CUDAさんの評価レビュー

進撃の巨人は、誰が見ても一瞬で凄さを感じさせてしまうほどの圧倒的な映像と、その映像に隠れてしまうことのないミステリアスなストーリー、さらにはそれでもまだ掴めなかった人たちの心をも掴むキャラクターと音楽、サウンドエフェクト、演技などなど、マスターピースと呼んでも過言ではない"怪作"です。

原作はちらっとしか見たことがなかったのですが、本当に考え得る最高レベルのアニメ化がされていると思いました。

ストーリーはアニメ化に際して原作とはエピソードの順番が異なる脚本が書かれていたり、アニメオリジナルの部分があるようなのですが、そこに間違いは全くありません。原作よりも展開を理解しやすくなってるんじゃないかと思います。第1話は視聴者を作品に引きこむという意味でとても強力な脚本でした。
ストーリー自体は、ちょっと背伸びした少年漫画的なものです。といっても少年漫画もピンからキリまであるわけですが、謎だらけの巨人をはじめとして、あの世界も多くの謎に包まれているなど、興味を惹く要素は非常に多いです。
人類が大きな脅威に立ち向かっていくというのは使い古された題材ではあるものの、人間同士の争いも示唆させていたり、数多くの捻りが加えられているので、"引き伸ばし"さえなければ飽きはきません。少なくともアニメではあからさまな引き伸ばしはありませんでした。回想シーンが長いと思ったことはありましたが。
本作ではキャラクターが巨人と対峙すれば常に死と隣合わせにあるということが強調されていますが、「エレンは主人公だから死ぬことはないだろう」と容易に予想できてしまう展開が少しあるのも少し残念です。
原作もまだ続いていますし、今回のアニメは序章という段階でしょうから真にストーリーを評価できるのはまだまだ先になりそうです。

進撃の巨人は、本当にこれはTVシリーズかと疑ってしまうほどの映像の質が高いです。
フルHDの解像度を存分にいかしたスケールの大きさを感じられます。
特に立体機動装置を使ったアクションが本当に素晴らしく、単に整った絵というだけでなく、キャラクター、背景、カメラの動きが観ていて気持ちが良い。それが1回、2回だけじゃないのはさらに驚くべきことです。
キャラクターが単純に横に移動するというのはそう難しくないそうですが、手前から奥、奥から手前、さらにそれよりも複雑な動きというのは本当にアニメーターのレベルの高さを感じます。
日本の2Dアニメの伝統的な手法の技術力の高さと、最新のデジタル技術が融合した映像をこれでもかというくらい堪能できます。
また、背景にも目を見張るものがあります。非常に細密で丁寧な背景美術です。
この空の色彩というのはアニメではあまり目にしない感じがして印象的でした。
ただし、これは個人的な好みの問題ですが、壁外調査のエピソードで平原を馬で駆けているシーンの描写はどうも地に足がついていない感じがしてあまり好きではありませんでした。

進撃の映像に関してもう一つ印象的なのが、輪郭線の太さです。これは手間がかかるので最近のアニメではあまり見られないそうですが、キャラクターに立体感と存在感が生まれています。(たまに太すぎるのと、ある回だけ少しおざなりになっていのが残念。BD/DVDでは直ってるんでしょうけど。)
これだけ美麗な映像がほぼ全編に渡って続くわけですが、ごく一部のシーンは気の抜けたような作画がされていて逆に目立ちます。重要なシーンではありませんが・・・。
余談ですが、進撃の巨人の総作画監督の門脇聡さんは涼宮ハルヒの憂鬱のライブの回の作画監督をやっていた方ですね。まさかこんなところで目にするとは。

さて、キャラクターですが、浅野恭司さんによるアニメのキャラクターデザインは非常に上手くいっていて、ファン層の拡大にも一役買っているかと思います。キャラクターの装備や衣装もかっこいい。
一部のキャラクターは、やや大袈裟でお馬鹿な行動や発言をしているように感じることがありますが、そのあたりは少年漫画らしいといえばらしいのか。
巨人のデザインも忘れてはなりません。人間のキャラクターのデザインとくらべて明らかにリアル寄りで不気味です。
ミカサやリヴァイのような魅力的なキャラクターが多いわけですが、エレンは復讐の動機やその考え方は主人公として少し面白さに欠けます。今後どうなるのか。

音楽の項目にサウンドエフェクトの点数も入れておきましたが、5.1chサラウンドに対応してほしいくらいです。

Linked Horizonが歌うオープニングテーマは前期の「紅蓮の弓矢」も後期の「自由の翼」も素晴らしい曲だったと思います。オープニングの映像も魅力的でした。エンディングはオープニングのインパクトが強すぎてちょっと影が薄い印象です。
挿入歌はどれも場面にあっていましたが、ボーカルがない方が良いという人もいることでしょう。

声優陣に関してはこの程度なら別にいいか・・・と思うくらい気になるところがあります。石川由依さんは声優もこなす女優さんということですが、味がある演技でミカサのキャラにあった良い配役だったのではないかと思います。

まだ物語は途中なのでオリジナリティも完全に評価することはできないのですが、ありそうでなかったものが色々とあったり、キャラクターの性格や設定が独特な感じだったりとオリジナリティは高いです。たまに台詞の端々から某確率時空っぽさを感じたりしなかったり、巨人が人を食うという設定もやっぱり影響受けてるんだろうなぁとか思ったり。

進撃の巨人のアニメは多くの面で優れた作品でしたが、些細なことが一つ気になりました。
自分は録画しておいて一気見をしたのですが、その中で気づいたのがアバンの「前回のあらすじ」です。ＴＶアニメでは決して珍しくないですし、その昔は10分くらい前回見た映像を流すようなアニメもあったわけですが、ＴＶアニメのオープニングとエンディングとCMを除いた本編は20分程度なので、そのうちの２～３分があらすじに使われるのはちょっと残念でした。もちろん本編のスタートかオープニングのところまで飛ばしましたが。

良い点
＋登場人物から背景に至るまで圧倒的な映像美
＋気持ちのよい大迫力のアクションシーン
＋興味を惹くストーリーと世界観
＋原作を尊重しながらもとっつきやすい脚本とキャラクターデザイン
＋魅力的なキャラクターが多い
＋音楽・効果音・主題歌

悪い点
－会話が長すぎると感じることがある(長さに応じて内容が濃ければいいが)
－ほとんどの回のアバンに2～3分間の"前回のあらすじ"が入っている
－"巨人化"は人によって好みが別れる


凄惨で血なまぐさい表現もありますが、TVシリーズとしては信じられないほど高いクオリティで作られており、既に海外でも非常に高い人気を得ているように、進撃の巨人は日本のアニメの真骨頂となることができるポテンシャルを秘めています。
また、単純なエンターテインメント性も非常に高く、問答無用で面白いという人もたくさんいるはずです。
これほどまでのアクションと美麗な映像の両方をやるテレビアニメはおそらく進撃の巨人の次のアニメ化までに１本あるかないか程度でしょう(制作費や制作期間などを考えると)。劇場作品以外ではないかもしれません。

先述したことや、一部の放送局では部分的に映像が間に合わなかったというように進撃の巨人は完璧ではありませんし、本作がどのくらい大きなプロジェクトだったのかはわからないですが、ここまでこぎつけたことを称賛したいです。