明治大学大学院理工学研究科「新領域創造専攻」発足記念シンポジウム「TENORI-ON + 初音ミク + BiND + 元気ロケッツ × 武田双雲」レポート 明治大学アニメ・声優研究会

2007年12月06日 19:000

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明治大学大学院理工学研究科「新領域創造専攻」発足記念シンポジウム「TENORI-ON + 初音ミク + BiND + 元気ロケッツ × 武田双雲」レポート 明治大学アニメ・声優研究会「明治大学アニメ・声優研究会」連載コラム第4回


明治大学 大学院 理工学研究科 新領域創造専攻 発足記念シンポジウム
【 第2部 ディジタルコンテンツ系】 「TENORI-ON + 初音ミク + BiND + 元気ロケッツ × 武田双雲」参加レポート (文:明治大学アニメ・声優研究会、撮影:アキバ総研)


国際日本学部の設立を発表したばかりの我らが明治大学だが、どうやら大学院にも新たな専攻が誕生する模様。「明治大学大学院 理工学研究科 新領域創造専攻」というなんとも解りづらい名前だが、その中身は「安全学系」「数理ビジネス系」「ディジタルコンテンツ系」という3つの学系に分かれるとのことだ。

そんな不思議な専攻の発足記念シンポジウムが開催されるとの情報を聞きつけた我々「明治大学アニメ・声優研究会」は、日々、数多のディジタルコンテンツに触れている身として後学のために、早速足を運んでみることにした。
正直なことを言えば学内で配布されていた「初音ミク」が大きく書かれたビラに釣られたのだ(笑)


会場に入ると、いかにもクラブでかかっていそうなトランスミュージックが我々を出迎えてくれた。これからライブでも始まるのかと思わせるようなBGM(本イベントのテーマ曲)は、確かに既存の枠にとらわれない学問を研究していく「新領域創造専攻」にはふさわしいのかもしれない。
会場の最前列に座っていらっしゃったお歴々には多少耳障りだったご様子(苦笑)

まず始めは『メディアアーティスト岩井俊雄の到達点・21世紀の楽器 TENORI-ON』ということで、「ウゴウゴルーガ」やPS2用ゲーム「びっくりマウス」などで知られるメディアアーティストの岩井俊雄氏によるトークが行われた。氏は自ら開発した楽器「TENORI-ON」を片手に、その楽器が開発されるにいたったプロセスを熱く語ってくれた。「TENORI-ON」とはLED付きスイッチが16×16のグリッドに敷き詰められており、このスイッチを押すことで音が出るという楽器で、複数のスイッチを押すと次第に複雑な音になっていき、曲として成立していくというもの。既存の楽器とは全く違った操作性を持っているので、音楽を聞くことが好きで、自分で表現してみたいけれども既存の楽器が難しくて・・・、という人にこそ「TENORI-ON」を使ってほしいとのこと。トークの最後には開発に携わったYAMAHAの方とともに「TENORI-ON」によるライブセッションが行われ、一旦幕となった。

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岩井氏は元々音楽を使ったゲームを作っており、スーパーファミコンにおいてマウスを使った音楽制作ゲームを製作したこともあるという。
「TENORI-ON」の元となった「音楽のチェス」チェス盤を模したボードの上にボールを置くことで、ボードの位置に対応した音色が再生される。
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「音楽のチェス」を小型化するアプローチとしてワンダースワンや携帯電話のアプリも考えたという。
十字キーや決定ボタンを使わずにより直感的な操作を求め、両手で持てる位のサイズを目指し製作が行われた。
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「今世界で一番使われている楽器はパソコンだが、それではライブなどで演奏の様子などを見て楽しむことが出来ない」
「デジタル楽器は、鍵盤や弦楽器など従来のクラシック楽器のような形状をしている必要性が無い」「機能が表面に出ており、直感的に操作できるインターフェイスを目指した」
演奏準備に入る岩井氏。右側に立っている方はYAMAHAの「TENORI-ON」開発担当者

休憩を挟み、後半のパネルディスカッションが始まった。「ディジタルコンテンツの未来」このパネルディスカッションの参加者は以下の6人。

オーガナイザー:宮下芳明(明治大学)  
パネリスト:岩井俊雄 (メディアアーティスト「TENORI-ON」)   
       佐々木渉 (クリプトン・フューチャー・メディア(株) 「初音ミク」企画)   
       武田双雲 (書道家)  
       平野友康 ((株)デジタルステージ 代表/開発プロデューサー )  
       水口哲也 (「Rez」「元気ロケッツ」プロデューサー)

