soiboshiさんの評価レビュー

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21gへの叫び

観賞手段:劇場
2回目観てきました。パンフも入手。
話の根幹には触れていないのでネタバレ外します。

その後、また観てきました(3回目)。
屍者の帝国は沼でした。
観れば観るほどハマってしまうという……
それに伴い、評価を満点とさせていただきました。


以下、1回目を見た際のレビューです。--------------------


制作が進撃の巨人を手がけているWIT STUDIOさんで、
その影響からか絵柄(特に瞳)がやや似ています。
世界背景が違うので、そのままというわけではないですが。
いいところが活かされているという感じを受けました。

進撃の世界よりも落ち着いているぶん、静謐で繊細です。
その美しさは美術にまで及んでおり、降る雪の表現から、
夕日に染まる海辺の建物、昔の日本の風景まで、
目を見張るものがあります。
作中に出てくる幾つかの国は、それぞれが独自の色彩を
持っていて、雰囲気を織りあげるのに成功しています。

日本の描写は、浮世絵のような色合いが取り入れられ、
それがかえって目新しく映り、特筆すべき美しさです。
美術の素晴らしさだけでも劇場で観るべき魅力があります。

内容もとてもいい。

主人公である医学生・ワトソンは、魂のありようについてともに
研究を進めていた友人・フライデーの骸を『起動させる』ことに
成功するのですが、それは違法なオーバーテクノロジーで、
研究が見つかり、国の組織から取り引きを持ちかけられます。

世界では、死者を主たる労働者として利用することが
日常になり、街や戦場は次第に動く骸であふれていきます。
そうした『屍者の帝国』が舞台です。

登場人物については、皆が皆、一途ですね。
禁忌を犯してでも手に入れたいものがある。
魂であり絆であったり、信念であったり。

ワトソンが求めるものは、生前の友との約束。
余命幾許もないことを知ったフライデーの、
自分の墓を暴き骸を使うことで研究を成功させてほしい
という願い。ワトソンは、その願いを遂げるため、
人と魂について、研究の核心に迫っていきます。

人の体は死後、必ず重さが21g減るという事実。
減った21gは、魂の重さであると考えられています。
魂とはなんなのか。どこへ行くのか。
死者に再び戻すことはできるのか。
意思の疎通は叶うのか?
研究の始祖や妨害者、協力者が登場し、
ワトソンの強い探求心は国や人を巻き込んでいきます。

人は死ぬときに21g軽くなる、というくだりは、
その名も『21g』というアメリカ映画(2003年)でも
テーマに扱っているので、興味のある人は観てみては。

重い、考えさせられるところのあるテーマですが、
屍者の帝国は、スチームパンクや活劇としても楽しめる
大作に仕上げられており、非常に見どころが多いです。

また、フライデーは古典の名作である竹宮恵子の漫画作品、
風と木の詩におけるジルベールを彷彿とさせる美形なので、
難しい話が苦手な女子(男子でも構わない)も物語の世界に
入り込むきっかけになってくれるのではないでしょうか。

死者のあふれる退廃的な世界と、
いろいろな形の絆。引き込まれます。
物語の山場は圧巻なので、多くの人に観ていただきたいです。
ひさしぶりに「映画を観たー!」という高揚感や感慨に
気持ちよく耽ることのできた作品でした。

劇場の迫力でぜひ。

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劇中の、主人公ワトソンがフライデーへ言う、
「なぜ置いていった。なぜ戻ってこない!」
というような台詞があるのですが、
伊藤計劃さんと円城塔さんに重ねると非常に切ないですね。
(ただでさえ切ないシーンなのです)

Blu-ray化が待たれますが、
詳細な設定集などの出版を望まずにはおれません。
それだけ魅力のある作品でした。


(以下更に加筆)

1月末にアートワークス(仮)が発売されるので楽しみです。
2月には待望のBlu-rayも出ますしね。
多くの人に観ていただきたい作品です。

しかしなんというか、特典などのアニメ絵が、
BL風味なのがかなり複雑な心境です。
ワトソンとフライデーの間柄を、BLという記号で
括られたくないんですよ。

同人誌は溢れてるんじゃないかと想像つきますが、
公式にやられちゃうとそれが正式な設定になっていって
しまうので、正直なところあまり歓迎できません。

ワトソンの愛情は判りますけど、
もろにBL系に持って行かれてしまうのが嫌なんです。
残念な点を挙げるとしたら、ここですかね……
soiboshi
soiboshi
ストーリー
5.0
作画
5.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(1) 2015-12-27 01:18:35

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