「あなたに、会いたい…」を「会いたかった」に変えた20年の想い。「センチメンタルグラフティ20周年スペシャルイベント~再会~」昼夜レポート

2019年01月30日 19:300

生バンドで新生する20年目の「センチメンタルグラフティ」ライブ

「センチメンタルグラフティ20周年スペシャルイベント~再会~」夜の部は、トークなしでいきなり歌に入る完全ライブモードでスタートした。「センチメンタルグラフティ」としてのフルライブは20年ぶりだが、生バンドでしっかりしたライブを提供できたのは、同作の音楽担当・濱田智之氏が本公演をプロデュースしたことが大きいだろう。濱田氏がこの20年間、今井麻美さんや原由実さんなど数々のアーティストをプロデュースし、最前線でライブに関わり続けてきたのは、アニメ・ゲームファンなら多くが知るところだ。ゲームコンテンツのライブをバイオリンまで揃えた生バンドで行なうのは現代ならではの光景で、マニピュレーターは濱田氏自身が務めた。

 


それぞれのキャラクターが「あなたに、会いたい…」のメッセージを伝えるオープニングボイスが流れると、ステージには沢渡ほのか役の鈴木麻里子さんがひとりで登場。ソロ曲「Long Distance Call」でライブはスタートした。彼女の伸びやかでやさしい歌声は、ほのかそのもの。そしてこの曲といえば、ほのかから「あなた」に向けた電話の台詞が欠かせない。長い距離と時間を超えてつながった着信で、「寂しい時はいつでも電話してほしい」の言葉が客席に届いた。

 

 

松岡千恵役の米本千珠さんは、黒の革ジャンを羽織ったシンプルでロックな装いで登場し「Two Dreams」を熱唱した。リズミカルに膝でビートを刻み、スタンドマイクをぶん回しながら歌う空気感と歌声は、やはり米本さんならではのオリジナルだ。

 

妙子のソロ曲「日曜日の丘」のイントロのおだやかで少し寂しげな旋律が流れると、次の曲を察した観客から歓声が上がる。まずは「センチメンタルグラフティ」安達妙子役の岡田純子さんがステージに登場して歌ったのだが、終盤に「センチメンタルグラフティ2」安達妙子役の有島モユさんが登場すると会場に驚きのさざなみが広がった。2人の妙子は「また、会えるって」の言葉をかわすと、向かい合ってやさしい歌声を響かせあう。「あなたの夢を聞かせて」のフレーズのシンクロは、胸に迫るものがあった。イベント当日は妙子の誕生日ということで、岡田さんと有島さん、会場のファンが一緒になってハッピーバースデーを合唱する一幕もあった。

 

ステージには有島さんがそのまま残り、「故郷の風」を披露。彼女の歌声は透き通るように美しいが、その中に一歩ずつ着実に歩んでいく妙子の強さが感じられる。ラストの一連のフレーズのささやくような、消えゆきそうな儚い歌声と、ピアノの美しい旋律がいつまでも耳に残った。

 

遠藤晶役の鈴木麗子さんは白いドレス姿で登場、散りばめられたラメがキラキラと輝くのが美しい。「振り向けば I Love You」は濱田氏が作詞作曲した楽曲だが、間奏の美しい調べを聴いていると、この曲と晶のために、バンド隊にバイオリンが準備されたようにも感じられた。

 

続いて鈴木麻里子さん、永倉えみる役の前田愛さん、森井夏穂役の満仲由紀子さんが登場。ここからは「『センチメンタル・グラフティ』ヴォーカルアルバム~3×4」に収録されたトリオ楽曲のメドレーコーナーだ。スタートはもちろんこの3人が歌う「青空」。前田さんがセンターに立って、3人の質が違う歌声が響き合うのが耳に心地よい。「Crescent Moon」は前田さん、七瀬優役の西口有香さん、鈴木麗子さんの組み合わせ。少しゆったりしたテンポで、大人の歌声の三重奏を響かせた。

 


「Crescent Moon」の後だからこそ、岡田純子さん、有島モユさん、山本るりか役の今野宏美さんの3人の「いつかきっと言えるはず」のキュートさが際立って感じられて、ちょっと懐かしいテイストのアイドル曲のようだ。なかでも今野宏美さんは舌っ足らずな感じの「すき!」のひと言で会場の空気をつかんだ感じで、るりかと今野さんの天真爛漫なかわいさを20年目にして再発見してしまった。ラストは3人が声を揃えての「みんなー! 大好きだよー!」の声で締めくくった。