誰もが若い方で、平均年齢が30歳代前半くらいになるのではないだろうか。こういったパネルディスカッションに参加される方というのは結構年季の入った方が多いというイメージを持っていた我々にとってこれは衝撃的だった。何せオーガナイザーの宮下先生ですら31歳なのだ。

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プレゼンテーションの先陣を切るのは、今や社会現象ともなっている大ヒットDTMソフト「初音ミク」の企画担当であり、「初音ミク」のパパとも言えるクリプトン・フューチャー・メディアの「佐々木渉」氏。画面に「初音ミク」のキャラクターが映し出された瞬間、会場の雰囲気が「待ってました」といわんばかりになったのは、やはりそれだけ注目されているということなのだろう。
「初音ミク」のデモソングを流しながら行われた、クリンプトンという会社に関する説明の後に、VOCALOIDの実演が行われた。

この実演では発売予定の製品「鏡音リン」を用い、マウスを使って音を置いていくプロセスや、ボイスに設定されたステータス値を変化させていき、それに伴う声の変化の様子を見ることが出来た。
「初音ミク」のキャラクターについては、社内から「やはり楽器にあんなアニメチックな女の子の絵を付けるのはいかがなものか」という意見もあったという。しかし「思春期の女の子の声をイメージしており、バーチャルアイドル歌手という位置づけで声優さんにも声を依頼したから、声にリアリティを持たせる意味でもキャラクターがいたほうがいい」とのことでツインテールにミニスカ絶対領域装備の「初音ミク」というキャラクターが誕生し、結果的にニコニコ動画での盛り上がりにつながったという。

佐々木氏曰く、「ニコニコ動画の職人さんたちが初音ミクの絵からキャラクターを想像して、絵描きさんたちが各々自由なポーズを取らせたり、デフォルメした絵を描いたりしてくれている。もちろん初音ミクにはこんな曲が似合うだろう、ということを考えて色々な曲を初音ミクに歌わせてくれている人もいる。初音ミクというキャラクターの出発点はクリプトンかもしれないが、みんなが自由にキャラクターを考えることで初音ミクはどんどん派生していった。今インターネットで共有されている初音ミクのキャラクター性はユーザーが思い思いの発想で肉付けしてくれたもの。」

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また、VOCALOID CVシリーズの波及効果としての4点を挙げていた。

1.DTM領域における歌声と歌詞の重要性の認識
 -日本人というのは歌詞の中のドラマを楽しむ人が多い。VOCALOIDは今までのMIDI機材では出来なかった歌詞の表現が出来る。

2.初音ミクというシンボルを媒介とした親近感ある歌の認識、共有
 -動画共有サイトで初音ミクを追っかけて楽しみ、聞いているうちに自分も作りたくなってくる。そうなってくると互いに影響しあっていい作品が生まれる。そういう意味で初音ミクを全員で共有することで動画共有サイトの新たな可能性が開けるかもしれない。

3.キャラクタービジネス的な関連サービスの展開
 -初音ミクというキャラクターを使った音楽ソフト以外の関連製品が作れるかもしれない。これは商業ベースであざとくやると今ネット上でユーザーが親近感を持って共有してくれている「初音ミク」のキャラクターのトータルイメージを一瞬で崩す可能性もあるので、やるなら慎重にやらないといけない。

4.今後将来における「声」というサウンドの重要性
 -声というのは、キャラクターを認識する重要な要素。女の人で低い声なら多くの人はふくよかな女性を想像するだろう。VOCALOIDのソフトウェアに身長や体重といったパラメータを乗せて、それを変化させることで体格による声の変化をエミュレートできたら面白いかもしれない。そういう意味では「初音ミク」の身長や体重の設定は適当に付けたものではなく、ミクの声質からおおまかに逆算して、違和感の無いように設定した。


VOCALOIDシリーズの予定トピックとしては「新しいWebサービスの試験運用」を挙げ、ユーザー同士のコミュニケーションの場を設け、互いに刺激し合ってクリエイティブな活動を応援していきたい、とのこと。(この「新しいWebサービス」はこのシンポジウムの翌日、12月3日に「ピアプロ」として公開された。すでに多くの楽曲やイラストがアップされている)

