軍事、医療機関、映画業界……ジャンクハンター吉田が語る、意外な現場で大活躍のXbox!【極めよ、Xbox道!第3回】

2020年01月26日 18:000

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今回は少々Xboxに対してマジメなお話を。“炎上大好きネット放火魔”とゲームマニアの方々に呼ばれ、ヒール道を突き進んでいるワタクシですが、マジメな話をするとそんなパブリックイメージが壊れてしまうおそれもあるんです……けども、日本ではあまり知られていない米国でのXboxを取り巻く環境の諸々を、少しでも正しく伝えるのが我々マスメディアの使命でもあります(一応大義名分)。

米軍で大活躍! のXbox360コントローラー

米国内のみではありますが、マイクロソフトがXboxをゲームだけではなくソーシャルなツールとして幅広く展開するようになったのは「Xbox360」の爆発的ヒットによりますが、ここに目を付けたのが米軍でした。2008年、SIEの「PlayStation3」に搭載されているCPUセルを用いるべく、研究目的で米国空軍が導入すると政府が発表した際(最終的に2000台ほど購入)、負けられないと思った(かどうかは知りませんが)マイクロソフト陣営が米国政府へ営業をしかけました。もともと米軍はマイクロソフトが提供しているマイクロプロセッサーを軍用技術へ導入しており、それがもとになって、のちのち無人機やドローン技術などにも発展していきました。この事実からも、同社は実はソニーよりも米軍に太いパイプラインがあったと言われています。

 

以前、横須賀基地勤務の米国軍人の知り合いにうかがった話で一番驚かされたのが、Xbox 360のコントローラーはPCとも相性がよく汎用性が高いこともあり、陸軍と空軍でとても重宝しているというエピソードです。最初は無人探査機の操作用に導入されたそうで、コントローラーを分解して探査機用にカスタマイズしたものもあれば、Xbox 360の白いコントローラーそのまんまでドローンを操作していたりと、米軍はあの無線コントローラーに大変魅力を感じていたそうです。

その理由のひとつに、米軍の兵士育成でXbox 360のFPSゲームがシミュレーターとして使用されていたことがあります。つまり、兵士たちはもともとXbox360のコントローラーになじんでいたわけで、無人機の操作用にあえて新たに操縦用プロポなんぞ作る必要はないのではとの考えがあったとのこと。

最初は冗談を言ってからかわれているのかと思っていたのですが、その後、アンドリュー・ニコル監督の「ドローン・オブ・ウォー」など、ミリタリー系ハリウッド映画にXbox 360コントローラーが登場するシーンがたびたびあったので、どうやら事実のようだと判明しました。

 

「ドローン・オブ・ウォー」(原題: Good Kill)

 

空だけではなく陸でもXbox 360のコントローラーは大活躍。危険地域である内戦下の中東シリアでの地上探査では、ジョン・バダム監督の映画「ショート・サーキット」に登場したロボット「ナンバー・ファイブ」のようなキャタピラーを付けた無人探査機を、小型モニターを装着したカスタムモデルのXbox 360無線コントローラーを使って、空中からではわからない建物内をチェックしていました。と、ここまで読んで「マイクロソフトは人殺しに加担しているゲーム機を発売しているなんてけしからん!」とおっしゃる有識者が現れてもおかしくないのですが、別にマイクロソフトは軍需産業向けにXboxを作っているわけじゃないし、それを言ってしまったら包丁を購入した人がそれを使って殺人を犯した場合は「包丁なんて売っているほうが問題だろ!」と同じになってしまう。

「ショート・サーキット」

 

つまり、使う側次第なんですよ。たまたま米軍はXbox 360のコントローラーがすぐれていると気付き(エライ!)、無人探査機用で使うようになっただけ。ちなみにXbox 360のコントローラーを使った、爆撃可能だったりする殺人ドローンはないそうです。あくまでも探査用でしか使われてないとのこと。

 

Kinectが発掘した新たなゲームユーザー層

さらにマイクロソフトの素晴らしい取り組みを伝えると、主に米国での話になりますが、いまだに医療施設などではXbox 360が現役稼働しているのです。「医療関係でXbox 360とはいかに?」と思われるでしょうが、2010年に発売された周辺機器のモーションセンサー「Kinect」が大活躍しているんですね。

