ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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想い、想われる人々の群像劇

観賞手段:テレビ、BD
主人公のえりぴよは、マイナーな地下アイドルグループ「ChamJam」で人気最下位の舞菜を推す女オタ。服も全て売り払ってしまい高校時代のジャージでライブに出没するなど、金銭から労働力、時間まであらゆるものを推しに貢ぐ業深き人物だ。あまりの強烈さから周囲に恐れられるえりぴよだが、そんな彼女にもオタク友だちの輪が広がっていき、苦労も多いが楽しい推し活ライフをエンジョイしていくのだった。
世にアイドルもののアニメは多いが、本作の主人公はアイドルではなくこれを推す側。原作者が現役のアイドルオタクだけあり、推し活のリアルさが面白い。新曲のCDを手に入れるために夜明けから並び、猛暑の中で地獄を見る。推しに彼氏がいるという未確認情報が飛び交い、情緒がグチャグチャになる。推しがファッションショーに出演するのを応援に行き、オシャレな人たちの中でアウェー感を味わう。総選挙で推しの順位を上げるためにバイトしまくって体を壊しかける。「なぜ世間は、この良さを分かってくれないのだ!」という憤りと、そこから生まれる謎の熱量。オタクの戦友どうし、好きなものに敢えて愚痴をいう時の楽しさ。こうしたエピソードにはオタクの悲喜こもごもやあるあるが詰まっている。地下アイドルのオタクが主人公ということで、特殊な物語と思われるかも知れない。しかし、何かにハマってバカをやったことのある人であれば共感できる物語である。部活、運動、アニメ、漫画、ゲームなどジャンルはなんでもいい。必死になって打ち込み、そのことが世界の全てになり、何かを犠牲にし、価値観を同じくする友だちとつるんだ日々が思い起こされることだろう。
そして、地下アイドルとファンという不思議な距離感も本作の面白さに一役買っている。舞台上の地下アイドルとこれを見るファン、両者の隔たりは非常に大きい。しかし、時には電車で地下アイドルとファンがバッタリと出会ってしまったり、地下アイドルがバイトするメイド喫茶にファンがたむろしたりというように、距離が一気に縮まることもある。こうした可変する距離感は地下アイドルならではのものであり、従来のアイドルものとはひと味違った人間ドラマが描かれているといえる。
推す側と推される側の事情がともに描かれているのも本作の特徴だ。オタクたちが「ChamJam」を推すスタンスは様々で、えりぴよのように女神の如く崇める者もいれば、恋愛対象としてガチ恋する者あり、グループが解散しても推しを見守り続ける者あり、推しを変える者ありと十人十色。「ChamJam」のメンバーも様々な動機や覚悟とともにアイドルをしており、理想と現実の狭間で日々悩んでいる。本作は地下アイドルものであると同時に想い、想われる人々の群像劇。きっとあなたに似た人と推しが見つかるはずだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
4.5
作画
4.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
4.5
演出
4.5
声優
5.0
5.0
満足度 4.5
いいね(0) 2024-07-31 20:09:49

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