ホビー業界インサイド第9回:フィギュア教室を開催して学んだ、本当に楽しい造形とは? フィギュア原型師 大西孝治、インタビュー!

2016年03月19日 11:000

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道具を選ぶのではなく、道具に自分を合わせていく


──ちょっと造形のハウツー的なことを聞きたいのですが、大西さんが使っている素材は、ファンドだけなんですか?

 

大西 最初に勤めたメーカーが、商品原型をファンドで造っていましたから。今はニューファンド(アートクレイ株式会社の石粉粘土。以下、ファンド)を使ってます。確かに、ファンドは手に付いたり、ヘラで造形していると乾いてきてしまったり、表面がケバだったりもします。だけど、「ファンドとは、そういうもんだ」と思っているので、欠点とは思えないんです。

 

──ファンドで造形しても、「表面は、パテでなめらかに仕上げないとダメだ」と考えてしまいがちなのですが……。

 

大西 ファンドで作りはじめたら、ファンドのみで完結させたほうがいいですよ。複合素材で作ると、それぞれの硬度が違うので、同じ力で磨いても平坦にはなりません。僕は表面の凸凹も、ファンドで修正します。最後に溶きパテを塗り、耐水ペーパーでケバだちをおさえて、サフェーサーを吹いて仕上げています。たまたま、僕の場合はファンドでイメージどおりに造形できているので、他の素材を探す必要がなかったんでしょうね。他の素材は試したことがないので、良いのか悪いのかも分かりません。

僕は、ファンドで造形して「ちょっと違うな」と思ったら、修正するのではなく途中で手放して、ゼロから造り直します。だけど、形になっているものは捨てられないので、駄作やボツがどんどん溜まってしまう。普通、自分で「これは失敗だな」と思ったら抹殺してしまうんでしょうけど……。

 

──道具は、どんなものを使っているんですか?

 

大西 パジコ(粘土メーカー)の出しているヘラ、ほぼ1本です。18歳でメーカーに入社したころ、社員原型師さんが使っていたヘラを「貸してください」とお願いして、借りたんです。商売道具なのに(笑)。そのヘラが使いやすく加工してあったので、「もらっていいですか?」と聞いてみたら、半ギレ状態で「いいよ、あげるよ!」と言ってもらえて。若気のいたりとはいえ、無礼なヤツで猛省しております。だけど、ずっと使っていたら折れてしまったので、市販のヘラを同じように使いやすい形状に加工して使っています。

だから、いろいろな道具の中から自分に合ったものを見つけたのではなく、たまたま出会った道具や素材に、自分を合わせて使い込んでいる感じです。根が、面倒くさがり屋なので。

だけど、誰でもそうなんじゃないですか? いろんな職業を経験した後に、自分に合った職業を選んだ人なんて、少ないと思いますよ。ついた仕事を極める、こうと決めた道を突き進むのが、普通じゃないですか? 僕だって、もし大学に受かっていたら、フィギュア原型師の道には進んでないでしょうし、今では他の仕事につくなんて考えられません。



フィギュア教室の生徒は女性が大半、動機は「キャラ愛」


──フィギュア教室をひらいた経緯を教えていただけますか?

 

大西 ワンダーフェスティバル(ガレージキットの展示・販売イベント)に来るような、ある程度までフィギュアを作れる人には、以前から会場で質問に答えたりしていました。また、「モデラー道場」や「プロ原型師育成講座」など、ネット上でもアドバイスしていましたが、実際に顔をあわせるビギナーを対象としたフィギュア教室は、今回が初です。しかし、まったくフィギュアを作ったことのない人に、作り方を教えることができるんだろうか? そもそも需要があるのかどうかわからない。それで、2014年末に、テスト的に開催してみました。

そのとき、初めて針金で人の形をつくって、その上にファンドを盛りつける方法を教えたんです。すると皆さん、まず針金で人の形を作れない。「これくらいは出来るかな」と思ったんですけど、フィギュア制作未経験の方には難しいことなのか……と気づかされまして、カリキュラムを考えなおしました。2015年1月から本格的にスタートして、1年ほど続けてきました。

 

──どういう人たちが習いに来ているんですか?

 

大西 ほとんどが女性です。フィギュア趣味は男性が大半だと思っていたので、想定外でした。理由を知りたかったので、「なぜ習いに来たんですか?」と聞いてみました。すると、「自分のお気に入りのキャラが商品として売っていないから、自分でフィギュアを作りたい」。純粋な、キャラ愛なんです。講座を始めて1年たちましたが、面白いことに生徒さんの作るキャラクターは、ひとつも被っていません。好みも、多種多様ってことですね。

 

──そういう方たちは、最終的にはキットにして、イベントで販売したいんでしょうか?

 

大西 いえ、そういった動機ではないんです。自分の頭の中に漠然とあるキャラのイメージを形にしたい、手で触れる状態にしたい……。そういう、まっすぐな気持ちで来られるようです。

最初は、「今日は、顔の作り方です」「次に、手の作り方をマスターしましょう」と、段階をふんだカリキュラムを組んでいました。「人間の体は、こういう形になっていますよ」とわかるような、お手本になるような素体も作ってはみたんですけど、そんな必要はなかったようです。だって、「胸板がこうなっていて、肋骨はこう出っ張っていて」と説明しても、それはキャラクターの魅力とは関係ないじゃないですか。僕らはプロだから、デッサンを正確にして、人体として破綻のないように造形します。だけど、生徒さんはプロになろうとか、人に評価される作品を作るためにフィギュアを習いに来ているわけではないんです。

 

──では、今はどういう教え方をしているんですか?

 

大西 「今週は髪の毛の造形をマスターしましょう」と講座を進めても「今日は顔を手直ししたい気分だな」と生徒さんが思ったら、内職が始まってしまう。それじゃあ、学校のつまらない授業と同じになっちゃう(笑)。お金を払ってまで、やりたくないことはしたくないですもんね。

だからまず、「今日は、どこを作りたいですか?」と希望を聞きます。「髪の毛を作りたい」のであれば、その生徒さんには制作のヒントとなるプリントを配ります。もちろん、プロなりに「こう造形するのがベスト」という正解はあるんですけど、そんな堅苦しいことは、生徒さんには関係ないんですよ。どういう感じに作りたいのかイメージを聞いて、その人の技術力で到達可能な作業工程を示したり、お手本をその場で作ったり、希望にそった形に作れるように個別に教える――今は、そんな感じで進めています。「一番好きなキャラは、もっと上手くなってから作りたい。だから、今はナンバー2のお気に入りキャラを作る」なんて方もいらっしゃいます。

 

──キャラ愛で作る人たちは、純粋なんですね。

 

大西 ええ、僕も教えていて、すごく楽しいです。皆さん、本当に楽しそうに作っていて、表情が生き生きしてますよ。生徒さんが造形しているときの、笑顔の写真を撮りたいぐらい。僕もアマチュアのころは好き勝手に作っていたし、造形に正解なんてないんだ、自由な趣味なんだって気づかされますね。



(取材・文/廣田恵介)

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