ヘビーなゲームファンも注目!? 身体障害者向けデバイス「Xbox アダプティブ コントローラー」の意外な活用法とは【極めよ、Xbox道!第4回】

2020年03月01日 12:000

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前回の本コラムを読まれた医療関係者(作業療法士)の方からかなり反響があり、「Xboxの話を聞かせてほしい」との打診がいくつか飛び込んできました。まさにKinectさまさまですねぇ。日本国内でもKinectを利用したリハビリテーションに取り組もうとする志の高い人たちががんばってくれることで、今後導入を検討してもらえたらXboxユーザーとしても嬉しいですし。

と勝手に熱望してしまうのも、筆者自身が交通事故の後遺障害で右半身に現在もしびれや痛みなど麻痺が時おり発生し、さらに右足を切断したためリハビリテーション施設に数か月入院していた経験もあり、作業療法で何を行うかの実態を肌で感じていたことから、新しい取り組みへチャレンジする人たちがいるのであれば、わずかばかりでもバックアップしたいわけなんですよ。しかし、社団法人日本作業療法士協会なる組織が柔軟な考えを持たないと、Kinectを日本の医療現場へ導入することは難しいようです。
実際、日本国内の作業療法では、デジタル系ゲームがリハビリテーションで扱われることはわずか。iPadは導入されていても、大半は脳と指のリハビリテーションになる麻雀など実際に卓を囲んでのテーブルゲームか、カラダを動かす場合でも卓球などのオーソドックスかつ、既存の訓練が中心。
もともと作業療法士は国家資格が必要となるので国がからんでいるとなるとやや面倒ではありますが、マイクロソフトが医療現場向けに、Kinectを使ったゲーム的なソフトウェアをアソートで詰めたものでも開発してくれれば説得材料になって口説きやすいんだけどねぇ……。現状はもちろん今後も、マイクロソフトはKinectに関し、率先して展開する気はないそうなので難しそうですが。


任天堂も危機感を抱いた?Kinectの存在

さて前回のコラムでは、ソニー、マイクロソフトのモーション技術が日進月歩で進化したことについて触れましたが、任天堂に関してほぼ触れなかったことで「任天堂のことは無視か?」みたいなご意見もいくつかいただきましたので、今回はそちらにも少しばかり触れようかと。別に無視してもいいんですけど(Xbox推しのコラムなので)一応筆者自身コラムニスト兼ジャーナリストな肩書きがありますので、こじらせ系ゲームマニアな方々に納得してもらうべく諸々書いていくことにします。

マイクロソフトが2009年6月のE3プレスカンファレンスにてKinectを発表した後(当時の開発名はProject Natal)、任天堂はマイクロソフトの直後に行なったプレスカンファレンスにて”Wii バイタリティー・センサー”を発表。任天堂はすでにWiiでコントローラーを使ったモーション技術面において他社を大きくリードしており、「コントローラーを使わず、メニュー画面からインターフェイスの操作だけではなくゲームもプレイが可能」というProject Natal(のちのKinect)に話題を持っていかれないように発表した(これは個人的憶測)、人差し指を差し込んで脈拍などの生体情報を読み取る機能追加周辺機器に、我々は驚きと同時に期待も抱かされました。ただ、米国マイクロソフトの方にこの任天堂の戦略についてうかがうと、
「バイタリティー・センサーはマイクロソフトにはない発想ではあるけども、SD画質のWiiはこれから市場が縮小していくはずだし(のちにWii Uに変わったが)、市場展開しようとする時期が未定なのでライバルにはならないと思う」
と、結構ドライなとらえ方をしていたようです。

さらに「Project Natalは、映画『マイノリティ・リポート』の劇中で表現されていた手法から影響も多々受けて開発したので、エレクトロニック・アーツとの契約が満了したスティーブン・スピルバーグ監督を起用し、専用ゲームソフトの開発も視野に入れ進めている」……とは言っていたものの、Wii バイタリティー・センサーは発売されないわ(株主総会で当時の岩田聡社長は「商品として受け入れていただくには不十分な仕上がりだったため、ペンディング」と公式に発言している)、スピルバーグ監督はKinect用ゲームを作らなかったわで(ミリタリー系FPSの企画を提案するも、はたしてKinectで作る必要があるゲームになるのかとのことで物別れしている)、結局どれもこれも頓挫。

 

まぁ、任天堂はNINTENDO 64で耳たぶに装着して心拍数と連動できる「バイオセンサー」なる大失敗な周辺機器も出していたし(セタが発売した「テトリス64」しか対応ソフトがない!)、結果的に発売していたとしても医療関係方面にしか喜んで使ってくれるところはなかったのではないでしょうか。

