ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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生身VS戦闘ロボ。復讐に燃える負け犬が戦場を這いずり牙を研ぐ

観賞手段:ビデオ/DVD
ハードボイルドロボットアニメ「装甲騎兵ボトムズ」のスピンオフは、主人公メロウリンクが生身でロボットと戦う泥臭いアクションだ。メロウリンクの部隊は上層部の陰謀で捨て駒にされ、彼以外全滅。さらに敵前逃亡と物資の横流しの濡れ衣を着せられてしまった。死んだ仲間のため、メロウリンクは復讐を決意。部隊を陥れた元上官たちを追い詰めていくのだ。
「装甲騎兵ボトムズ」には全高4mほどのロボット兵器・AT(アーマード・トルーパー)が登場するが、本作のATは敵が使う武器。メロウリンクは生身なので、正面からぶつかったのではとても敵わない。現代で例えるなら戦車VS人間とでもいうべき絶対不利な状況の中、戦場を泥臭く這いずり回り、知略やトラップを駆使して戦うスリル溢れるバトルが、本作の大きな魅力。耐えに耐えた末、ついに憎き仇のATへメロウリンクが肉薄、火薬発射式の槍・パイルバンカーで頭部をブチ抜く様には大きなカタルシスがある。バトルのシチュエーションが毎回凝っているのも見所だ。中でも地上に落ちて塔のように突き立つ宇宙戦艦で、姿なき敵とメロウリンクが戦う「リーニングタワー」は傑作回の一つ。高所での戦いのスリルに、エアロックや格納庫などボタン一つで状況が変化する宇宙船のギミックが加わっており、SFアニらしい面白さがある。
本作は、主題歌でも歌われるように負け犬の物語だ。メロウリンクは部隊の仲間とともに死ぬこともできず、せっかく拾った命も仲間の復讐に使う不器用な男。彼の前に現れる元上官たちは部隊を陥れたことで富と成功を掴んでいるのだから、なんともやりきれないものがある。そんなメロウリンクが必死にあがき、卑劣な元上官どもを処刑する様には「必殺仕事人」的な爽快感がある。「装甲騎兵ボトムズ」はロボットものにハードボイルドのエッセンスを加えた作品だが、本作はロボットもの+歩兵戦+「必殺仕事人」のアニメともいえるかも知れない。メロウリンク自身も、寡黙な中に鋼の意志と強靱な肉体を持つ80年代的ヒーロー……と思わせつつ、実は17歳という年齢相応の純朴さや未熟さを持っており、その意図されたアンバランスさが面白い。彼の周囲には、謎のギャンブラーであるルルシー、なぜか行く先々に現れる情報将校・キークといった一癖も二癖もある人物が集い、汚濁と混沌に満ちた「装甲騎兵ボトムズ」世界をより魅力的なものとしている。リアルタイムで視聴した人も、現在見返すのであれば負け犬の哀愁や、真意を明かさぬルルシーやキークの腹芸といった部分の面白さがより深く理解できるはずだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
4.0
作画
4.0
キャラクター
4.0
音楽
4.5
オリジナリティ
4.0
演出
4.5
声優
4.0
5.0
満足度 4.5
いいね(0) 2023-12-31 14:28:16

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