「新劇場版」の野村和也監督に、ドロドロしたものを書けと言っても、そうならないくらい根が真面目な人なので。もどかしい自分たちを一歩超えて、自分たちの世界を獲得するんだ。そんなことが「攻殻」でできるのかってヒヤヒヤしましたけど、シンプルな分、わかりやすいものになりましたね。

 

--変な話ですけど、わかりやすくてよかったなっていう。

 

冲方 義体がいっぱいあって、中身がどんどん変わる、というのを、ネタとしてはやらざるを得まいと思っていたんですけど、お客さんが大混乱に陥ったらどうしようというのもあって。でもそれもすんなりいったので、監督頑張ったねえ、という話ですね。



「攻殻機動隊」史上最大級に人物をわかりやすくしました(笑)

 

--冲方さんから見て、この一連のシリーズが終わったときの感想などありましたら、お聞かせください。

 

冲方 えーっと、もう疲れました(笑)。いやー、こんなオーダーもうないだろう、っていうくらい大変なオーダーでしたね。最初から大変なオーダーなのに、どんどん大変になっていくという。これは1回経験したおかげで修行になりましたね。あと、やっぱり「攻殻機動隊」の世界はとても緻密にできあがっているので、作ってみて改めて学んだこともありますね。こういう場合はこうすればいいんだ、っていう糧をだいぶ得ましたので、お金もらって勉強しちゃった、っていう。

 

--たとえば、どんなことを学ばれましたか?

 

冲方 やっぱり「攻殻機動隊」は、サイバーパンク、サイボーグアクション、ディテクティブもの、そして「戦後SF」という、4つの要素を何で組み合わせたんだっていう、ちょっと小一時間問いただしたいくらいの無茶な要素を詰め込んでるんですよ。しかも原作漫画では、それを毎回毎回8~16ページくらいの短い中で書くという、これまた無茶なことをやっているわけじゃないですか。しかし、その成果たるやすごいなと。この「ハイブリッド技法」を支えるために何が必要なのか。もちろん膨大な知識が必要ですが、これは将来自分でもオリジナルでやるぞ、この構造を踏襲するぞ、という気持ちは今強いですね。

--さまざまな要素が複雑に混じり合った、しっかりした世界観ということなんでしょうか?

 

冲方 定型化したセオリーがあったとしても、それをこれだけ1か所に詰め込むと、新しいものになるんだなって(笑)。全く毛色の違うものになるということに、改めて感心しましたね。それが膨大の知識の裏付けによって「予言の書」のようになっている。1980年代の末に、ネットがこれだけ広まるということをリアリティを持って書いているのがやっぱりすごいと思いましたね。

 

--最後に、「攻殻機動隊ARISE」「攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT」「攻殻機動隊 新劇場版」という、今回Blu-ray BOX化される一連のシリーズにおいて、冲方さん的に、ここが見どころだという部分があれば、お聞かせください。

 

冲方 「攻殻機動隊」史上最大級に人物をわかりやすくしました(笑)。とにかく感情移入しやすく、わかりやすく、等身大の身近なものにしました。その結果、ストーリーも世界観もまた違う見え方ができたのと、今後の「攻殻」作品ないしはSF作品を作る際の、ひとつの橋渡しになれたのがすごくうれしいので、ぜひこの「ARISE」シリーズから入っていただいたら、より高度な初代「GHOST IN THE SHELL」や、さらに複雑怪奇な「S.A.C.」、さらに向こう側に行ってしまっている「イノセンス」とか(笑)に、ぜひ入っていってもらって、最終的には、いかに原作がいかにすごかったかということを、今の人達にもわかっていただきたいです。

 

--一番わかりやすい「攻殻」作品ということですね。

 

冲方 を心がけました。ここで最難解な作品を作ると、新しいお客さんが全く付いて来られなくなりますので(笑)。いわゆるアニメファン、映画ファンだけじゃなく、デートコースで悩んでいるような方達にも楽しんでいただけるような作品にしようと思って作りましたので。「border:1」の、男の子かと思うような素子が、「border:3」では突然ドレス着たりして、そして「新劇場版」のラストでは突然前髪が入るという(笑)、素子の変遷にも注目していただきたいです。1回ハマると、だいぶ長く楽しめますよ。

 



■「攻殻機動隊ARISE/新劇場版 Blu-ray BOX」 商品概要

・2017年12月22日発売

・20,000円(税別)

・特典:特製ブックレット(20P)

・映像特典:3DCGショートアニメ「ロジコマ・ビート」「ロジコマ・コート」「ロジコマ・ハート」「ロジコマ・ルート」「ロジコマ・ノート」、「株式会社きゅーか」、「新劇場版 映像特典」(特報1、特報2、劇場予告編、プロモーション映像、TV-CM)

・音声特典:新劇場版オーディオコメンタリー

・収録話数:「攻殻機動隊ARISE」(border:1~4)、「攻殻機動隊ARISE PYROPHORIC CULT」、「攻殻機動隊 新劇場版」

※特典・仕様等は予告なく変更する場合があります。

 





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