ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

»一覧へ

ハードボイルドの香り高き、リアルロボットアニメの極北

観賞手段:テレビ、ビデオ/DVD
4年前の「機動戦士ガンダム」以降、ロボットアニメの表現の幅が広がっていく中、重厚な人間ドラマを志向した作品。
長く続いた宇宙戦争も終わりが近づき、兵士だった主人公・キリコは味方基地を襲撃するという奇怪な任務に就かされる。キリコはそこで謎の女・フィアナと出会い、それゆえに様々な勢力から追われることになってしまう。戦うことでしか生きられぬキリコは、さすらいの旅を続けつつ、フィアナの秘密や自身の忌まわしき過去と向き合っていくのだ。
キリコは戦争で感情を失った、無口な男。視聴者は語らぬ彼の心情を読み解こうとし、いつしか緊張感とともに作品世界へと取り込まれていく。キリコは物語後半、戦争で負った心の傷に苦しめられるのだが、苦悩の様が壮絶で、見ているこちらまで苦しくなってくる。戦いを描く娯楽作品たるロボットアニメで、戦争ゆえに苦しむ主人公を描写するというのは思い切った取り組みだ。物語全編に漂うハードボイルドな雰囲気も秀逸。汚濁に満ちた猥雑な世界の中、強く不器用なキリコが戦い続ける様には、大人も唸るカッコ良さがあるのだ。
戦闘ロボットであるAT(アーマード・トルーパー)が徹底的に兵器として扱われているのも本作の特徴。いわゆる“主役機”が存在せず、キリコは必要に応じてATを次々と乗り換えていく。膝を逆に折ることで胸の操縦席に乗りやすくする「降着」姿勢や火薬で発射されるパンチ、顕微鏡の如くクルクルと回る顔のレンズといったギミックにはリアリティがあり、ATどうしが戦う賭け試合「バトリング」の設定はロボット好きの少年をたまらなく魅了するのである。ロボットもの+ハードボイルドの取り合わせは2020年代から見ても新鮮なもの(少ない時間の中に作品世界のハードボイルドなエッセンスを詰め込んだ次回予告は必聴の価値あり)。40年近く本作の作品世界に魅入られ続けている人も多いが、それだけの魅力を持つ作品と言えるだろう。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
3.5
キャラクター
4.5
音楽
4.0
オリジナリティ
5.0
演出
4.5
声優
4.5
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2023-06-30 20:17:03

ログイン/会員登録をしてコメントしよう!