arsyuさんの評価レビュー

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非情な世界でもその輝きを失わない、スパイの"少女達"の物語

観賞手段:テレビ、CS/BS/ケーブル、BD
ネタバレ
時は19世紀末、巨大な壁で東西に分断された王国の首都ロンドンを舞台にスチームパンク要素で彩り、女子高校生を隠れ蓑に、スパイ活動を行う5人の少女達の活躍を描くスチームパンク×スパイアクションアニメ――

と言うのがこの作品を外形的に評する言葉になる。それらの要素が一定以上のレベルで魅力的に描かれていたことも確かであろうが、それでもこの作品の本質は、スパイ――日常的に人を欺き、"嘘をつく"――世界に身を置かざるを得なかった少女達の、その非情な世界においてもなお失われない――むしろ対比としてより一層輝く――その心の在り様と交流にこそあると言ってよい。

5人の少女達それぞれの関係性は可愛らしいキャラクターデザインの女子高校生集団の印象から想起されるような、ゆるく浮ついたものではなく、"スパイ"としての任務の必要性から「友達と言うカバー(=嘘)」で結びついたものであり、お互いに相手を探りながら、それぞれに明かしていない"秘密"を抱える、いつ崩壊するかも分からない仮初めの関係である。

しかしながら、作中で描かれる、チーム白鳩としての活動の中で、共に過ごした時間、交わした言葉たちが、"スパイ"としての、仮初めのものでない、年相応の"少女"同士としての、本当の絆を育ませてゆく。

中でも、他とは一線を画す、アンジェとプリンセス、この二人の関係性こそが、この物語の中心――核の部分――に置かれており、時系列シャッフルを効果的に使い、後から見返すことで初めてその本当の意味に気づける種々の巧みな演出によって重層的に描き出される、極めて強固で深く重いその繋がりは、見る者の心を激しく揺さぶる力がある。


リアリティよりもケレンみを取りつつ、抑えるべきところは抑えて描かれる派手なスパイアクションシーンや緊張感に満ちた心理戦を伴うスパイ活動、バリエーションに富んだスパイとしてのミッションとその解決方法など、所謂スパイものとしての魅力もふんだんに詰まって居るのも間違いない。
ロンドンの街並みを始めとする、緻密に描き込まれた美しくも重苦しさを感じさせる背景に、説明不要に場面場面を盛り上げる、雰囲気にあった梶浦サウンドなど、作品を構成する各要素の全体的なクオリティも高く、空中艦隊の様なスチームパンクガジェットに彩られ、架空の歴史が形作った分断国家の様な世界背景や王位簒奪や国家統一による世界の変革と言った大きな物語の枠組みもまた、時に魅力的な要素となるが、それらはあくまでも舞台背景と添え物であり、最も語られるべき物語は上記の二人の関係性に他ならないだろう。


そして、全12話かけて語られた、"アンジェとプリンセスの物語"、それをどのように評価するかは人によるかもしれないが、少なくとも自分にとっては、心の奥底に刺さる、素晴らしくも尊い物語に映ったからこそ、今までに見てきたアニメの中でも一番と言えるくらい好きな作品となった。
arsyu
arsyu
ストーリー
5.0
作画
4.5
キャラクター
5.0
音楽
4.5
オリジナリティ
4.5
演出
5.0
声優
4.5
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2017-10-19 22:04:32

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