また、注目の新作「鏡音リン」については「1つのパッケージで2人分の声が入っている。声優さんに鏡音リンと大きく離れたキャラクターボイスを作ってもらい、2人分のキャラクターボイスをサンプリングすることで1人2役のデュエットなども出来るようになっている。鏡写しの2つの違う声を収録しているので「鏡音」という苗字にしました」と語っていた。(この「鏡写しの声」については「ピアプロ」公開と同じ日に「鏡音リン・レン」の発表がなされた)さらに、鏡音リンの製作過程エピソードなども語られた。佐々木氏の「ミクよりコストはかかるが、ユーザーのために還元したい。自分さえなんとか頑張れば2人分の声を収録して販売できる」といった本心が印象的だった。

最後に製作者としての展望として「人間には出来ない表現をVOCALOIDではしてみたい。そこで、日本のアニメなどのデフォルメ文化との調和も望めるのではないか」と語り、「初音ミク」尽くしのプレゼンテーションは終了となった。

オーガナイザーの宮下先生はタイムキープをするのをすっかり忘れていたらしく「僕もみっくみくにされていて時間を忘れてました(笑)」と誤魔化すシーンもあった。


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会場まるごとみっくみっくにされたところで、プレゼンテーションは次の方にバトンタッチされた。時間の都合上他の3人の方のプレゼンテーションが短くなってしまったが、印象に残った点をまとめてみようと思う。

書道家「武田双雲」氏
 -アナログの書道のプロセスをデジタル化して、書道で書いた文字をパソコンで弄って飛ばして遊ぶとか、そういう個性的な書道を行ってきた。デジタルが全ていいというわけではなく、アナログ、たとえば書道なら筆圧とか自然の質感の素晴らしさとか、そういったものはデジタルな存在ではまだまだ難しい。デジタルとかアナログとかそういうジャンルの壁を越えて互いに影響しあった先に新しいものが出来るのではないか。

(株)デジタルステージ代表「平野友康」氏
 -これからの時代は、Webなどの知識が無くても簡単にプロクオリティ並みの作品が誰でも作れるようにならないといけない。そういう意味ではこれからは編集が一番大切になってくる。Webを作るのは確かに大変で、作るだけ作って大多数のページが「工事中」のまま放置になっていることもある。それならWebのデザイン作成とそれに伴う技術を勉強する時間を、中身に振り分けられるようなソフトを作ってみた。編集×技術力=自分なりの作品になる。デザイナーの考える未来を形にし、ゆくゆくは全ての人が広い意味でのデザイナーになれればいいと思う。

「Rez」「元気ロケッツ」プロデューサー「水口哲也」氏
 -「Rez」というシューティングゲームでは、音とビジュアルの連動を目指し、ターゲット捕捉(コール)とショットによる破壊(レスポンス)がリズムになるように考えて製作した。気持ちいいビジュアルやリズムをプログラム化したと言ってもいい。映像や音楽を利用したインタラクティブメディアであるゲームは言語の壁を越えて世界中の人に何かを伝えることが出来るメディアだと思う。

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書道家「武田双雲」氏
「世界66億人の人のうち何億人に自分が影響を与えられるのか、挑戦してみたい」
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(株)デジタルステージ 代表/開発プロデューサー「平野友康」氏
「大企業は嫌いなんで(笑)、大企業に求められていてもなかなか作ってくれないソフトウェアを自分達で作りたい」
デジタルステージが製作したソフトウェアの実演も行われた。
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「Rez」「元気ロケッツ」プロデューサー「水口哲也」氏
「音楽と映像とが融合したインタラクティブメディアであるゲームを利用すれば、言語の壁を越えて世界中の人に自分の作ったモノが届く。これは非常に面白いことだと思う。」
自らがプロデュースした音楽ユニット「元気ロケッツ」のビデオクリップ上映もあった。

ゲストの4人の熱のこもったプレゼンテーションの後、さあディスカッションだと思ったところでどうやらここで時間切れの模様。最後に「理工学研究科新領域創造専攻」の説明と、パネルディスカッション第2回を望む発言がオーガナイザーの宮下先生からあり、盛り上がったシンポジウムはお開きとなった。

ディジタルコンテンツ業界の第一線で活躍するメンバーが一堂に会した今回のシンポジウムでは、かなり刺激的な話を聞くことが出来た。視覚的に解りやすい実演やパフォーマンスが多かったのも特徴的で、途中で息切れすることなく聞いていられた。そんな中で特に「アナログの感覚+デジタルなテクノロジーが新しい化学反応を起こし、今までありえなかったような作品を作り出す」という言葉が印象深く残った。この言葉はアニメ・ゲームなどのディジタルコンテンツを研究する我々「明治大学アニメ・声優研究会」にとって頭に留めて置かなければいけないことかもしれない。こんな楽しいシンポジウムの第2回があるならば、ぜひ参加したいと思う。


<<アキバ総研より>>

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