『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』特集

監督 窪岡俊之さん インタビュー

初映画監督作にして長編三部作を織り上げる窪岡俊之さん。STUDIO4℃プロデューサー・田中栄子さんも「たった1行のト書きを独自の解釈で豊かに膨らませていくその熱量と説得力は彼ならでは」と信頼を寄せています。
今回のインタビューでは、「ベルセルク」が映画化されるまでのこと、制作の技術的なこと、黄金時代篇以降の動きなどもお聞きしました。

黄金時代篇以降もプロジェクトとしては、やる気まんまんです!

――「ベルセルク」の映画化は、2008年のパイロット版がきっかけですが、原作を読んだ時点で、映画化するしかないと思われたのでしょうか。

最初は、パイロット版を作って、三浦先生のGOサインが出れば、次に進めるという前提でお話があり、劇場化ではなく、まずはOVAで作っていこうかという話で始まりました。

どこから作ろうということでは、かなり揉めたんですが、脚本の大河内さんから、黄金時代篇をコアにして進めたらいいんじゃないかという、プロデューサー的な視点で提案を受け、まずは劇場作品として黄金時代篇をまるごと作ってしまおうという話に”突然”なりました。

監督 窪岡俊之さん インタビュー 01

最初は1本の予定でした。「2時間半1本で収まりますか?」と言われて、「収まります、多分…」みたいな感じで(笑)。でも、収まらなかったので、3本に分けるのがベストという形になり、今に至ります。

――黄金時代篇以降の可能性もあるのでしょうか。

映画の興業成績など条件はあるかもしれませんが、プロジェクトとしては、やる気まんまんです! 三浦先生からも、「黒ガッツ(黒い剣士)」をやってくれという話は出ていました。

――TVアニメ(「剣風伝奇ベルセルク」)の影響はあるのでしょうか。

TVアニメは見たことがありませんでした。どういう構成なのか興味があったので、映画製作が決まってから見ました。影響があったとすれば、TVアニメは原作にかなり忠実で、キャラクターの心情をモノローグで説明しているところが多かったのですが、そこが少し気になりました。

モノローグは確実で効率的な手法なのですが、思ったことを全部喋ってしまうと、答えが1つに決まって、推して知るべし、のようなニュアンスがなくなってしまいがちです。使わなければわからないところも多いけど、なるべくなら映像で語らせたいと思いました。

とにかく、すべて手描きしていたというのはすごいことですね。当時のスタッフはよく頑張ったと思います。演出的にもレベルは高く、今見ても見劣りしませんが、TVならではの制約はあったので、映画でもまだまだ表現できることはあるなと思いました。

バイオレンスとエロスは、基本的には全部やる!

――バイオレンスとエロスは、どこまで再現されるのでしょうか。

基本的には、全部やる! それなくして「ベルセルク」ではないと思っています。やめてくれという話もないので、気にしないでやっています。

――黄金時代篇で困難なことはありましたか。

(時間制約の)枠が決まっているので、入らないエピソードが結構ありました。

監督 窪岡俊之さん インタビュー 02

名シーンも多いので、削ったらファンが怒るだろうなとは思いましたが、1つのシーンを入れるためには、それが自然にはまる状況も作らなければいけないので、簡単にいかないのです。数カットだけポンと足してできるなら本当に楽なんですが。

また、今回はガッツ、グリフィス、キャスカの3人を軸に構成しているので、彼らのドラマに直接関わらないシーンは、どんなに面白くてもカットの対象になりました。ただ、いろんなキャラクターがそこにいて、ドラマを繰り広げていくことが作品の幅になっているので、今回は入れられなかったのですが、何かの形でやれたらいいなとは思ってます。

――スピンオフとして出てくる可能性はあるのでしょうか。

企画があるのではなく、私の勝手な妄想ですが、OVAで何本か分けて作るみたいな話があるのであれば、入ると思います。

――撮影で困難なことはありましたか。

制作上で難易度が高かったところ。単純に物量、モブ(群衆)シーン、ゾッドが出てくるシーン、馬かな。

ガッツがコルカス達に襲われるシーンが地味に大変でした。馬の動きをまともに見せているので、おかしく見えないようにするまでにかなり苦労していたようです。モブ(群衆)シーンより、こういった誰もが見たことがある馬などを違和感なく動かすほうがよほど難しいですね。

ゾッドは誰も見たことがない生き物ですが、実在の猛獣のようなリアルさを持ったキャラクターなので、これまたごまかしがきかない。重量感や筋肉の表現や毛の表現、セルのキャラクターとして見ても違和感がなく、同時に手描きでは描けない表現を求めたので、こちらも大変でした。でも理想に近いものができたので、よかったです。