 

トリオ楽曲のラストは鈴木麻里子さん、杉原真奈美役の豊嶋真千子さん、米本さんによる「Girl Friends」。この3人は青二塾東京14期の同期であり、楽曲の世界ともなんだかリンクする関係性だ。米本さんは千恵として強めのロックを歌っているイメージが強いこともあり、やわらかく友情を歌っている姿は新鮮だった。

 

ライブ後半戦は、「後半も盛り上がっていくよ。ダーリンたち、よろしくね!」と宣言した前田愛さんによる「Ribbon」でスタート。前田さんはAiM名義でずっと歌手活動を続けてきただけあって、歌声が当時のCD音源よりもずっと伸びやかで華やかに感じられて、20年間磨いたスキルとえみるのキャラクター性がひとつになった感じだ。「じゃあみんなのところ行っちゃうよ!」と叫んだ前田さんは客席に降りると、小さなリボンをまきながら会場をぐるりと一周。前田さんの「いくよー!」の声にあわせて、会場いっぱいに黄色いサイリウムの花畑がゆれた。

 

満仲由紀子さんはオレンジ色のドレス姿で「君がいれば…」を披露。さっぱりと後ろでまとめた髪の清涼感と明るい表情から漂う空気が夏穂らしい。後半に行くに連れて満仲さんのテンションは上がっていき、ステージ中を駆けまわりながら嬉しそうに客席をあおる姿が印象的。最後ははしゃぎすぎて、バンド隊とタイミングを合わせてのジャンプでかわいらしく尻もちをついてしまった。

 

今野宏美さんは「水色の宝石」を披露。水色の光の海を見た今野さんは「洪水みたいだ!」とにっこり。一緒にいる人たちとの関係性や、演じる役柄によって雰囲気や立ち位置が変わるのは当たり前の話ではあるが、本当に今日ほどキュートな今野さんは見たことがないような気がする。客席に背を向けて真っ赤な大きなリボンとつややかな黒髪を揺らすと、ぴょんと振り向いてにっこり笑う。「みんなー! ありがとー! 20年間待ってくれててありがとう。私にとっての水色の宝石は、みーんなのことだよ!」と叫んだ彼女は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらありがとうの言葉を繰り返すと、「これからもずーっと、そばにいてね!」と締めくくった。

 

 

歌う曲を迷ったという西口さんは、Twitterでファンの意見を聞いた結果「オンリー・ロンリー・スター」をチョイス。「キミとまた一緒に、いつかこの曲を歌えると信じていたよ」の言葉とともに歌いだした。時に瞳を閉じながら、ひとつひとつのフレーズに大切に大切に想いをこめて歌っていることが伝わってくる。「星座を探していたよ」のフレーズでゆっくりと天を指しゆらしていた指先を、客席の「キミ」に向ける仕草がすごく印象的。間奏では真っ赤な上衣を脱ぎ捨てて、白と赤を基調にしたアイドルっぽい衣装に変身して見せた。

 

 

ソロのトリは、この企画の発起人のひとりとして、情熱を持って動いてきた豊嶋さんの「想い出を止めたままで…」。ぴかぴかした音のきらめきから入る壮大なイントロがすごく印象的だ。豊嶋さんの包みこむような歌声はだんだんと力強さを増していき、圧巻のロングトーンを響かせる。転調して迎えたラストの「すべて、よー…」のフレーズはささやくようで、それでいて強い不思議な歌声。そのフレーズをより印象的に響かせためにぐっと溜める瞬間、会場にはりつめる心地よい緊張感と、呼吸すら殺して静寂を守るファンの信頼関係も素晴らしかった。

 

ここで会場には「たった一つの思い出」の音楽とともに懐かしい映像が流れ、メンバーたちに準備の時間を作る。再び登場した10人は、純白にキャラクターカラーをワンポイントで入れた新衣装で登場。岡田さんと有島さんは、スカートに青いラインを入れる衣装コンセプトは同じで、細かな部分にさまざまな違いがある凝りようだ。全員揃って披露したのは「再会」。2000年にレコーディングされ、未発売のままお蔵入りになっていた楽曲は、まるで18年後のこの時のために用意されていた楽曲であるように響いた。