心拍数で思い出しましたが、コナミがリリースしたアーケードゲーム「ときめきメモリアル~おしえてYourHeart~」のコントロールパネルにセットされていた「ときめきセンサー」は、ピンク色のマウス型デバイスへ指を挿入して発汗と心拍数を測定することでゲームの展開が変わるシステム……だったかな。そんな時代を先取りしたゲームもあったっけ。途中で恥ずかしくなって1回しかゲームセンターでプレイしたことはありませんが、ときめきセンサーに不具合が多発したおかげで、設置してあるお店が本当に少なかった記憶が。


身体障害者にもゲームを楽しんでもらうために

ちょっと横道へそれましたが、今回の主題は「Xbox アダプティブ コントローラー」なる周辺機器です。


日本ではあまり聞きなれない「アダプティブ」なる単語ですが、英語圏では近年、「ディスエイブルド」に代わり、障害者を意味する言葉として広く使われるようになっている単語です。アダプティブの意味が「適応する」、ディスエイブルドの意味が「機能しない」、ハンディキャップの意味が「不利な条件(競技面では実力差を公平にする)」なんですが、とりわけハンディキャップは英語圏においてスラング扱いされることもあるほか、障害者本人が自分自身を説明する際に使うには問題ないものの、第三者が「彼はハンディキャップなんだ」みたいに使うのは差別的であると考えられるようになり、一般的に使われる言葉ではなくなったのです。
そのほか、ホームレスが物乞いする際に帽子を裏側にして「お金を恵んでください」と哀願する社会的弱者の表現にも受け取れることから、人権団体が障害者に対してこの言葉を使うのは不適切だろうと提案したこともあり、今では使われなくなったそうです。


さて、このXbox アダプティブ コントローラー、「障害者への適応可能なコントローラー」という意味からもわかる通り、操作面を自在にカスタマイズすることが可能なデバイスなのです。マイクロソフトが公開している資料によると、2014年にKinectとXbox ワイヤレスコントローラーの技術を用いて、これら2つを組み合わせた技術をコパイロット機能(副操縦するという意味)として改良したデバイスの開発を始めたそうです。簡単にコパイロット機能を説明すると、左手のコントローラーで移動、右のコントローラーで射撃するみたいな、すでに任天堂がWiiで実装していた、操作形態をセパレートする機能と考えてもらえばわかりやすいかなと。
それをマイクロソフトの各種エンジニアたちが、身体機能障害の方にもXbox Oneを楽しんでもらうべく、福祉系障害者団体や退役軍人など実際の身体障害者の方々から提供された多くのフィードバックをもとに、Xbox アダプティブ コントローラーの機能面やデザイン面を仕上げていったそうです。

主に手が使えない人向けに開発がスタートした本製品ですが「さまざまな条件の身体的特徴の人たちにXbox Oneを楽しんでもらいたい」をコンセプトに、マイクロソフト側の思想でプロジェクトが進められたのは大変素晴らしいと思います。物理コントローラーを必要とするのでKinectで培った技術とはアプローチが異なりますが、娯楽を味わえなく絶望している障害者へビデオゲームを通して楽しんでもらい希望を与える……そんな構想から必要に応じた入力環境を整えることができるわけで、両腕が使えない人でも息を吹きかけて操作もできれば、足だけで操作もできたりと、さまざまな操作方法にカスタマイズが可能に。多くの身体機能障害者の絶望を、希望に変えてくれる周辺機器なのは間違いないでしょう。

容易にカスタマイズ可能なXbox アダプティブ コントローラー

福祉向け入力機器は以前から存在しており、障害者の身体に合わせたコントローラーを製作してくれる会社も存在しています。しかし、Xbox アダプティブ コントローラーほど容易にカスタマイズはできなかったし、一点モノで製作しなければいけないため、とても高価でもありました。
しかし、日本と違い、アメリカはどこかしら身体に問題を抱えている退役軍人が多く、戦傷者支援団体以外に障害者ゲーマー支援団体にも属している人もいるように、彼らも娯楽を欲しているんですね。国のために中東で戦争地帯へ行って負傷し、障害者になって帰国。その後PTSDになり職にも就けず自殺してしまう退役軍人も、ものすごく多いそうです。これはアメリカがベトナム戦争時代から抱えている、巨大な社会の暗部なのですが、米軍と協力関係にあるマイクロソフトだからこそ、退役軍人たちの心の闇ぐらいならばビデオゲームで払拭できるのではないか、との試みには激しく共感をおぼえます。

 

