『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』特集

STUDIO4℃潜入取材

プロデューサー 田中栄子 スタジオジブリにて、宮崎駿監督作「となりのトトロ」、「魔女の宅急便」のラインプロデューサーを務める。1985年、STUDIO4℃を設立。アニメ作品の他、浜崎あゆみ、宇多田ヒカルなどのミュージック・ビデオやCM、展示映像を手がける。代表的な劇場作品は「MEMORIES」、「マインド・ゲーム」、「鉄コン筋クリート」

2012年2月4日公開『ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵』のアニメーション制作を手がけるSTUDIO4℃に訪問。取材ではSTUDIO4℃社長であり、本作プロデューサーの田中栄子さんに企画から映画化までの話をお聞きしました。


ベルセルクはSTUDIO4℃で、最大級に手間がかかっている作品。
作品のカット数は3982カット以上。ハイブリッド(手描きと3DCGの合成)もあり、膨大な手間がかかっています。

パイロット版では、4つのハードルを検証しています

――映像化の企画はいつ立ち上がったのでしょうか。

2008年正月です。技術的に、このレベルなら作れるという検証版としてのパイロット映像を、その年の5月に三浦先生と担当の島田編集に拝見していただき、OKをいただきました。

パイロット版では、4つのハードルを検証しています。

1つめは、甲冑を着たキャラクターの表現。物の質感を絵にするのは難しいです。甲冑は鉄の硬さと細かい線を描くのが大変で、1枚の絵を描くにもかなり時間がかかってしまいます。弊社ではアニメ映画の作画枚数は10万枚ぐらいかるので、もはや人力では不可能に近い。パイロットでは甲冑をどう書くかを検証し、3DCGを使うことで解決しました。

2つめは、3DCGでは、フェイシング(物体の表面表現)と、髪の毛やマントの柔らかい動きの描き方が難しく、パペットのようになってしまうため、表情を演出するのは、さらに難しくなります。そこで、作画アニメが持っている独特の表現を3DCGの甲冑と合成するという方法論を開発しました。

3つめは、逆に3DCGで作画では表現が難しい、ゾッドの毛をファーのような感じで表現することです。大きな魔物を作って演技させられるか。バイオレンスな表現はどうか。鉈のような大剣で体を真っ二つにしてしまうことが表現できるかなど、検証しています。

4つめは、馬やモブ(群衆)シーンです。合戦があるので、3DCGで表現できるか検証しました。パイロット版では以上の4つのハードルの他に、主要な登場人物であるパックやグリフィス、キャスカも要素として入れて、成り立たせました。

  • STUDIO4℃ 制作現場 01
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参加クリエイターはのべ400~500人ぐらい

――キャラクターデザインは恩田尚之さんですね。

最初は、恩田さんが作画監督もすべて作業していました。あのうまさは神がかり的ですね。徐々に恩田さんの絵を描けるスタッフも増えてきて、キーとなる顔の表情やポイント以外は、作画監督補が作業する体制になりつつあります。

――キャラクターデザインに費やす時間は、期間にするとどれくらいでしょうか。

「黄金時代篇」にしようと決まり、シナリオを書いている間に、原型が全部作られます。作画打ち合せという、アニメーションの打ち合わせをするまでには、設定が全部できあがっている必要があり、1年以上かかっています。

  • 設定資料 01
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  • 設定資料 08

――甲冑も部品から設定されているのでしょうか。

甲冑を借りて、自分達で身につけたり、甲冑を制作している職人さんから鎧の作り方や金具の止め方を教えてもらっていますね。西洋甲冑愛好会で、認定書をもらっている方にも設定として参加してもらっています。

西洋剣術の動作は、ジェイ・ノイズさんに参加してもらっています。西洋の剣は両刃なので日本の剣術と違う足運びや、甲冑を着たときの闘い方があります。鎧の隙間を狙うような闘い方で、甲冑ならではの戦い方を知らないとコンテも描けません。

攻城戦は、昔の資料がほとんどないので、投石機などから、こういう形で戦ったという設定が第1章の最初で展開していきます。

  • 設定資料 09
  • 設定資料 10
  • 設定資料 11
  • 設定資料 12

――主題曲の平沢進さんの参加には、どなたかの意向があったのでしょうか。

STUDIO4℃、三浦先生、窪岡監督の強い意向があり、オープニングで願いがかないました。主題曲は「黄金時代篇」共通で、原曲に合わせてオープニングのアニメーションの演出をしています。

――音楽は、鷺巣詩郎さんですよね。

すごい方ですね。自分でシーンと音楽の演出プランを立て、フランスでスコアを書いて、ロンドンで収録、日本でミックスダウンしています。

――参加クリエイターは延べ何人ぐらいでしょうか?