 

 

本編を締めくくった「たった一つの想い出」では会場も一緒に歌ってほしいとリクエストされたのだが、会場の歌声はすごく遠慮がち。ソロの時は抑えて、メンバーの歌声のボリュームが上がるところでは客席の歌声も大きくなる感じで、ちゃんと覚えてるんだけど、今は少しでもSGガールズの歌声を聴きたい!という感じが伝わってくる。涙ぐむ今野さんを、前田さんがやさしくはげましながら歌っている姿が印象的だった。

 

 

生バンドならではの粋な演出だったのは、曲の途中でメンバーからの感謝のメッセージをじっくりと伝える時間があったことだ。岡田さんの「声優という仕事の一線から引いた人間なので」という言葉にはどきっとしたが、時に言葉をつまらせ、時に涙とともに語られた10人の想いは、「20年」の重さ、この日に辿り着くまでの大変さをも感じさせるものだった。だが今野さんが子供のように泣きじゃくりながら「センチに出会えて、SGガールズで、本当によかったです」と語ったように、やはり、ありがとうと大好きの言葉が次々と出てくるのだった。満仲さんが「今回のイベントは感謝を伝えたくてはじまったのですが、もらってばかりで……、ちゃんと、楽しんでもらえたでしょうか?」と問いかけると、会場は暖かく大きな歓声と拍手に包まれた。メッセージの最後、「今日は一瞬一瞬が幸せで、時を止めてしまいたいぐらいです」と語った豊嶋さんは、夢見ていた場を持てた感謝を改めてすべての人に伝えると、「みんなも一緒に歌ってね」と再開の合図。最後はお互いに身を寄せ合い支え合うメンバーたちと、この場を作り出したファンたちが声を揃えてのラララの大合唱でステージ本編を締めくくった。

 

鳴り止まない歓声に応えてのアンコールで歌ったのは、今回のプロジェクトで作られた新曲「未来~センチメンタルグラフティ」。「最後はみんなのところにいきまーす!」と全員が客席の中に入ったメンバーたちは、別れを惜しむようにゆっくりと客席を回る。ステージに戻った10人は、息を揃えてのジャンプで大団円のステージを締めくくったのだった。

 

 

バンドメンバーを含めた全員が手をつなぎ、肉声で「今日は本当にありがとうございました!」の声を届け、記念撮影をして、サインボールを投げて、20年目の祝祭は終わりを告げた。ラストを飾ったのはもちろん、このフレーズ。

 

「「「せつなさ、炸裂!」」」

 

ステージの上と下で、20年を支え合った戦友たちの叫びは、胸に沁みた。

 

(取材・文/中里キリ)

 
【セットリスト】

M01:Long Distance Call(鈴木麻里子)

M02:Two Dreams(米本千珠)

M03:日曜日の丘(岡田純子&有島モユ)

M04:故郷の風(有島モユ)

M05:振り向けば I Love You(鈴木麗子)

M06:青空(鈴木麻里子、前田愛、満仲由紀子)

M07:Crescent Moon(前田愛、西口有香、鈴木麗子)

M08:いつかきっと言えるはず(岡田純子、有島モユ、今野宏美)

M09:Girl Friends(鈴木麻里子、豊嶋真千子、米本千珠)

M10:Ribbon(前田愛)

M11:君がいれば…(満仲由紀子)

M12:水色の宝石(今野宏美)

M13:オンリー・ロンリー・スター(西口有香)

M14:想い出を止めたままで…(豊嶋真千子)

M15:再会(全員)

M16:たった一つの想い出(全員)

EC01:未来~センチメンタルグラフティ(全員)

関連作品

センチメンタルジャーニー

センチメンタルジャーニー

放送日: 1998年4月8日~1998年7月1日   制作会社: サンライズ
キャスト: 鈴木麗子、米本千珠、西口有香、豊嶋真千子、満仲由紀子、小田美智子、今野宏美、岡本麻見、牧島有希、前田愛、岡田純子、鈴木麻里子
(C) マーカス/サンライズ・バンプレスト・三菱商事

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