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作品における音楽の役割とFlashアニメーションの有用性
── 本作で重要な役割を担う音楽は、どのような方針で作りましたか? 湯浅 「クレヨンしんちゃん」でご一緒した本郷みつる監督の、「映画は音楽とシンクロすると豪華になるよね」という格言をそのまま使わせてもらっています(笑)。日無町という閉鎖的な町に入ってくる陽気なものとして、音楽と一緒にルーがやってくるといいなと思いました。僕はライブなどに行くと体を動かすほうなので、周りの人が座っているとやりづらいんですよね。だから「踊らなそうな日無町の面々にも踊ってほしい」という気持ちもあって、不釣り合いなテンション高めの音楽をお願いしました。
── シンセサイザーやバンドサウンド、管楽など楽器も幅広く使われています。 湯浅 劇中でキャラクターが演奏する音楽はけっこう新しい形式の音楽なので、劇伴のほうはオーソドックスに、アニメーションの動きに合うようなサウンドをオーケストラで作っていただきました。動きと音が合うのはアニメの醍醐味だと思うので、いいシーンが作れましたね。
── 主題歌に「歌うたいのバラッド」を選んだのにはどんな理由がありますか? 湯浅 制作が七割くらい進んで、「ラストシーンはカイが歌うんだよな?」と考え始めた頃に「歌うたいのバラッド」を思いつきました。それまでいろいろ曲を選考していて、もちろん「歌うたいのバラッド」も知ってはいたのですが、気がついたらストーリー構成とこの歌が偶然、合致していて。最後の最後にやっと言うフレーズが「愛してる」というのもピッタリです。ラストシーンでカイが歌うのは、この曲しかないなと思いました。
── ルーが操る水が立法体でデザインされています。水の表現はどんなアイデアから生まれたものなのでしょうか? 湯浅 水は形がないものですから、逆に実際にはありえない形状にすると不思議な感じが出るんじゃないかと思って立法体にしました。また、水の揺らぎのように絵を滑らかに動かすのはFlashが得意とするところです。水中のたゆたいで物のフォルムやサイズが変わるような場面でも、型を安定させて動きを付けられます。簡単というわけではないでしょうが(笑)。
── 本作のスタジオであるサイエンスSARUはFlashでアニメーション制作を行っているそうですね。その特徴を教えていただけますか? 湯浅 Flashを使う制作会社はたくさんありますが、いわゆる作画アニメのように動かしているスタジオはあまりありません。そういった意味では、サイエンスSARUはFlashといってもかなり独特な使い方をしています。噛み砕いて言うと、絵を部品にわけて変化させながら組み合わせて自然な動きに見せていく、というところでしょうか。シンプルな動きであれば誰でもFlashで作れると思いますが、日本のアニメは細かい日常芝居などをやりますから、そのあたりは勘と経験が必要になります。この扱いに長けたFlashアニメーターが2人いて、本作は彼らがチーフになって若い人たちを育てながら作っていきました。
── 今後もFlashアニメーターを増やしていく予定はありますか? 湯浅 必要であれば、という感じですね。Flashは働きやすくアニメを制作するひとつの手法として考えていますし、クオリティ的にもいい作品が作れるツールだと思います。
── では最後に、湯浅監督が好きなシーンを教えてください。 湯浅 お父さんがカイに力強くアドバイスするシーンも好きだし、カイのおじいさんの母親に関するエピソードも好きです。最後にカイが取る行動も僕は見ていて大好きで、そのラストシーンが効いてくるように全体を構成しています。プレビューを見始めるとしばらく見続けちゃうんですよね(笑)。僕としても、好きなシーンが言い切れないほどたくさんある作品です。
(取材/奥村ひとみ・構成/日詰明嘉、奥村ひとみ)
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