400~500人ぐらいです。1部2部3部と順番に制作しているのではなくて、ほぼ平行して制作しています。そうしないと1年で3本公開できないんです。

――キャスティングについて、お聞かせ下さい。

性格や生き方のスタイルが似ていたり、体型や骨格が似ているのは大事で、ガタイのいい人の声は、ガタイのいい人の声になる。骨格が似ると、その骨格から出る声の響きも似ます。原作だけでは声のイメージは人によってまちまちですが、どこかキャラクターと似ているところを見つけて、皆が納得するんですよね。1人がいいというのではなく、今回のキャスティングは、皆できちんと確認して、ブレのない選び方をしています。

「断罪篇」や「千年帝国の鷹篇」を作るぞーということで、スタートしていました

――「黄金時代篇」でやると決まったのはいつ頃でしょうか。

シナリオ開発の最後のほうです。当初は、(原作の)「断罪篇」や「千年帝国の鷹篇」を作るぞーということで、スタートしていました。黒い剣士・ガッツが登場する、最初の「黒い剣士篇」がないとマズイんじゃないの?とか、「ロストチルドレン」は話が独立しているからOVAのほうがいいんじゃないの?など、いろんな意見が出ました。

「黄金時代篇」は、TVアニメ(「剣風伝奇ベルセルク」)があり、その出来がいいんですよ。原作では「黄金時代篇」だけでも10巻分ぐらいあるのでていねいに描いていかないと、三浦先生が構築した人間関係やいいエピソードを描ききれません。

映画としてやる際には、どうしても大きな流れを伝えるだけになってしまいがちなので、「黄金時代篇」はTVアニメにお任せして、ほぼOVAを作るということに方針が決まったところに、脚本の大河内さんがやってきて、「黄金時代篇」で劇場版1本しかありえません、と言ったところで、ドーンと変わりましたね。

――当初から、「黄金時代篇」は3部作の予定だったのでしょうか。

2時間半で1本でやりましょうということで、2時間半のシナリオが上がり、これは本当に2時間半でできるんだろうかと検討していたときに、監督が「大丈夫です。2時間半で上げます」と、固い決意で仰ったのを信じました(笑)。

――1年で3本やるのは、いつ決まったのでしょうか。

絵コンテは14名。シーンごとに手分けして積み上げたのですが、監督がチェックをすると演技が足されて、もともと1本だったものを、3本に分けざるを得ない。非常に意味のあるストーリー、だからちゃんと見せたいという選択なので、本来ならば「2月、3月、4月公開」にしたい、という気持ちで作り始めました。

  • コンテ 01
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ヒットすれば、「黄金時代篇」以降もSTUDIO4℃が制作します!!

――注目シーンはありますか。

最初の攻城戦はハイブリッドで作られているので見応えあると思います。個人的にゾッドが好きなので、ゾッドのシーンもいいですし、ユリウス邸での隙のない演出は、素晴らしいものがありますね。ガッツとグリフィスが友情を語るシーンがあるのですが、鷺巣さんの音楽がフィットしていて、ここも素晴らしいです。

鷹の団の中でのぶつかり合い、切なくも大切な友情、音楽とサウンドエフェクトと映像がマッチしていて、盛り上がって、見入ってしまうシーンが数々あるので、オススメは沢山あります。

――「黄金時代篇」以降もSTUDIO4℃が制作するのでしょうか。

ヒットすれば!!みなさん劇場で観てくださ~~~い。

――ありがとうございました。

  • STUDIO4℃ 社内風景 01
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