宣伝部と一緒になってお客さんを罠にかけようとしています(笑)

――最初に2時間半に収めようという話がありましたが、どういう風に三部作に分けたのでしょうか。

とても難しかったです。等分が一番いいのですが、それではうまく区切ることができない。脚本は本来、黄金時代1本の中でヤマ場がある構成だったので、三部作に分けて、それぞれが、単独でまとまる構成にはなっていませんでした。脚本の大河内氏には申し訳ないことをしたと思います。

監督 窪岡俊之さん インタビュー 03

それでも分けるとしたらこの辺りだろうと決めたのが、第1章の終わりです。3人の運命はいかに?的に盛り上げて終わる演出にしています。

――流れの中での起承転結があると思うんですが、3つ分けた中でもドラマを作っていきますよね。

土壇場まで揉めていて、もっと後のシーンまで第1章に入れたかったんですが、無理でした(笑)。

――第1章だけ見ると、グリフィスとガッツの友情がさわやかに描かれていますが、実はそうではないところへ落ちていくということですよね。

宣伝部と一緒になってお客さんを罠にかけようとしています(笑)。

――あそこで終わると気になりますよね。

第3章まで全部見た人はどうなるんでしょうね(笑)。黄金時代篇のラストは、そこで映画終わって大丈夫?という話は三浦先生からも強く出ていましたし、議論しました。原作にないようなシーンの追加はなく、どういう形になるかは、第3章を見てくださいとしか言いようがないですけど、基本的には“何か温かい気持ちになって劇場を出ていく”という作品ではありません(一同笑)。

――そのほか、映画製作ではどのようなご苦労がありましたか。

映画は、時間制限があるのでキャラクターを描くのには、あまり向いていないんです。ストーリーを展開していくのが精一杯だったりして、そこに世界観とか、キャラクターの面白さを絡めていくと、どうしても時間が足らなくなっていくんですね。

カットせざるを得ないシーンもあったので、違和感を感じないように、行間を埋めていくとか、セリフを足していくとかの調整が意外と多くて、実は脚本より、セリフの量は倍くらいに増えています。脚本になかったシーンもいくつか増えたりしている。多少なりとも、観客が自然な流れに感じてくれたら嬉しいのですが。

まるで三浦先生が僕を抜擢したようなデマが広がっていますが、デマです(笑)

――三浦先生は、どのような感想を持たれていましたか。

「ほっとした」と言っていました。実は、制作途中の、まだOPも付いていない、9割程度完成した段階のものを1回ご覧になっているんですね。そのときは、まだ未完成のシーンも多かったので「ん?」と思われていた箇所もあったようなのですが、完成版を一緒に見たときは、「パイロット版のような完成度だったので、よかった」と言っていただきました。

――三浦先生は、監督が関わられていた「アイドルマスター」をかなりお好きだと伺いましたが、何かあったのでしょうか。

僕が「アイマス」に関わっていたということは、企画がGOするまではご存知なかったですね。パイロット版のときは、先生はまだアイマスにはまってなかったはずですし。

監督 窪岡俊之さん インタビュー 04

まるで三浦先生が抜擢したようなデマが広がっていますが、デマです(笑)。

――偶然ですよね。

因果律ですね(笑)。

自己採点するとしたら90点以上はあります(笑)

――監督ご自身が一観客としてご覧になった感想は。

一観客として見るのは難しいんですけど、普通に面白いと思いました。強い手応えを得ながら作っていたので出来には自信があったんです。

「絶対面白い!つまらないという人いないだろう」ぐらいに(笑)。ただ、あ~失敗したなとか、直せなかったなとか、制作者としての悔いは、そこかしこにありますけどね。

監督 窪岡俊之さん インタビュー 05

――監督ご自身、自己採点するとしたら何点ですか?

90点以上はあります(笑)。

――見どころを教えてください。

「全部」というと月並みなんですが、どのシーンも工夫していますし、スタッフも高いレベルの仕事をしてくれているので、これがベルセルクの世界だ!というところを、楽しんでもらえたらと思っています。

――ベルセルクは男性が好む作品なんですが、女性へのアピールポイントなどあればお願いします。

実は、原作自体が女性受けするんじゃないかと。いい男同士が恋愛にも似たような話をしますし、デザインと作画監督の恩田さんの絵に色気があるので、クラっとくるのではないかと思います。

――女性としては、想像しやすいですよね。

思わせぶりなことをいっぱい言っていて、予告編を見た方は、これはどういう映画なんだと思うかもしれませんね(笑)。

――同人チックなものが出るかもしれないですね。

そういう気分で本編見るとギャップに驚くかもしれませんが(笑)、そういうことも狙っているので期待してください(笑)。

――ありがとうございました。