Xboxの「Halo」シリーズのオンラインマルチ対戦で知り合ったテキサス在住のフレンドがいるんですけども、彼はまだ25歳ながら中東でしかけられた爆弾により左足膝下と右腕肘下を欠損し、車椅子や義足で生活している退役軍人だそうです。全米には20以上の退役軍人施設があり、彼もまたそこで働いているそうですが、すべての退役軍人施設がマイクロソフトからXbox OneとXbox アダプティブ コントローラーを、何十台もセットで無料提供してもらったそうです。彼もその施設でゲームを楽しむ、いちゲームファンであり、ちょうどそこでオンラインマルチプレイをしている中で私と知り合いました。
施設は人体部位欠損して車椅子生活している20代の若者だらけで、彼自身も爆弾で吹っ飛ばされた時は死んだと思ったそうです。次に目覚めた時には、すでにアメリカへ帰国し軍の病院に入院していたそうですが、片腕片足を失いこれからの人生に絶望したまま2年間ほどPTSDの症状があったと。そんな矢先、退役軍人施設で働かせてもらえることになり、同時期にマイクロソフトから「退役軍人で身体に障害を抱えている人向けにモニターになってもらうべく、Xbox Oneと新型コントローラーを施設へご提供します」との通知が来たと。それをきっかけに、腕と足を欠損して以降遠ざかっていたゲームを、健常者時代を思い出すように遊ぶことができるようになったとのこと。

※イメージ画像です

その退役軍人の彼にどのようなスタイルで「Halo」をプレイしているかうかがうと、左腕はそのまま残っているのでXbox ワイヤレスコントローラーを左手でホールドし、左アナログスティックで移動は可能。と同時にデジタルパッドを左の親指で操作することも問題なし。左人差し指と中指で上部のトリガーボタンを押すことが可能。右腕は肘までしかないのでXbox アダプティブ コントローラーを介して大きなアナログ用スティックを肘先で操作し、ライフルの照準を合わせる。
左足は欠損して失われていますが、右足はキレイに残っているので、右足裏でXbox アダプティブ コントローラーに備え付けの巨大なボタンを踏んでショットにカスタマイズしているそうな。
このように、身体の障害個所によって必要なカスタマイズができるXbox アダプティブ コントローラーの存在に、アメリカの医療業界や福祉業界も大変注目しているとか。

Xbox アダプティブ コントローラー全世界で大ヒットしている理由

日本でも満を持して2020年1月に、日本マイクロソフトのホームページから数量限定でXbox アダプティブ コントローラーが発売されましたが、瞬殺。ワタクシも買うことができず……。海外でも品薄が続いており、現在世界的に入手困難になっている模様。
障害者は世界に約10億人存在していると言われており、日本には1%──つまり約1000万人近い障害者がいるんですね。その全員がゲーマーと言うわけではないこともあり、そこまで売れるデバイスじゃないということで大量生産していないのでしょう。ただ、実はこのXbox アダプティブ コントローラーは、障害者以外にも爆発的な人気を集めているのです。その理由は、Windows上でも使えることで、Xbox OneのゲームだけではなくPCゲームにも使えるから。しかしどうしてそうなったのでしょうか?
 
Xbox アダプティブ コントローラーはこの製品単体だけでは意味がなく、これへ接続するさまざまな周辺機器(マイクロソフトだけじゃなくLogitechなども発売している)を必要とするんです。つまりXbox アダプティブ コントローラーは、ゲームとデバイスをつなぐハブ的存在なわけなんですね。このXbox アダプティブ コントローラーを介することで、足でも操作を可能にすることをはじめ、自由なカスタマイズができると。そのおかげでPCゲーマーたちは、プレイを有利に運ぶ裏ワザを編み出したりしていますし、「TITAN ONE」なるUSBコンバーターを買って導入することでXbox 360、PS3、PS4、Nintendo SwitchなどでもXbox アダプティブ コントローラーを使えるようにしてしまっているのです。

TITAN ONE


さすがのマイクロソフトもこのような使い方をされるとは予想していなかったようですが、Xbox One以外のほかのゲーム機でも使える方法が知れ渡ったってからは、ずっと品薄が続いています。
特に海外のシューティングゲーマー間では、TITAN ONEとXbox アダプティブ コントローラーの組み合わせは最強と言われていて、TITAN ONEを使うと家庭用ゲーム機でマウス操作ができたりすることから、かなり評判となっています。
ここまでできてしまうと、障害者じゃなくても欲しくなってしまうのがゲーマーの性。周辺機器マニアなワタクシもXbox アダプティブ コントローラーがどうしても欲しいんですけど、日本国内では数量限定ってことはもう販売されないってことなんでしょうか? 日本マイクロソフトさーん! 再販お願いしますよー!



(文/ジャンクハンター吉田)

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