狭小住宅が主な家庭環境の日本国内では普及しませんでしたが、米国では大ヒット。……というか元々Kinectのメインターゲット層は、リビングの広い住宅に住む富裕層向けだったとマイクロソフトの米国法人の方からうかがっていたのですが、3500万台もKinectが売れていたという事実には驚きを隠せません。

2004年に、SIEはPS2用カメラ付き周辺機器「EyeToy」なるものを発売するも不発に終わりますが、2000年から進めていたモーションコントロールの技術を捨てるわけにいかなかったプライドからPS3用の周辺機器「PlayStation Eye」にまで発展。

「EyeToy」にはマイク機能がないという弱点がありましたが、「PlayStation Eye」からは音声認識機能も追加され、2010年にはモーションコントローラー「PlayStation Move」が発売され、任天堂の「Wii」みたいな操作も可能になりました。マイクロソフトの方に「KinectはPlayStation Eyeの存在を意識して作られたのではないか?」とうかがったところ、それは事実と認めながらも、「PlayStation Eyeの残念だった部分は大々的なプロモーションをせず、ゲームの遊びを若干拡張させるだけに留まっていた点。ソニーが大きく残した爪痕を我々がKinectで拾い上げ、身体の不自由な方々にもXbox360を利用していただこうとのコンセプトが、開発陣営に秘されたテーマとしてあった」との回答をいただきました。

 

 

その言葉を裏付けるように、退役軍人が多い=身体障害者の多い米国では、Kinectが起爆剤となり、Xbox 360の売り上げに大きな弾みがつきます。戦争によって車椅子状態になったり、指や腕を失ったゲームユーザーは米国には本当に多いのですが、そんな中で現れたKinectは、身体障害者でもゲームを楽しめるとハンディキャップ・コミュニティで話題となり、リハビリ医療施設や障害者施設に、一気にXbox 360とKinectが導入されていったとのこと。このことから米国マイクロソフトでは障害福祉に対する意識が高まり、社会福祉にも目を向けるようになったのです。このような事案は日本で報道されていません。

 

映画業界とXboxの意外な関係

オフィシャルとしてはXbox 360専用デバイスとしてリリースされていたKinectですが、PCでも使えるよう有志がオープンソースでドライバーを開発し、日進月歩でカスタマイズされるようになりました。

それに反応したマイクロソフトは、のちにオフィシャルにWindows用開発キットを提供するようになり、Kinectの汎用性は拡大。と同時に多方面で使用されていくようになります。

以前取材した米国映画の製作現場では、CGで作るプレビズ(ビデオコンテ)作業用に大量のKinectがスタジオ内に設置されていました。それをWindows上で動作する簡易的なモーションキャプチャーツールとして活用。俳優の代わりを務めるスタントマンたちの派手なアクションムーブをトレースしていたのです。現場スタッフから話をうかがうと「コストパフォーマンスのよさからKinectは映画産業でも重宝している。モーションキャプチャー用の高価なセットを導入できないスタジオでは、Kinectを使い始めているところも多い。簡易的なモーションキャプチャーではあるが、ここから手付けモーションも追加できる。ゲーム開発者たちもKinectを使ってゲームのムービーパートを作っていたりして、日本では想像できないほど米国ではKinectが重宝されている」とのこと。ゲームで遊ぶ以外にKinectの利用方法は多種多様となっており、日本人の我々の知らぬところで普及していた事実に驚きを隠せません。

現在は「Xbox ONE Kinect」へとバージョンアップしたことで指のモーションキャプチャーも可能となったほか、赤外線カメラで撮影する機能が搭載されたことで暗所でもモーションキャプチャーができようになったことも、撮影現場では欠かせないツールとなった理由のひとつだそうです。

 


結局、日本でKinectが普及しなかった理由は、日本の住居事情だけの問題ではなく(Kinectと対象人物のストロークも必要だったし)、米国人のような発想の柔軟性が足りなかったからなのかも……と個人的ではあるが勝手に思ってしまいます。

取材していくと、確かに日本国内のリハビリ医療施設では「Wii」や「Wii Fit」がいまだに活用されている現実を目のあたりにしますが、Kinectは見たことすらない悲しさ。それは日本企業の任天堂、米国企業のマイクロソフトというユーザー側の文化・意識の違いのみならず、Xboxシリーズがいかに米国人から愛されているか、というユーザーの熱の違いから来ているのかもしれません。


(文/ジャンクハンター吉田)

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