ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

»一覧へ

見ると勇気を貰える、成長と可能性への賛歌

観賞手段:テレビ、ビデオ/DVD
人が巨大建造物「ドームポリス」に住む近未来。より良い場所を目指して脱出する「エクソダス」はタブーとされていた。主人公・ゲイナーはとある理由からエクソダスを嫌悪する少年。しかし、自身が住むドームポリスがエクソダスしたことから、これを阻止せんとする「シベリア鉄道警備隊」との戦いに巻き込まれることになる。
「機動戦士ガンダム」の富野由悠季氏がエンターテイメントを強く志向した本作だが、世界設定やキャラクター造形のところどころにドキリとさせられるところがある。例えばエクソダス一つ取ってもそのスタンスは人によって様々で、中には安定したドームポリスでの生活を望む者もいる。こうした人々も、都市を丸ごと動かして行うエクソダスには否応なく巻き込まれてしまう。変革には痛みを伴うというが、変革が必要ない者はどうすればいいのだろうか。ゲイナーはオンラインゲームのチャンプかつ引きこもりがちな少年。「ゲーム好き」「引きこもり」というキーワードからは甘えた子どもであるような印象を受けるが、人が引きこもるからには重い理由がある。これを知った視聴者は、断片的なワードで人を類型化する自身の偏見を恥じることとなるのである。
こうした「黒富野」(富野氏が得意とするダークな作風)的な部分はさておき、本作は人のエネルギーと可能性を礼賛する明るい「白富野」である。ゲイナーは無理矢理エクソダスに参加させられ、エクソダスを請け負うプロで大人の男・ゲインや気になるクラスメイト・サラなど様々な人々と関わり合い、これまでを乗り越えて成長していく。人が生きるためには変化が必要。大変なこともあるが、乗り越えた先には良いことも待っているということで、実に前向きである(ちなみに、同様のテーマは富野氏が後に手がけた『Gのレコンギスタ』で自身が作詞した『Gの閃光』にも見られる。氏が変わらず発信し続けるメッセージというわけだ)。
本作はロボットものとしての側面もあり、ロボットが入り乱れるアクションシーンも見応えがある。特に面白いのが、自動車や装甲車的な扱いをされる「シルエットマシン」のリアルさと、不思議な力を持つ高性能機「オーバーマン」との対比だ。オーバーマンは重力を操ったり、あらゆるものを盗んだり、人の心を操ったりといった特殊能力を持ち、その戦いは単なるパワーのぶつかり合いに終わらない。現在も流行が続く能力モノのテイストをロボットバトルに取り込んでおり、アニメーションが手描きであることとあわせて見応えがある。
人は変化を恐れ、辛い境遇にも甘んじがち。しかし、勇気を持って一歩踏み出せば、そこには少なくとも可能性がある。成長するということは、それまでの自分を卑下することでも否定することでもないのだ。風雪吹きすさぶ凍土から歩を進め、緑溢れる理想郷へ。これまでの自分からエクソダスする本作は、環境の変わる春に見ることで勇気を貰える白富野なのだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
5.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2024-04-01 14:52:18

ログイン/会員登録をしてコメントしよう!