ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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世紀末拳士たちが織りなす愛と哀

観賞手段:テレビ
「梅雨を吹き飛ばす、カラッと楽しめるアニメ」といえば「北斗の拳」。幾度となくアニメ化されているが、本稿でオススメしたいのは原点となる1984年版だ。
見所の一つは、核戦争後の世界にのさばる悪党どもを、それ以上に強いケンシロウ(ケン)が北斗神拳の秘技で倒していく爽快感である。
本作の悪党どもは、実に味がある連中である。筋骨隆々の身体をプロテクターで包んだモヒカンの大男がオノや棍棒を振るって弱い村人を虐げるばかりか、ケンと戦う際もなめた口を利くふてぶてしさだ。しかし、ケンが北斗神拳で一撃するや、その態度は一変。命乞いをした挙げ句に奇妙な悲鳴を上げて爆発四散するのだから爽快である。悪党どもは頭が良くない上に欲望に忠実。「ヒャッハー!」と雄叫びを上げながらバギーで荒野を疾駆する様には謎の解放感がある。働く悪事はIQ低め。「人当たりのいい紳士を装っていながら、自分が血を流すと一変して凶暴になる」「自分より出来のいい弟が憎くて仕方ない」「息をするのも面倒くさい」など人間臭い一面もあるのが面白い。悪党どもは「北斗の拳」陰の主役といっても過言ではないだろう。そして、この1984年版には人間を大砲で飛ばす「南斗人間砲弾」、鐘の音で死者を操る「南斗暗鐘拳」、ダイナマイトを投げる「南斗爆殺拳」、列車砲で相手を撃つ「南斗列車砲」といった奇拳怪拳が登場し、悪党どもの破天荒な魅力が増している。これらの技は当時から「拳法でもなんでもないのでは?」とツッコミを受けていたが、40年を経てなお愉快であり、じめじめした梅雨に爽やかな風を提供してくれるだろう。
ケンが悪党どもをお仕置きする北斗神拳が、ただの暴力技ではないところもポイントだろう。人体の経絡秘孔(ツボのようなもの)を突けば、3秒後に人体が破裂する、身体から骨が飛び出す、記憶を消す、全身の痛感が倍増する、自分の意志に反して後ろへ歩き続ける、快楽の中で身体が爆発するなど様々な現象が起こる。「こんどの悪党どもはどんな風に倒されるんだろう?」とワクワクしながらバトルに見入ることができる。それまで好き放題に暴れていた悪党が「ひでぶ」だの「あわびゅ」だのといった奇妙な叫びとともに爆発する様には爽快感があるし、北斗神拳が起こすのはまずあり得ない現象なので陰惨さも薄い。この1984年版は午後7時というゴールデンタイムに放映されていたこともあり、爆発を光で隠すといった配慮がされているので、グロが苦手な人でも安心だ。
そして、もう一つの魅力が、ラオウ、トキ、レイ、ユダ、サウザー、シュウ、フドウ、ジュウザなど拳士たちの描く人間ドラマ。ネタバレを避けるため詳しくは書けないが、それぞれに愛や哀しみを秘めた彼らが激しくぶつかり合う様が視聴者の心を打つ。これこそは「北斗の拳」が40年を越えて愛される理由だ。試しに、周囲のリアルタイム世代に話を振ってみるといい。拳士たちについて熱く語り続けてくれることだろう。「北斗の拳」は紛れもなく愛や哀の物語なのだ。
悪党どもが爆発四散する様を見てスカっとしつつ、拳士たちの戦いで涙するのが「北斗の拳」。様々な名台詞はネットミームや慣用句となり、連載41年後の今も語り継がれている、力ある作品だ。ジメジメする梅雨ではあるが、原点である本作を見つつ、原作も読み返して「北斗の拳」の良さを再発見するのも楽しいのではないだろうか。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
4.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2024-05-31 17:52:57

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